技術革新の先で人は「永遠の命」を求めるのか。『NEO PORTRAITS』から考える、変わるもの、変わらないもの

この半年間、ChatGPTを始めとした生成AIが、社会や経済に大きなインパクトを残している。まるで中に人間がいるかのようなリアルな会話、逆に人には不可能な速度で描かれる高精度なイラストや画像を通して、「わたしの仕事が奪われるのでは」といった漠然とした不安を感じている人も少なくないだろう。

そんな時代の転換点を目の前にしたいま、もっとも求められているのは、「これから何が変わり、何が変わらないのか」を考えることなのではないだろうか? そして、そのヒントとなるのが、私たちが親しんできた文学やマンガ、映画、アニメ、音楽といったカルチャーでありアート作品なのかもしれない。

ここで紹介する『NEO PORTRAITS』は、まさにそんなヒントとなるであろう2023年発表のショートフィルムだ。

『NEO PORTRAITS』本編

2023年の日本から地続きの、少し先にある未来

『NEO PORTRAITS』の舞台は、少し先の未来。そこではテクノロジーの進歩によって人とデバイスの境目は曖昧となり、「電子アンドロイド」というかたちをとって、ある種の永遠の命すら実現されている世界観だ。

しかし、作中で描かれる世界の様子は、いま私たちが目にしている風景とほとんど何も変わらない。むしろ田園風景が広がる田舎町が舞台となっているぶん、現実よりも本作の世界がノスタルジックに感じられるだろう。

そこで思い出すのは、数々の名作たちが描いてきた、えも言われぬリアリティーを持った「未来のイメージ」たちだ。例えば『ウルトラセブン』屈指の名エピソードとして知られる第8話「狙われた街」で、主人公モロボシ・ダンとメトロン星人がちゃぶ台の前であぐらを組んで向かい合うシーン。アニメ『トップをねらえ!』に登場する、電車を思わせる車内広告が貼られた宇宙エレベーター(正確には「軌道ロープウェイ」)。そして、宮﨑駿監督『On Your Mark』の合成塩サバやバイオ酢蛸、そして「本物」のやきとりを時価で提供する居酒屋など……。

もちろん異常なまでにクリーンで輝いた未来も、逆に荒廃し切ったサイバーパンクな世界も魅力的だが、どこか生活臭に満ちていてノスタルジーを喚起させるイメージのほうが、より実感を持って「近い将来」を感じさせるものではないだろうか。

本作はアジア最大級の国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)』とNTTが協力して始動した、「科学技術の革新と人間らしい生活の理想の共存の形」を示すショートフィルムを創作するプロジェクトで公募された原案から生まれた作品である。

本作の企画・制作を担当したNTT広報室の担当部長・佐藤孝一さんと、同じく広報室の石丸諒さんは、実際に『NEO PORTRAITS』の原案となった倉田健次さんによる『What a Wonderful World』について、次のように語っている。

佐藤:国内外のクリエイターから良い原案が集まり、甲乙つけ難かったのですが、最終的に倉田さんの原案が我々の心を掴んだのは、どこかノスタルジーがある風景に未来のテクノロジーを取り込んでくれたことでした。

石丸:実際に40年後の未来を想像してみても、日本の風景全体はそこまで未来的なものにはならず、ほとんどいまと変わらないまま、デバイスだけが進化していると思うんです。だから、倉田さんの原案が持つリアリティーがとても良いと思いました。

かつてないほどリアルに感じられる「永遠の命」

そして、この『NEO PORTRAITS』が描く物語の中心にあるのは、死者の生前の記録からつくり出す対話可能なAI「電子アンドロイド」だ。

「いつかこんな未来が来るかもね」。少し前までの私たちなら思っていたかもしれない。しかし、高度な音声合成技術や対話可能なChatGPTを体験した現在からすると、すぐそこにある未来のように感じられるだろう。

佐藤さんは「本企画スタート時にはChatGPTのムーブメントは来ていなかった」と前置きしつつも、集まった原案の傾向として「死」をテーマとした作品が多かったことを指摘する。

佐藤:技術の進歩の先に人が求めるものは、もしかすると「永遠の命」ということなのかもしれません。クリエイターのみなさんに着想としていただいたカンファレンスのなかでも「死」は議論のテーマとなっていたので、もちろんその影響もあると思いますが、やはり終着点は「命とは?」「死とは?」ということになるんでしょうね。

そして本作で描かれる「電子アンドロイド」は、NTTもそれに近いものを現実に想定して研究を続けているのだという。

石丸:「デジタルツインコンピューティング」と呼ばれている、人の行動などの情報をフィードバックすることによって本人らしく振る舞うAIをつくる考えですね。これは例えば「自分が海外に行ったらどんな経験ができるのか?」についての実験をバーチャルで行ない、それを自分にフィードバックすることで実際にそれを経験できるようになるというものです。

我々NTTが多くの企業と一緒に推進しているIOWN構想の先に、中長期的な計画として位置づけられています。もちろん『NEO PORTRAITS』で描かれているように、死んだ人を「電子アンドロイド」として蘇らせるということも、技術の応用としてはもしかすると可能かもしれませんが、悪用の可能性や倫理的な問題も含め、我々からそうした発信はしていませんでした。

そう、本作『NEO PORTRAITS』の最大のおもしろさの一つは、そこにある。正解のない難しいテーマを、あくまで「問いかけ」しているのだ。主人公のタクミは「電子アンドロイド」に対して懐疑的であり、劇中での悲劇を通してその態度を軟化させていくのだが、本作はそれを決してハッピーエンドともバッドエンドとも断定しない。いくつかの仄めかしを散りばめながら、あくまでも観客に問う。そんな作品に結晶しているのだ。

佐藤:我々が独自につくっていたら、絶対にできなかったものが生まれました。今回のプロジェクトで一番良かったのは、まさにそこだと思います。我々NTTのなかで内容を議論して、広告代理店さんに発注して制作していたら、何回やってもこういう作品になっていないと思うんです。何も代理店さんが悪いと言っているわけではなく、PR動画では絶対にできないことを、ショートフィルムとしてクリエイターさんたちがかたちにしてくれたということなんです。

『NEO PORTRAITS』メイキング映像

「IOWN構想」がつくる未来で、私たちが考えるべきこと

『NEO PORTRAIT』は、NTTが多くの企業と一緒に推進している「IOWN構想」をきっかけとして制作されたショートフィルムであり、決してそのPR動画ではない。だが、本作が提示して問いかけた未来の多くは「IOWN構想」の先にあるものでもあるという。

「IOWN構想」とは「Innovative Optical and Wireless Network」の略であり、公式では「光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信、膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想」と説明されている。

佐藤:ちょっと大げさな言い方をするとIOWNとは「人と人とのコミュニケーションのかたちを変える可能性を持っているもの」だと思います。例えば、インターネットを使ったビデオ会議では仕組み上どうしてもタイムラグが発生してしまい、現実の会話で行なえる掛け合いができません。

このもどかしさを若い世代は「ビデオ会議はターン制」と表現しているようですが、IOWNは従来のインターネットと違い、データを分割せずそのまま送信できるようになるので、あたかも人が横にいるようなコミュニケーションができるようになります。

そんな現在の通信とは別次元の高速・大容量・低遅延のデータ送受信を可能とする一方、非常に省電力でそれを実現するのもIOWNの特徴です。近年のトレンド的な話題であるスマートシティや自動運転も、IOWNの基盤のうえに成り立つものですね。

驚くべきことに、このIOWNは2030年の実現をめざして、研究開発が始められているという。2030年には『NEO PORTRAITS』で描かれている「電子アンドロイド」は実現されているのだろうか?

佐藤:これは私見ですが「電子アンドロイド」のようなデジタルツインは倫理的な問題も含めて、2030年の社会にインストールされるのはかなり難しいだろうと思っています。自動運転についても同様で、現実の道路には既存の車と自動運転車が共存することになるので、まだ2030年時点では難しいでしょう。

ただ、「バイオデジタルツイン」を使って薬の副作用などを精緻にシミュレーションすることでの医療の進歩や、高速道路など限られたエリアでの自動運転は、2030年の段階で私たちの生活のなかに入ってきているかもしれないです。

生成系AIの発達や、VR技術の進歩、そしてIOWN構想のような革新的インフラ。それらが絡み合うことで、新たなフェーズの未来がすぐそこまで来ているのだ。だが『NEO PORTRAITS』が問いかけるように、そうした技術の活用には、人間の意識の適応や哲学が不可欠となるはずだ。

技術が何を変え、何を変えないのか。私たちがそこで何を変え、何を変えたくないと思うのか。いま、それを考えるタイミングがやってきているのかもしれない。

作品情報
『NEO PORTRAITS』

監督:GAZEBO
キャスト:原田琥之佑、納葉、おぎのきみ子、加瀬澤拓未、菅野貴夫、土屋いくみ


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