かつて炭坑や重工業で栄え、今年で市制60周年を迎えた北九州市。人口は約91万人、福岡市に次ぐ九州第2の都市で、JR・新幹線・モノレールが乗り入れるターミナル駅の小倉駅や、東京・アジアへの直通便が運行する北九州空港など、利便性の高い都市機能を持ちながらも海や山が身近に感じられる「都市と自然」が融合している。
関門海峡を挟んで本州と繋がる九州の陸の玄関口でもあり、古くから人やモノ、情報を受け入れ、多様な文化を育んできた。
市の中心市街地である小倉は、江戸時代から小倉城の城下町として栄えてきた商業エリア。その起点となる小倉駅前に広がる商店街を歩くと、ローカルな飲食店が立ち並び、若い店主やスタッフが活躍するカフェやバー、アパレルショップなどが点在している。
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実は、北九州市の民間賃貸家賃は東京都に比べて約6割程度安い。起業を支援する市のバックアップもあり、若者が起業しやすい背景がある。
そんな北九州市の多様な魅力をポップなフィルターを通して表現し発信しているのが「ニュー北九州シティ」プロジェクト。これまでも、日本やアジアのイラストレーターを起用し、北九州市に根付く「角打ち」文化をフィーチャーする企画や、 コロナ禍における日中韓の学生達を撮影した写真展『#放課後ダッシュ』、「日本新三大夜景都市」の1位に選定されている北九州市の夜景を、台湾、韓国、日本のイラストレーターが描き、アニメーションにして発信する企画などを行ない、若者層をターゲットに北九州市の魅力をPRしてきた。
そして、10月21日に同プロジェクトの一環として開催されたのが、小倉駅前の商店街一帯で、DJやストリートライブが行なわれた一大音楽イベント『NEOアーケードフェス2023』。本記事では、同イベント開催当日のまちの様子や盛り上がりをレポート。イベントに関わった若者たちのインタビューを交えながら、北九州市の魅力に迫りたい。
アーケード商店街発祥の地「魚町銀天街」一帯がフェス会場に
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地元の店主や学生などが企画や運営に参画し、官民が一体となって開催した『NEOアーケードフェス2023』。その舞台となったのは、アーケード商店街発祥の地として知られる小倉駅前の「魚町銀天街」一帯。
当日は、同エリア内に点在する広場や飲食店など6つの会場で、12:00から17:00までの間、市内外から招致されたアーティストが、パフォーマンスを繰り広げた。
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メインエリアの「船場広場」には、キッチンカーなどが出店。その他の会場でも飲食メニューが販売され、来場者はフードやドリンクを片手に、まちの賑わいと音楽を楽しんでいた。
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各エリアでもらえるステッカーを3枚集めると豪華アイテムが当たる抽選会も
Z世代に人気のアーティスト、地元の学生DJなどが小倉のまちなかに集結
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出演者は、著名なアーティストから地元の学生DJまで総勢約30名。メインアクトには、ソウル生まれ東京育ちのクリエイターYonYonや、数々の音楽フェスやクラブイベントにDJとして出演するモデルの矢部ユウナ、TikTokで注目されZ世代を中心に人気を博すラッパー・シンガーのgb、地元北九州市からソロシンガーの向日葵(ひまり)、IKKI、肌埜綾将、Jeiなどの若手アーティストが参加した。
そのほか、日本を代表するヒップホップ・R&BのDJで、楽曲製作やプロデューサーとしても活躍するDJ HASEBEや、北九州市出身のDJ・サウンドコーディネーターのDJ Foominなど、ベテラン勢も名を連ねた。
まちなかの広場や人気の飲食店がダンスフロアに早変わり
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小倉駅徒歩2分のビルの2階にある「DINING LINDA」も会場のひとつ。通常時はライブキッチンで焼き上げる鉄板焼のステーキが人気のバルだ。
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この会場でパフォーマンスしたのは、福岡を拠点に、DJ・シンガーソングライター・音楽プロデューサー・ラジオパーソナリティなどマルチに活動するクリエイターのYonYon。
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若い女性を中心としたファンが彼女を取り囲むなか、キレのいいダンスをみせる熟年のクラブファンの姿も。
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魚町銀天街の裏通りにあるインキュベーション施設「Mercato3(メルカート三番街)」にあるテキーラ&メスカル専門バー「イエローカード」。この会場には、ファッションや音楽を通じて同世代に絶大な影響力を持つ矢部ユウナが登場。
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VJが流す90年代アニメ―ションの映像と共に華麗なパフォーマンスをみせる彼女の姿を、SNSにアップしようとスマホを向ける若者が集まっていた。
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京町銀天街沿いのパチンコ店「GION小倉」前のストリートライブエリアでは、ソロシンガーの向日葵が絢香の三日月を熱唱。アーケード内に響くその歌声に、足を止めて聞き入る人も。
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普段は幼稚園の先生としても働いている向日葵は、「歌声で笑顔と元気を届ける」をテーマに活動中
商店街に偶然居合わせた人も「踊らせる」DJ HASEBEのパフォーマンス
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2度の大規模火災により甚大な被害を受けた「旦過市場」の復興や、商店街の活性化に使用されているイベント会場「旦過復興広場」をひときわ盛り上げたのはDJ HASEBE。
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商店街の一角に仮設されたオープンな空間には、通りに漏れる音楽に吸い寄せられるように多くの人が集まった。みれば若者だけでなく、子供連れのファミリーや年配者まで体を揺らしている。
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そんな会場がドッと沸いたのは、“今夜はブギー・バック”などの90年代ヒットソングが鳴り出した瞬間。北九州市でのプレイは久しぶりというDJ HASEBEは、「昼間の商店街もいいけど、今度は夜の小倉に呼んでね」と笑顔で応えていた。
「若者にチャンスをくれる大人たちが多い」学生DJが語る『NEOアーケードフェス2023』と北九州市の魅力
こういった音楽イベントを北九州市が行うことについて、地元の若者たちはどう感じているのだろうか。同イベントに学生DJとして参加したDJ MIKITOはこう語る。
DJ MIKITO:行政と若者が同じ目線に立って音楽イベントを開催するって、なかなかない凄いことですよね。DJとかクラブって、怖いとか危ないとかネガティブに捉えている人もいると思うんですが、昼間のまちなかで今回のようなイベントを行うことで、少しでもそういったネガティブなイメージが払拭されればいいなと思います。
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出身地である宮崎県から、北九州市立大学へ進学したMIKITOさん。大学の仲間たちとアパレルブランドを立ち上げるなど、DJ以外の活動も精力的に行なうなかで感じるのは、「北九州市は、何かを新しく始めようとする人に対して受け皿が広い」ということ。
DJ MIKITO:例えばDJをやってみたいという若い子がいたら、クラブとか飲食店のオーナーが『やってみなよ』ってすぐに場所を提供してくれたり、やりたいことを実現するために必要な場所や人と繋げてくれるハブになる人がいたり、若者にチャンスをくれる大人が多いと感じます。
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自らが好むヒップホップやR&Bの他にも、現場の雰囲気に合わせて選曲を行なうというMIKITOさん。『NEOアーケードフェス2023』では2ステージを担当した
そんな北九州市の魅力を「地方都市ならではのリラックスした雰囲気と、都会的な利便性の高さが共存しているところが好き」と語るMIKITOさん。
DJ MIKITO:僕が住んでいるのは、自然がいっぱいの郊外なんですが、モノレールに10分も乗れば、すぐに小倉の中心地に着きます。まちなかにはライブハウスやクラブもあるし、大きなイベント会場やサッカーのスタジアムもある。手が届く範囲にこんなにいろんな要素が詰まった街は、なかなかないと思うんです。個人的には、競馬と競輪と競艇が1つの市にあるところを推していきたいですね(笑)。そういうのを生で見てみるのも人生経験のひとつだと思うし、北九州市は治安が悪いと思っている人には、そんなことないよ! と声を大にして言いたいです(笑)。
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「自分たちの住むまちを良くしていこう」と頑張る大人たちがカッコいい
会場のひとつであるカフェバー「Peace Ave.」のスタッフとして同イベントの運営に関わった徳野秀哉さんは、来場したゲストの様子を眺めながらこう言う。
徳野:まちの日常に音楽が溶け込んでいるのがいいなと感じました。徒歩圏内の商店街内で、何人もの有名なDJのプレイが、無料で見られるイベントなんて、他にないんじゃないでしょうか。
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山口県出身で、大学への進学と同時に北九州市に移り住んだ徳野さん。同級生の多くは卒業後、福岡市や関東、関西などへ就職していったそうだが、徳野さんのまわりには、卒業後も北九州市に残り、夢の実現に向けて頑張っている仲間が多いという。
徳野さんもそのひとりで、卒業後に就職をするか、以前より興味のあったコーヒーの道に進むかで迷っていたときに、同店のオープンを人づてに聞き、思い切って飛び込んでみたのだそう。
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北九州モノレール『平和通駅』そばのビルの地下にある「Peace Ave.」は、クラシックカクテルを中心に、90年代のアーティストや曲を元にツイストしたカクテル、コーヒーなどが味わえる人気店
徳野:大学時代に仲間たちとイベントの企画や運営を行っていたんです。そのときに知り合った大人たちが「自分たちの住むまちを良くしていこう」と頑張っている姿をみて、カッコいいなと思って。自分もこのまちで夢を実現したいと考えるようになったんですよね。
徳野さん自身が、まちの人との出会いによって進むべき道を見つけたように、普段はバーのような場所に馴染みのない若い子たちにも、同イベントが一歩踏み出すきっかけになればいいと、徳野さんは言う。「こういった場での出会いが、自分の視野や世界を広げることに繋がると思うんです」。
夕暮れ時の小倉のまちなかに響く、ピースフルな歌声
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正午からスタートした『NEOアーケードフェス2023』も終盤。夕暮れどきのメインエリア「船場広場」に登場したのは、北九州市を拠点にシンガー・ビートメイカーとして活動するアーティストJei。
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DJが流す音楽のリズムに合わせて軽く自己紹介をした後、「小倉の夕暮れゆったり楽しみましょう!」と数曲を披露。澄みきった秋の天に突き抜けるような美声を響かせた。
メインエリアのトリを飾ったのは、アメリカのファンクバンドKool & The Gangのオリジナルメンバー、 ジョージ・ブラウンを父に持つラッパー・シンガーのgb。
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北九州市出身のDJ Foominとのコラボパフォーマンスでオリジナル曲を披露した。gbが大好きだと公言し、カバーソングもリリースをしているKANの楽曲“愛は勝つ”も熱唱。 ポジティブなバイブスの歌声に、会場はピースフルな空気に包まれた。
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MCでは「北九州のおいしいラーメン屋は?」と会場に質問を投げ、来場者がオススメの店を答える一幕も
人と人、人とまちを繋ぐきっかけとしての『NEOアーケードフェス2023』
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来場者としてイベントに参加した若者たちは、「洋服を見に来たついでにいい音楽が聞けて楽しかった」「イベントを通じて、新しいお店やカルチャーが開拓できた」「身近にこういう面白いイベントが増えれば、北九州市の若者も、地元に目を向けるきっかけになるのでは」などと感想を語ってくれた。
真っ昼間の商店街に音楽が響き、若者だけでなく、幅広い年代が入り混じり、体を揺らした『NEOアーケードフェス2023』。出演アーティストだけでなく、運営に関わった若者たちの熱気が、まちの人にも伝わったのではないだろうか。こうしたイベントを通じて、北九州市の魅力を知る若者たちがまた、このまちに魅力的なコンテンツを生み出すひとりになるのかもしれない。そんなことを予感させる一日となった。
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