震災から13年、福島・浜通りの現在。アートや食で知る『HAMADOORI CIRCLE 2024』レポ

『HAMADOORI CIRCLE 2024』が9月28日(土)、29日(日)の2日間にわたり、福島・浜通りで開催された。地域の魅力を再発見するとともに、新しいつながりや活動を創出することを目指したこのイベントは、アートや食、スポーツをとおして浜通りの「いま」と「これから」をぎゅっと体感できる2日間となった。

1日目、9月28日のテーマは「浜通りに集まろう!」。2023年に完成した双葉町の新たなシンボル 「フタバスーパーゼロミル」をメイン会場に、トークセッションやワークショップ、パネル展が行なわれた。この日は浜通りのグルメを味わえるブースも出店。県内外から多くの人が集まり、大いに賑わった。

2日目の9月29日のテーマは「浜通りを巡ろう!」。浜通り15町村の各所で個性豊かなイベントが開かれ、食文化やものづくりなどを通して地域のひとの魅力や活力を体感する1日だ。

浜通りのいまとこれからを知り、感じるために、いくつかの会場をぐるりとめぐってみた。

ふくしま浜街道トレイルウォークで復興の「いま」を感じる

朝8時。集合場所の「フタバスーパーゼロミル」には、すでにトレイルに参加する多くの人たちで賑わっていた。これから、双葉町と浪江町をまたいで13キロメートルの行程を歩くという。

2023年9月に開通した「ふくしま浜街道トレイル」は、福島県新地町からいわき市までの10市町、約200キロメートルを一本につなぎ歩く道。雄大な太平洋と阿武隈山系を望む豊かな自然を感じながら、地域に継承される歴史や営みをめぐることのできる道だ。

この日は地元の人たちや県外から訪れた人たち、約100名が集まった。主催の福島民友新聞社代表取締役会長の中川俊哉さんは「歩いてこそ地域の魅力を発見できる。ぜひ浜通りのいまを見てほしい」と話した。

はじめてトレイルを歩いたという参加者のひとりに話をうかがうと、「普段は気づかない季節の移り変わりや町の景色を感じることができて、爽快な気持ちになりました。復興が進む町のいまを知れて、よりこの地域に愛着を感じました」と語る笑顔が印象的だった。

革製品のオープンファクトリーで地域のものづくりを体感

トレイルをあとにし、次に相馬市の「ボルサ・コマ相馬工場」に向かった。ボルサ・コマは、相馬市に拠点を置く革製品の縫製工場。ていねいな手仕事と高品質な素材にこだわり、OEM生産のほか自社ブランドも展開し、革製品の可能性を追求している。

この日は、普段は見ることのできない工場内部を特別公開すると聞いて、前日から楽しみにしていた。午前中に開催された工場見学には、市内に住む親子連れや県外から来た人など、20名以上が参加した。

さっそく、ボルサ・コマ営業部の池田鉄平さんが鞄づくりの工程を説明してくれた。

大きな一枚の革から、人の手で緻密な工程を繰り返し、形づくられていくその工程に、参加者は釘づけだ。工場内はミシンや裁断機の音がリズムを刻むように絶え間なく響き、妙に心地がよい。

この日は、見学だけでなく、断裁機の操作やミシン体験も行なわれた。参加者は見よう見まねで挑戦してみるも、まっすぐ縫うのが難しかったり、思うように操作ができなかったり。

職人さんたちはいとも簡単に作業をしているのだが、そう上手くはいかない。熟練の技あってこそのものづくりなのだと実感し、普段わたしたちが手にする製品のありがたみが一層増した。

通勤時に工場の前を通るのでどんな会社なのか気になっていたという参加者のひとりは、「こんな素敵な革製品を手しごとで作っている会社だとは知りませんでした。地域の誇りですね!」と目を輝かせていた。

工場を案内してくれた池田さんは「はじめての試みでしたが、自分たちの仕事を見てもらういい機会になりました。普段何気なくやっている作業を見て『すごい!』と声を上げてくださる参加者の姿を見て、当たり前にやっている作業は、じつはそうではなかったのだと気づくことができました」と顔をほころばせた。

外に出ると、駐車場では『おだかつながる市』が開催されていた。おだかつながる市は、自分の人生や暮らしを、自らつくることにチャレンジしている「ヒト・モノ・コト」が集まりつながるマルシェで、小高区在住のデザイナー西山里佳さんを中心として2019年から行なわれている。

この日は、ボルサ・コマのほか、南相馬市にあるガラス工房「kirako-キラコ-」や原町区のおやつ屋さん「シフォンとベイク Coton(コトン)」などが出店。つくり手との会話を楽しみながら買い物をする人たちでにぎわっていた。

最後は参加者と主催者全員で記念撮影。終始、温かな空気が流れていて、この地域の特色を表しているような気がした。

浪江町の豊かな食文化に触れる「ガストロナミー」

そろそろお腹が空いたので浪江町に移動し、新たなグルメスポット・ビストロ「ジョワイストロナミエ」へ向かった。

同店は、今年で創業50年を迎えた渋谷区恵比寿の名店「ビストロダルブル」の新店舗として、浪江町に2024年6月にオープン。

シェフの無藤哲弥さんが2021年に浪江町を訪れたときに「次々にいろいろなコトが生まれるパワーのある町」と感じ、町に通うようになったのだそう。次第に「飲食店だからこそ伝えられる地域の魅力があるのではないか」と思うようになり、新店舗を構える挑戦へ踏み切ったのだ。

店内に入ると、焼きたてのパンの香ばしい香りに包まれた。お客さんたちが和やかな雰囲気で食事と会話を楽しんでいる。

この日は、『HAMADOORI CIRCLE 2024』の限定特別メニュー「なみえ星降る農園のレモングラス香るビーツ入りジャスミンライスとチキンソテー(1,200円)」を提供。

ビーツ入りジャスミンライスはいままで食べたことのない味で、レモングラスの香りが食欲を誘う。香ばしく焼かれたチキンソテーとともに、あっという間にたいらげてしまった。

そのビーツとレモングラスを栽培した「なみえ星降る農園」は、一般社団法人東の食の会がプロデュースするコミュニティ実験農場で、土壌改良と獣害対策に有効とされるヒトデを活用しながら、めずらしく高付加価値の作物の栽培に取り組んでいる。収穫した新鮮な野菜を無藤シェフがフレンチに仕立て、お客さんに提供しているのだ。

この日は、カウンターに置かれたカヌレやフィナンシェを目当てに次々とお客さんが訪れていた。

遠方からシェフに会いにきたという人や久しぶりに立ち寄ったという人、常連のお客さんまで入れ替わりに訪れていて、すでにこの町で愛されるお店になっていることがうかがえた。

アートと食文化が融合した「浜通り食と藝術プロジェクト」

ドライブをしながら、最後の目的地『富岡町秋のパン祭り』が行なわれる「夜の森ピクニック」会場へ。パン祭りというのでパンの販売をしているのかと思ったら、予想に反してユニークなプロジェクトが行なわれていた。

主催の「浜通り食と藝術プロジェクト」が取り組むのは、「食と藝術」という2つの方法で浜通りをリサーチし、関わる一人ひとりが地域との新たな関係性を育んでいくことを目指したアートプロジェクト。

今回は、アーティストの磯崎道佳さんを招き、富岡町を探索しながら自生している果物を探し、摘み取った果物から自家製酵母をつくってカンパーニュを焼いたのだという。

磯崎さんは、「このプロジェクトは食で地域を考えていく試みです。スーパーやコンビニで商品化されたパンは全国均一な味ですが、本来、地域でしか味わえないパンの味があるんです。そこで、富岡町の人たちと一緒にこの地域に自生する果実を採取して酵母をつくり、この地域でしか表現できない自家製天然酵母カンパーニュに仕立てました。ハーブオイルとジャムもこの地域で採れたものからつくっています。地域を 『食』という視点でさまざまな角度から考え知ることで、この地域らしさが見えてくると思うんです」と語る。

早速、富岡町で獲れた梅とびわ、桑の実から酵母を仕込んでつくったカンパーニュを食べさせてもらった。噛めば噛むほど広がる素朴な味わいのカンパーニュは、どれも個性豊かな味わい。面白いのは、果実の違いだけでなく、誰がつくったのかによってパンの仕上がりや味に変化があること。地域やつくり手によってパンの味が変わるということに驚いた。

「浜通り食と藝術プロジェクト」を主催する林曉甫さんは、「浜通りを食べて楽しむことはこの地域のいまを発信するうえで必要なアプローチだと考えています」と話す。この地域で表現するパンが、浜通りの新しい食文化のひとつになるかもしれないと思うとわくわくした。

隣のブースでは、山形出身者がつくる「芋煮」が振る舞われていた。

山形と福島の芋煮は具材や味付けが異なり、山形は牛肉のしょうゆベースが基本で、福島は豚肉のみそベースが主流とのこと。家庭や地域によっても微妙に味付けが変わるようで、参加者同士でもすでに「芋煮論争」が繰り広げられていた。地域で「食」を表現することは、郷土愛に通ずるものがあるのかもしれない。

広い芝生の上では、浜通りで集めた古道具を販売する「古道具 有象無象」や、藁で縄を綯ってぞうりをつくる「うなう」のワークショップも行なわれ、終始楽しそうな笑い声や子どもたちが駆け回る賑やかな声が心地よく響いていた。

点と点がつながり、大きな可能性へ

浜通りという広大なエリアを舞台に行なわれた『HAMADOORI CIRCLE 2024』。東日本大震災から13年の時が経ったこの地域で、さまざまな活動の輪や新たな土地の風景が広がっていることを五感でしっかり味わうことのできた1日となった。

印象的だったのは、どの会場も「人」が魅力的なことだ。主催者はもちろん、参加している方、地域の方たちが温かく迎え入れてくれて、気づけばその場にすっかり馴染んでしまうようなおおらかさが心地よかった。

それぞれの活動の芽が育っていくことで、新しい可能性が生まれるかもしれない。そんなわくわく感が、どの会場にもあった。これからどんな広がりを見せてくれるのか、楽しみにまた浜通りを訪れたいと思う。

イベント情報
「HAMADOORI CIRCLE 2024」

主催:HAMADOORI CIRCLE PROJECT 事務局
(株式会社 博報堂、株式会社 SIGNING、株式会社 大広、株式会社 東北新社、Panoramatiks)


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