特殊メイクアーティスト快歩×スタイリストRemi Takenouchiが対談。2人のインスピレーションの源、仕事術とは?

東京・有楽町のSusHi Tech Square 1F Spaceで、2024年10月から12月25日まで開催されている『エモーション・クロッシング展』。

10月17日には、本展での展示作品「Strange Deep Forest(展示期間10/12-10/28)・Strange Deep Sea(展示期間11/1-12/2)」でマスクを制作した特殊メイクアーティストの快歩と、スタイリストでありコスチュームデザイナーとしても活躍するRemi Takenouchiをゲストに招き、ビアバッシュ形式のクリエイタートークが行なわれた。

トークテーマは、「メイクやファッションがもたらす装いと感情の関係性は?」というもの。これまで数々のアーティストの撮影を担当し、世界観の拡張に貢献してきた2人。クリエイタートークを通して、お互いのクリエイションの共通点を見出していった。 

松田将英、快歩、Japan Global Association、AR三兄弟、YUKARIが参加 『エモーション・クロッシング展』

テクノロジーと心踊る感情が交わる「未来の交差点」を実現するため、4組のクリエイターが参加した今回の『エモーション・クロッシング展』。

会場内に設置された展示スペースでは、「感情」をテーマに、松田将英、快歩、Japan Global Association、AR三兄弟、YUKARIといったクリエイターが参加し、体験型のユニークな作品を展開している。

会期中の10月17日には、クリエイタートークも実施。参加者の鑑賞ツアーが行なわれたあと、ゲストの快歩とRemi Takenouchiが登壇し、佐藤勇介の司会進行によりトークセッションが開催された。 その後の事後インタビューの内容とともに詳細をレポートする。

活動の場が重なることも。特殊メイクとスタイリングの仕事

最初のトークテーマは「お互いの仕事について」。King Gnuや藤井 風など、仕事をしてきた音楽アーティストも共通する点が多い2人だが、実際はどのような関係性なのか。

特殊メイクとスタイリングという、装いをデザインする2人の仕事上での関わりや、クリエイティブの印象などについて語られた。

快歩とRemiがとらえる、お互いの印象は?

Remi Takenouchi(以下、Remi):快歩くんの存在は以前から知っていて、仕事の現場で見かけることもよくあります。でも、話したことはなかったですよね?

快歩:そうですね。さっき初めてご挨拶をして。なんだか不思議な気分になりました(笑)。Remiさんとは一緒に仕事をしたことはないけれど、フィッティングの場などで一緒になったことが何度かあったと思います。人数が多いグループでもパーツの位置を細かく調整されているのを見て、細部まで考えていてすごいなという印象でした。あと仕事量もすごく多いですよね。

僕がRemiさんの作品でいいなと思うポイントは、布のドレープ感ですね。櫻坂46の衣装もそうですし、動いたときに流れるような布のラインが綺麗に見えるように計算してつくっているんだろうなと思っています。

Remi:快歩くんは、特殊メイクと言いつつやっていることはアーティストなんだなという印象でした。だって、快歩くんが関わったものって、パッと見ればわかるんですよ。一見かわいいと思うんだけど、よく見ると怖さもあったりして、1つの作品からまったく逆の感情が呼び起こされる。快歩くんというひとつのジャンルが確立されているんですよね。

快歩くんの作品のなかで好きなのは、ファンタジーっぽいものですね。特に面白いと感じたのが『Dog Foodie』という作品で、特殊メイクと着ぐるみ、両方の範疇を超えたつくりをしているから、「なんだろう!?」と思って。世界観をゴリゴリに出している人が来たなと思いました(笑)。それに、作品を細かく見ていくと結構な手間がかかっていて、丁寧な仕事をされている点もすごいなと思っています。

仕事をするときのこだわり。ときには「それはダサいです」とはっきり言う

直接的ではなくても、お互いのクリエイティブに刺激を与えあっていたという2人。続いて、ものづくりの進めかたについて語り合うと、仕事の手法に違いや共通点が見えてきた。

快歩:たぶんだけど、僕もRemiさんも、思いついたら現場でどんどん変えていくタイプだと思うんです。僕の場合はクライアントに見せるためにデザイン画を描くんですが、デザイン画どおりにつくると駄作になるという思いもあるので、あんまり描き込みすぎないようにしていますね。

特殊メイクをやったことがない人は、最終的に人間に装着するとどうなるか想像しきれない。平面に描かれたデザイン画が立体になって顔に装着して動いたとき、どう見えるのがベストなのかということは僕にしかわからないから、「任せてください」という感じで提案していますね。

Remi:わかります。私も撮影や本番がはじまるまで調整しつづけますからね。少し違う点としては、私の場合は「完全に自由にやってください」という仕事はほとんどないので、アーティストのMVの衣装を担当する場合は、監督の方に曲や映像のイメージを聞いてから提案しますね。

広告の仕事の場合は、クライアントからの要望が何かしらあるので、それを聞いたうえで自分なりに展開したデザイン画を何十種類と描いて投げてを繰り返します。場合によってはサンプルもつくってディスカッションしながら方向性を決めていきますし、ときには私が目指していた方向性とは違う意見をいただくこともありますけれど、機嫌がいいときは寄り添って妥協点を見つけて、そうではないときは「すみません、それはダサいです」とはっきり言っちゃいます(笑)。

3DプリンターやChatGPT。2人のクリエイティブに活用されるテクノロジー

近年は作品をつくるうえで、生成AI、3Dプリンターなどのテクノロジーを活用するクリエイターも多い。2人はどのような取り入れかたをしているのだろうか。

快歩:僕はパーツをつくるときに3Dプリンターを使いますね。文字っぽいパーツをつくりたいときとか、シンメトリーなベースにデコレーションしていく場合も、既製品を使うのではなく、3Dプリンターでベースをつくったほうがオリジナリティもありつつ、カチッとしたものがつくれるので活用しています。

Remi:私も最近は細かいディテールをつくりたいときに3Dプリンターをよく使っていますね。短時間でつくることができるし、寝ている間でも放置しているうちに完成するので助かっています。あとはChatGPTを使ってイメージ画をつくってもらい、提案するときに使ったり、プレゼンの原稿を考えてもらったりもしています(笑)。

感情の表現における「メイク」と「ファッション」の役割とは?

2人の仕事に対する向き合いかたがわかったところで、クリエイタートークのメインテーマである「感情を表現する装置としての『メイク』と『ファッション』の共通点」について話題が広がっていく。まずは特殊メイクとファッションが、いかに感情の表現に影響を与えるのかについて語られた。

「スイッチが入る瞬間に出くわす」メイクとファッションが感情表現にもたらす影響

快歩:映画などの撮影現場で俳優さんに特殊メイクをしていると、その人のスイッチが完全に入る瞬間に出くわすことが多いんです。「この人って、こんな動きをするんだ」「こんなに大きい声が出るんだ」と驚くほど。

実際に本人から「私なんだけど、知ってる私じゃないみたいで面白い!」とおっしゃっていただくこともあって、特殊メイクというマスクをつけることで、自分にワンフィルターかかり、いつもと違う人格を表現することができる。その手助けができているなと感じます。

そのためにも、「お面」っぽい特殊メイクではなく、パーツをなるべく薄くつくって表情を出しやすいようにするんです。俳優さんと一緒にキャラクターをつくるような感覚でやっていますね。

Remi:ファッションも一緒で、着た本人のマインドがすごく変わるんですよね。俳優さんだったら演じる役に合わせて洋服を着ることで感情にスイッチが入ることがあるし、アーティストさんも、細かいやりとりをして完成させたステージ衣装を着たときは、特にしっかりスイッチが入るのを感じますね。

あとはフィッティングの際に「これってどういう目的でつくったんですか?」とか「どういう見せかたをしたら綺麗ですか?」と質問していただけることもあって、着る側の人も解釈を深めながら感情の出しかた、見せかたを掴んでいるのだろうなと思います。

さらにRemiは、着る人の感情や空気感をファッションで引き出すときは、本人の意思を汲み取ることも大切だと語る。

Remi:コスチュームを考えるときは、総合的に考えますね。着る人がもともと持っているイメージだとか、雰囲気、骨格、肉付き、身長、動き、そして本人がどう見せたいか、なにを見せたくないか。そういったことを総合的にとらえてコスチュームのデザインやスタイリングを提案しています。そのほうがよりパフォーマンスの質が上がると思っているので。

自分自身の話だと、普段はすっぴんでパジャマで過ごしているけれど、人と会うときにちゃんと服を選んで着ると、すごくやる気が出るというか、見せるぞ! という気持ちが出てくるなと感じます。

インスピレーションの源泉とクリエイターを志したきっかけ

最後のトークテーマでは、1度見たら忘れられない、見る人の想像力を膨らませる作品を手がけてきた2人のクリエイティブの原点が語られた。 

現在の道に進んだきっかけと、インスピレーションの源

快歩:子どもの頃から絵を描くことや空想の世界が好きで、ヤン・シュヴァンクマイエルの作品からも影響を受けていましたね。特殊メイクの道を志したのは、映画をたくさん見ていた時期があって、「想像上のキャラクターが実際に動いているって、すごく面白いじゃん」と思ったことがきっかけでした。

それで特殊メイクを習って、実際にモデルに特殊メイクをしてみると、その人の顔の癖、表情の癖が顕著に反映されて、「笑ったらこういう顔になるんだ」と自分の想像を超えてくるんです。そういった体験がいまにつながっていると思いますね。

自分らしい世界観をつくるうえで色の使いかたの研究は欠かせなくて、特に花をずっと見ていると、「この色の組み合わせやばいな」とか「ディテールはめちゃくちゃ気持ち悪いのに、花として全体を見るとすごく綺麗だな」という発見がたくさんあります。それから、民族衣装の本を見るのも好きです。

Remi:最初に渡英したとき、「せっかくイギリスに来たんだし大学でも行こう」と思って、もともと親も服飾の仕事をしていて私自身も服が好きだったので、ファッションを学べる学校へ行くことにしたんです。そこからスタイリストのアシスタントになったんですけど、クビになっちゃって(笑)。

それで半ば強制的にフリーランスのスタイリストになったんですけど、この働きかたが性に合っていたというか。コスチュームデザインの仕事は日本に帰ってからするようになって、CMの仕事をしたときに監督から「服をつくってほしいんだけど、できる?」と言われて「できます」と答えたことをきっかけにはじめましたね。

私の場合、調べ物もいっぱいするけれど、インスピレーションはいろいろな国で出会う文化や人々と関わるなかで得ることが多いですね。人の生きかたとか、服に使われている色、自然もそうですよね。岩の色、緑の色、空の色も国によって全然違うんです。だからいまもバックパック旅が趣味で、リュック1つでいろいろな国を旅行しています。少数民族の村を回ることもありますよ。

自分らしいスタイルとは?

さらにお互いの手法に対する疑問をぶつけ、答え合う2人。まずは、快歩さんからRemiさんに対して、「どういうプロセスでデザインを考えているのか?」という質問からはじまった。

Remi:デザインを考えるときは、結構マイブームを起点にすることが多いですね。いまはパンクっぽいのがいいなとか、パンツだけどヒラっとしているのがいいなと思ったら取り入れたり、こういう素材を使ってみたいなというところから考えはじめたりもします。

そうして、例えば「スカートにしよう」と決めたら、動きの邪魔にならないようにこういう生地を使おう、バランスを取るためにディテールはこうしようと、これまでの成功や失敗の経験に照らし合わせながら決めていく感じですね。『テトリス』みたいな感覚です。そこから、布が翻ったときのこと、着る人のことを考えて裏地までつくり込んで、本番ギリギリまでクオリティを上げていくんです。

Remi:私から見ると、快歩さんがつくるものの世界観には、つくっている本人も含めて統一感がある気がしていて。どうやって自分らしいスタイルをつくっていったのかが気になります。

快歩:最初は特殊メイクが面白いなと思ってやってきたけれど、やりたいことはゾンビとかグロテスクなものをつくることじゃないなというのは早々に気づいたんですよ。だからまずは、とりあえず好きなものをごちゃ混ぜにしてつくってみようと思って。自分が着ていた服を破って貼ってみたり、とにかく手を動かして、「これをやってみたらどうなるだろう?」と面白がりながら、自分らしい表現のスタイルを見つけていきましたね。

心躍るクリエイションとは? Remiと快歩の共創の可能性

その後、質疑応答と参加者との交流会を経てトークイベントが終了。互いに打ち解けたRemiと快歩だが、もしこの2人がコラボレーションするとしたら、どんな可能性があるのだろうか。

快歩:もしRemiさんとコラボするなら、もちろん一緒に考えるのも面白いだろうし、例えばテーマとか、「この色は使おう」くらいの部分的なところだけ決めておいて、現場でぶつけてみるのも面白そうですよね。

Remi:それ面白いね!

快歩:めっちゃ事故るかもしれないけれど、そこから完成に向けて仕上げていくことも楽しめそうだなって。

Remi:力技で成立させるっていうね(笑)。私も完成形に向けて組み立てていくよりは、現場でぶつけ合って仕上げていくほうがいいですね。もしそういう機会があれば、一緒につくってみたいです。

2人のトップクリエイターの感情が交差した今回のトークイベント。今後も続く『エモーション・クロッシング展』でぜひ作品を体験し、自分自身の心が動く瞬間をとらえてほしい。

イベント情報
『エモーション・クロッシング展』

会期:2024年10月12日(土)~ 2024年12月25日(水)
休業日:月曜日、11月28日、29日
開館時間:平日 11:00~21:00(最終⼊場 20:30)、⼟休日 10:00~19:00(最終⼊場 18:30)
入場料金:無料
主催:東京都
プロフィール
快歩 (かいほ)

1996年、愛知県名古屋市出身。名古屋市立工芸高等学校デザイン科卒業。amazing school jurで特殊メイク、特殊造形の基礎を学ぶ。卒業後はatelier-ranaを屋号として独立。 特殊メイクを軸に、グラフィック、アートディレクション等、独自の世界観を追求した作品制作を行い、その感性を活かして、ミュージックビデオや映画、ライブなど様々なメディアにおいて幅広く活動。特殊メイクのグロテスクなイメージをあえて制限し、色を効果的に使うことで、ポップかつリアルな独自の世界観を表現している。
* WBF 2020 World Championships special effects 世界のTOP3に選出。
* Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024 世界を変える30歳未満30人 受賞

Remi Takenouchi (れみ たけのうち)

東京生まれ、2004年に渡英し2006年に英国人のスタイリストアシスタントに付く。2007年より、ロンドンにてフリーランススタイリストを始める。2012年に日本に帰国。エッジーかつストーリーを感じる世界観で、ファッション・アートのスタイリングディレクション、コスチュームデザイン&制作を手掛ける。広告・ミュージックビデオ・映画・ドラマ・雑誌・舞台など幅広いジャンルにて活躍中。



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