音楽だけじゃない『横浜音祭り』300超のプログラムのここに注目

ジャンル、国境、世代、障害の有無を超えた「スーパーユニバーサル」な67日間の音楽祭

横浜の街中に音楽があふれる『横浜音祭り2016』が、9月22日から11月27日までの67日間開催される。3年に1度の祭典として2013年にスタートした同イベントは、今年で2回目の開催。前回は「“ネオ” クロスオーバー」をテーマに、さまざまな音楽ジャンルのプログラムが組まれたが、今年はそれをさらに発展させた「スーパーユニバーサル」をテーマに、世代、性別、国籍、障害の有無など、あらゆる垣根を越えた約300ものプログラムが用意されている。

『横浜音祭り2016』メインビジュアル
『横浜音祭り2016』メインビジュアル

前回に続き、ディレクターを務めるのは新井鷗子。数々のオーケストラのコンサートや、『読響シンフォニックライブ』『東急ジルベスターコンサート』といったテレビ番組でも構成を担当。『わがままオーケストラ』では、世界的にも権威ある『国際エミー賞』で入選した経歴も持つ人物だ。彼女は今回の「スーパーユニバーサル」というテーマに対して、次のようにコメントしてくれた。

新井:ここ3年の間に、驚くほどの速さで音楽の在り方が多様化し、一人に一つずつ異なった音楽の楽しみ方があるといっても過言でないほどになりました。そのニーズに応えるためにも、音楽のジャンルだけでなく、国境、世代、障害の有無を超えたスーパーユニバーサル(万人に通じる)音楽祭を目指します。

暗闇コンサートに、多国籍バンド、パイプオルガン演奏×無声映画上映など、数えきれないユニークな演目

では実際、どのようなプログラムが用意されているのだろうか。あまりにも数が膨大なため、すべてに触れることは到底不可能だが、スーパーユニバーサルを感じさせるプログラムをいくつか紹介したい。

もっとも代表的といえるプログラムが、11月3日に青葉台のフィリアホールで行なわれる『ミュージック・イン・ザ・ダーク~障がいとアーツin横浜』。視覚障害者と晴眼者の合同メンバーで結成された弦楽オーケストラが、照明を完全に消した暗闇のなかで演奏するコンサートで、世界的にも活躍する視覚障害を持つヴァイオリニスト・川畠成道、NHK交響楽団のソロコンサートマスターを務めた徳永二男などが出演する。当日はヴィヴァルディの『四季』より“夏”“冬”、バッハの“2つのヴァイオリンのための協奏曲”などが演奏される予定で、演者はもちろん、観客も感覚を研ぎ澄ませた状態で音楽を体験することになるだろう。

『ミュージック・イン・ザ・ダーク~障がいとアーツin横浜』に出演する川畠成道(左)、徳永二男(右)
『ミュージック・イン・ザ・ダーク~障がいとアーツin横浜』に出演する川畠成道(左)、徳永二男(右)

9月22日に都筑の文化 夢スタジオで行なわれる『夢スタジオ まちの音楽会「福本純也Boylston JazzによるファミリーラテンJAZZコンサート」』では、バークリー音楽大学出身で、ボストンでの演奏活動も豊富な福本純也を中心とする多国籍バンドが出演。ジャズアレンジした童謡や、ラテンアレンジしたクラシックなどが演奏される。楽器演奏体験や世界の音楽を聴き比べるコーナーなども予定されており、子供から老人まで楽しめるプログラムとなりそうだ。

10月29日に横浜みなとみらいホールで行なわれる『「オーケストラル・バレエ」~踊りと語りで楽しむバレエ音楽コンサート』では、音楽、朗読、バレエが共演する。バレエ音楽を専門とするシアターオーケストラトーキョーの演奏に乗せ、熊川哲也が主宰するKバレエスクールの若手ダンサーが踊り、俳優の山本耕史が朗読。作曲家・ピアニスト・司会者・イラストレーター・少女漫画研究家など多彩な顔を持つ青島広志の軽妙な指揮とトークにも注目で、ハードルの高いイメージを持たれがちなバレエを親しみやすく伝えてくれるはずだ。

『「オーケストラル・バレエ」~踊りと語りで楽しむバレエ音楽コンサート』に出演する青島広志(左)、山本耕史(右)
『「オーケストラル・バレエ」~踊りと語りで楽しむバレエ音楽コンサート』に出演する青島広志(左)、山本耕史(右)

また、映画と音楽にまつわるプログラムも数多く予定されている。11月23日に横浜みなとみらいホールで行なわれる『オルガン・リサイタルシリーズ42 シネマ×パイプオルガン~オペラ座の怪人~』では、大スクリーンで上映される無声映画に合わせ、アメリカのピーター・クラシンスキーがパイプオルガンを即興演奏。

9月27日から11月24日まで横浜市内18区の文化施設で行なわれる『別所哲也プロデュース横浜18区ショートフィルム&コンサート 清水和音ピアノリサイタル』では、別所哲也がナビゲーターを務め、音楽をテーマにしたショートフィルムの上映と、ピアニスト・清水和音を中心とするメンバーでのコンサートを開催。さらに、黄金町の映画館「シネマ・ジャック&ベティ」では、『横浜音祭り2016』の開催に合わせてジャズ映画の特集上映も予定されている。

シネマ・ジャック&ベティ
シネマ・ジャック&ベティ

『横浜音祭り』が考える次世代育成のキーワードは「ファン」と「アマチュア」

『横浜音祭り2016』は市も全面的に関わっているイベントであり、次世代育成事業としての役割も果たしている。10月31日に横浜市開港記念会館で行なわれる『DEARSTAGE presents でんでんハロウィンナイト』では、でんぱ組.incのライブなどが予定されているが、これに先駆けて市内の高校生を対象にワークショップも開催された(既に参加募集は締め切り)。

でんぱ組.inc
でんぱ組.inc

このワークショップは『第一線アーティストとの共演プロジェクトヨコオト・スペシャルワークショップ』と題され、でんぱ組.incの振付師であるYumiko a.k.a MTPが直接指導。ワークショップ後に選抜された参加者は、10月31日のでんぱ組.incのライブに、ダンサーとして出演することが決まっている。ここだけを切り取ると、プロの育成を目的としているように感じるかもしれないが、ディレクターの新井はもっと広い視野で考えているようだ。

新井:音楽の裾野を広げるための次世代育成を意識しています。つまりプロになる音楽家の育成だけではなく、質の良い「音楽ファン」&「アマチュア音楽家」をも育てるための次世代育成プログラムです。

市内の若者が参加するプログラムとしては、このほかにも前夜祭として9月21日には『西本智実指揮イルミナートフィルハーモニーオーケストラ』があり、市内の少年少女合唱団が出演。期間中には、横浜市消防音楽隊が市内の中学校吹奏楽部に演奏指導する合同演奏会、神奈川フィルハーモニー管弦楽団による横浜市立特別支援学校などでのコンサートも複数回行なわれ、市内のアマチュアミュージシャンが出演するステージや、子供たちが参加できるプログラムも数多く予定されている。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団
神奈川フィルハーモニー管弦楽団

より音楽を身近なものとし、より質の高いものに触れさせることで、自然と成長を促すとでも言えばいいだろうか。港町として多様な空気に触れて発展してきた横浜という街には、適したやり方なのかもしれない。

新井は『横浜音祭り2016』で横浜を訪れる人に対して、「横浜は古くから、海外の文化をいちはやく受け入れ、それを横浜流に咀嚼して取り込んできたという歴史があります。新しもの好きだけれど保守的、そんな横浜の気質を感じていただけたらと思います」と言う。67日間にもわたって行なわれる祭典だけに、期間中に一度くらいと言わず、何度も横浜を訪れて、観光や人とのふれあいも含めて楽しんでほしい。

イベント情報
『横浜音祭り2016』

2016年9月22日(木・祝)~11月27日(日)
会場:神奈川県 横浜市内全域



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