世界のあらゆる道を走破する。その記録映像を物語に変えてしまうプロジェクト
「南米の道は、たくさんの言葉を連れてくる。歌になる直前のような言葉たちと、永遠に思える旅の映像たち。それが重なると僕たちは気がつく。ああ、僕たちは風の惑星のうえにいるんだ、と。」――『トラベルノベル『風の惑星』』の特設ページの冒頭には、そんな口上が掲げられている。
『風の惑星』とは、トヨタ自動車が行なっている「5大陸走破プロジェクト」の一環として制作された、オリジナル映像作品のタイトルだ。「いいクルマとは何か?」。そのヒントを自らの肌で感じるために、トヨタ社員が世界中のあらゆる道をトヨタのクルマで走行する「5大陸走破プロジェクト」。
2014年の豪州、2015年の北米大陸に続き、現在は南米大陸を走行中であるという現地スタッフから次々と送られてくる記録映像をコラージュして描き出されるオリジナルストーリーが、この『風の惑星』という次第である。
浅野忠信によるオープングアニメーションのヒトコマ(『風の惑星』公式サイトで見る)
岸田繁が個人名義で書き下ろした、くるりとはまるで異なるオーケストラ作品
愛を失ったひとりの男が、あてどなく南米大陸を旅する物語。男はかつての恋人の名前である「まゆみ」の3文字を発することができない。俳優・佐藤健のモノローグによって綴られる『風の惑星』の物語は、雄大な自然の風景や南米の街や人々をとらえた美しい映像――そして何よりも、その背後で流れる壮大な音楽と相まって、見る者の心に不思議な叙情を生み出してゆく。
『風の惑星』2話より。映像は、南米走破中の現地スタッフから送られてくる記録映像をコラージュしたもの
その音楽を生み出したのは、今年結成20周年を迎えたロックバンド「くるり」のフロントマン、岸田繁その人である。
岸田にメールインタビューを行なったところ、当初彼が提示されたのは、「アメリカのバンド・CALEXICO(アリゾナ州のツーソンを拠点に、様々な伝統音楽に影響されながらも同時にモダンなサウンドを生み出した)や、僕が普段やっているくるりというバンドの中で、トレモロの効いた乾いたエレキギターの音のイメージ、あるいは私小説的というかパーソナルな楽曲イメージ」だったようだ。しかし、そこで岸田は、ある別のアプローチを自ら提案したという。
岸田:自分とバンドメンバーで曲を作り、自分の書いた歌詞を自分で歌うくるりの作風は、とてもパーソナルなものであり、目線が自分のものになります。今回はそれとは異なるパターンにしようと思ったので、岸田繁名義で作曲とオーケストレーションに徹しました。
個人的にオーケストラを使った作曲を進めているタイミングでもあったので、自動車で大陸横断する風景を、どちらかというと「鳥の目線」で描くのはどうだろうと提案したところ、快諾していただいたので、こういった作品になりました。
ここで言う「オーケストラを使った作曲」とは、昨年より岸田が「京都市交響楽団」のために準備していた『交響曲第一番』を指すのだろう。岸田にとって初の本格的なオーケストラ作品であり、つい先日、京都での初演が行なわれた『交響曲第一番』。ある意味、その「姉妹曲」とも言える今回の『風の惑星』のテーマ曲は、管弦楽をメインに、フレンチホルンや木管楽器などのアレンジを効かせた、くるりとはまったく異なる音楽性の一曲となっている。
岸田繁にとって「劇伴」とは何か、そして取り組むときに意識すること
くるりとしてはもちろん、個人としても劇伴制作の経験がある岸田は、劇伴というものをどのように捉えているのだろうか?
岸田:映画やCM劇伴においては、第三者や風景がお客さんに語りかける、あるいは包み込むようなものだと思っているので、今回は鳥になって、映像の世界を俯瞰しました。オーケストラの豊潤なサウンドは、風景の移ろいや自然の蠢きを表現するにはぴったりなので、その辺りを楽しんでいただければと思います。
観光客は訪れないような未踏の大地を駆け抜けるランドクルーザー。一人称で語られる、「ある男」の不思議な物語。そして、それらすべてを包み込むように響く管弦楽の柔らかな響き。これまでの劇伴の経験からも、映像との相性の良さには定評のある岸田だが、そんな彼にとっても、ひとりの音楽家として新たなステップとなるに違いないこの曲は、本人の言葉通り空を羽ばたく鳥のような眼差しで、大地を突き進むランドクルーザーを、そしてそこに乗りこむ傷心の主人公を見守るように、ゆったりとやさしく響き渡るのだった。
ちなみに、1話あたり4分から6分程度で綴られる『風の惑星』の物語は、現在8話までが公開中。ブラジル、サンパウロの街から始まった「旅」は、ボリビアのウユニ塩原(7話)を経て、チリ北部の街、アントファガスタへと到達した(8話)。「もう少しだけ旅を続けよう」。8話の最後、そう締め括られたこの「旅」は、そしてこの「物語」は、果たしてどんな終わりを迎えるのだろうか。
国境を越えて展開してゆく物語さながら、5、6話が公開されたタイミングでORICON STYLEがコラムを掲載。そのバトンを引き継ぐように、7、8話が公開されたタイミングで、今回CINRA.NETが記事を掲載するなど、「メディアリレー形式」で動向を追っている今回のプロジェクト。そのバトンは、次回TABI LABOへと引き渡される。南米の道が連れてくる「歌になる直前のような言葉たちと、永遠に思える旅の映像たち」が、旅の終わり、主人公の心にもたらせる「変化」とは? そちらも引き続き注目したい。
- プロジェクト情報
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- TOYOTA GAZOO Racing
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「5大陸走破プロジェクト」とは、トヨタ自動車の従業員自らがステアリングを握り、走行するという現地体験を通じて「もっといいクルマづくり」を担う人材教育を目的とした活動で、2014年にスタートした。第3弾となる南米走破は、8月22日(現地時間)に開始し、日本と現地事業体の従業員約110名が協力しながら、約3ヶ月半にわたり、南米大陸の多様で激しい道を現在も走破中。
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- 『トラベルノベル「風の惑星」』
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今回の『トラベルノベル「風の惑星」は、現在走破を続けているチームから送られてくるその旅の映像記録をひとつのエンターテイメト作品として映像化。「まゆみ」という3文字を使えなくなった男が綴る、不思議で切ないストーリを俳優・佐藤健がその声で演じる。さらに、岸田繁(くるり)オリジナル楽曲を担当し、俳優・浅野忠信がオープニングアメションを描き下ろすという豪華な共演が実現した。全8話のストーリを2話ずつ公開中。その制作の裏側を、ORICON STYLE、CINRA.NET、TABI LABO(2017年1月末公開予定)で紹介する。
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