『TURNフェス』って一体なに?15組の新しい交流のかたちを見る

「その人らしさ」を追求する多様なプログラムが一堂に会する3日間

私たちは、社会的に大きな枠組みに自らを当てはめることによって日々の暮らしを送っている。「障がい者 / 健常者」という枠組みはそのひとつの例だ。同時に、私たちは「その人らしさ」という最小の枠組みの中で個人的な時間も過ごしている。それはまさしく、大きな枠組みだけでは捉えることのできない多様性に満ちたものだ。そうした多様性を模索し、豊かな時間の創造を目指す『TURNフェス2』が、3月3日から5日にかけて東京都美術館で開催される。

『TURNフェス2』メインビジュアル
『TURNフェス2』メインビジュアル

フェスの母体となるのは、『東京2020オリンピック・パラリンピック』の文化プログラムのモデル事業として、2015年より始動した「TURN」。その中核となっているのが、アーティストが各地の福祉施設やフリースクールなどへ赴き、コミュニケーションを通して、異なる背景や習慣を持つ人同士の相互作用を起こしていく、「交流プログラム」だ。『TURNフェス2』では、その「交流プログラム」が一堂に会し、施設やアーティストによる発表やパフォーマンス、ゲストを交えたカンファレンスなどが行なわれる。

昨年の『TURNフェス』での五十嵐靖晃×クラフト工房La Manoによる作品『New horizon』の様子 / 撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)
昨年の『TURNフェス』での五十嵐靖晃×クラフト工房La Manoによる作品『New horizon』の様子 / 撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)

TURN初年度からのメンバーである奥山理子は、コーディネーターとして「交流プログラム」を支えている。障がい支援を行なう社会福祉法人が運営する、京都のアールブリュット美術館「みずのき美術館」のキュレーターでもある奥山は、昨年の『TURNフェス』を振り返りながら次のように語ってくれた。

奥山:アーティストの視点を手がかりとした初回の『TURNフェス』を経て、今年は、それぞれの交流プログラムの過程で育まれた関係性を、そのまま会場に連れて来ようとしています。「交流」そのものを体感していただく機会になるので、会場はよりフェスらしく、変化に富む光景が生まれるはずです。

手探りのコミュニケーションから気づいた「糸」の力

今年の『TURNフェス2』には、美術家の山城大督、写真家の池田晶紀、ダンサー・振付家の森山開次らが参加する多彩な「交流プログラム」から15組が集結する。その中でも、昨年に引き続き実施される、アーティスト・五十嵐靖晃とクラフト工房La Manoによる「交流プログラム」の内容を詳しく見てみよう。今回、実際にクラフト工房La Manoに足を運び、施設長の高野賢二の案内で、工房の様子を取材することができた。

工房La Manoの様子
工房La Manoの様子

工房La Manoに隣接する第2作業場「セグンダ」
工房La Manoに隣接する第2作業場「セグンダ」

クラフト工房La Manoは、東京都町田市の里山に佇む築90年の民家を改装した施設だ。スペイン語で「手」を意味する「Mano」という言葉が示すように、障がいのある人たち26人がスタッフとともに手仕事にいそしんでいる。ここでは日常の仕事として「染め」「織り」「刺しゅう」の3段階に分かれたクラフト制作と、アトリエでのアート作品の制作が進められているそうだ。

針仕事などをするメンバー
針仕事などをするメンバー

藍染めを得意とするスタッフ
藍染めを得意とするスタッフ

五十嵐は、太宰府天満宮で千年続くアートプロジェクトの実現に向けて構想された『くすかき』(2010年~)や、地域の漁師らと協働して作った網を空高く掲げて土地の風景を捉え直すことを目指した『そらあみ』(『瀬戸内国際芸術祭』2013年、2016年)など、これまでにも各地で多様な人々との協働を通した活動を展開してきた。そうした経験を豊富に持ちながらも、五十嵐にとってLa Manoとの最初の「交流」は決してやさしいものではなかったという。

La Manoを構成するメンバーの中には言葉によるコミュニケーションを苦手とする人もおり、たとえば「おはよう」と挨拶しても言葉でないかたちで返ってくることも多々あったらしい。そのようなメンバーとどのようにして「交流」するかは、ここを訪れた五十嵐にとって最初の課題になったのだ。

そこで解決の糸口になったのは、La Manoの名前の由来である「手」だった。La Manoでは、障がいの有無を問わず、皆が手仕事に関わる役割を与えられている。そのことに着目した五十嵐は、まず自らも藍染めの工程に加わることにした。言葉ではなく文字通り「手探り」のコミュニケーションを始めてみたところ、初めていきいきとした「交流」が生まれたのだ。

目の数を数えながら布を織っていく
目の数を数えながら布を織っていく

緻密な模様で織られていく織物
緻密な模様で織られていく織物

さらに五十嵐は、「染め」と「織り」のあいだにある「糸巻き」という工程で2つの手仕事が結ばれていることに気づき、「糸巻き」を担うメンバー・宇佐見さんとの交流を深めていった。その交流の中から施設の人々が糸の力で「結ばれている」ことを知った五十嵐は、今回の『TURNフェス2』では、彼らと来場者による、糸を用いた共同作業=コミュニケーションを行なうことを計画しているという。

宇佐見さんが丁寧に巻いた糸
宇佐見さんが丁寧に巻いた糸

TURNでの交流は「最も遠くまで旅をする方法」

TURNとの関わりを、五十嵐は「最も遠くまで旅をする方法」と喩えている。コミュニケーションが自由ではないからこそ、そこには模索する必要が生まれ、遠くに旅するよりもずっと「それまで知らなかった人」に出会う機会が生まれるからだ。

五十嵐靖晃
五十嵐靖晃

そのような場を、コーディネーターの奥山は「見せる / 魅せる場というよりも楽しみあう場となるように、参加者全員がそれぞれの技術や経験、そして何よりも気持ちを持ち寄って作りあげていきたい」と語る。それはまさしく「フェス」としか表しようのない、現在進行系で新しい「交流」のかたちが生み出される空間となるだろう。始まってみるまで誰も予測することのできない、多彩な人々との交流を、まるで遠くへ旅することのように、実際に体験してほしい。

イベント情報
『TURNフェス2』

2017年3月3日(金)~3月5日(日)
会場:東京都 東京都美術館1階 第1・第2公募展示室
時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
料金:無料



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