ジャズは世界中の音楽とどのように混血してきた?柳樂光隆が解説

「ジャズ」は世界中の音楽と混ざり合い、広がり続けている

「ジャズ」という音楽はもともと、「純血種」みたいな言葉とは矛盾する音楽だった。

例えば、ジャズを説明する本によく書いてあるのが、「ジャズはヨーロッパ由来のクラシック音楽と、アフリカ由来のアメリカの黒人音楽が出会って生まれた」みたいな話。他方、ジャズ評論家・油井正一が提唱していた「ジャズはラテン音楽の一種だ」という説では、ジャズが生まれたとされるアメリカのニューオーリンズという街は、カリブ海に面した国際都市で、そこではアメリカ人とカリブ海の国々の人たちとの交流があり、スペイン人やフランス人と黒人の混血で「クリオール」と呼ばれた人たちがジャズの誕生に深くかかわったという。

こうした諸説からわかるのは、ジャズは「世界中の音楽」が混じり合い、その形を常に変えながら、現在まで生き延びているということだ。

近年でもSnarky Puppyのようなアメリカのバンドが世界中の音楽をジャズに取り込んでいたり、イスラエルのアヴィシャイ・コーエンやアルメニアのティグラン・ハマシアンのように、自国の音楽をベースに新たなジャズを奏でるミュージシャンもいる。7月8日にめぐろパーシモンホールで開催されるイベント――『Jazz World Beat』という名前を聞いたときに頭に浮かんだのは、そんな風に広がり続ける「ジャズ」のあり方についてだった。

『Jazz World Beat 2017』フライヤー画像。大ホールには、山下洋輔×スガダイロー、アントニオ・ザンブージョ、二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Bandが出演する
『Jazz World Beat 2017』フライヤー画像。大ホールには、山下洋輔×スガダイロー、アントニオ・ザンブージョ、二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Bandが出演する(公式サイトを見る

古きも新しきも、アメリカも日本もすべてが入り混じる「二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band」

『Jazz World Beat 2017』に出演する二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Bandはまさに、そんなジャズのあり方を体現するバンドだと思う。

二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band
二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band

1930-50年代あたりのスウィングジャズを奏でているGentle Forest Jazz Bandは、ジャズがダンスミュージックかつポップミュージックとして聴かれていた時代の華やかさや、エンターテイメント性を現代によみがえらせているバンドだ。彼らが面白いのは「古き良きアメリカのジャズ」を再現しているだけではなく、「古き良きアメリカのジャズに憧れて生まれた、往年の日本のジャズ」にも光を当てていること。笠置シヅ子、美空ひばりなどへのオマージュも聴きとることができる。

そんなサウンドを奏でるGentle Forest Jazz Bandには、現代USジャズの先鋭性を取り込む話題のバンドYasei Collectiveのメンバーも在籍する。古きも新しきも、アメリカも日本もすべてが入り混じるこのあり方こそジャズだと思うし、近年のアメリカでもジェイソン・モランやジュリアン・ラージのように、戦前のジャズをヒントに新たなジャズを作り出す流れがある。過去のジャズに埋まっている新たな音楽を聴くためのヒントを日本で教えてくれるのはGentle Forest Jazz Bandかもしれないとも思う。

ジャズ100年の歴史を取り込む即興バトル

このイベントの目玉でもある山下洋輔×スガダイローもやはり、時代も国境も超えていくジャズだ。彼らの即興演奏には、ラグタイム、ストライドピアノ、スウィング、ビバップ、モード、そしてフリージャズなど、ジャズ100年の歴史が溶け込んでいる。

山下洋輔×スガダイロー
山下洋輔×スガダイロー

ジャズだけでなくクラシックからブラジル音楽などにも取り組んできた山下洋輔と、ロックやヒップホップ、シンガーソングライターなど様々な同時代の俊英たちとの即興バトルを繰り広げてきたスガダイロー。その二人が完全即興でぶつかるライブでは、予想のつかないスリリングさと、師弟関係でもある二人が息の合ったお決まり(?)的な面白味もある。

アントニオ・ザンブージョが歌うファドやボサノヴァと、ジャズとの関係

ワールドミュージック側の出演者でいうと、ポルトガル出身でファド(ポルトガルの民族歌謡)をルーツに持ち、ボサノヴァをも歌うシンガーのアントニオ・ザンブージョはこのイベントの鍵となる存在だと思う。

アントニオ・ザンブージョ
アントニオ・ザンブージョ

ボサノヴァの誕生や進化においてジャズが関わってきたことはよく知られていて、それと同時にボサノヴァは――スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルトなどをあげるまでもなく――ジャズにも大きな影響を与えてきた。アントニオ・ザンブージョが歌い、奏でる優雅でやわらかなファドやボサノヴァからは、ジャズとの関係が聴こえてくるかもしれない。

最新のジャズにインスピレーションを与えている、ブラジルのトラディショナルな音楽「ショーロ」

ジャズとブラジルとの関係ということで言えば、小ホールに出演するChoro Clubを併せて見ることをお勧めする。近年、アメリカから出てきている新しいジャズにインスピレーションを与えているのが、ブラジルのトラディショナルな音楽「ショーロ」だからだ。

マリア・シュナイダーやフレッド・ハーシュ、ジュリアン・ラージらを魅了しているショーロは、ボサノヴァ以前のブラジルの古い音楽だが、ジャズとの近似性はボサノヴァよりも高く、ジャズとの親和性も高い。そんなショーロをベースに、近年は武満徹までをも奏でしまうアコースティックトリオの中にはむろん、ジャズの要素も入っている。

また、田中邦和+佐藤芳明で出演するアコーディオン奏者の佐藤芳明も是非チェックしてもらいたい。ジャズには珍しいアコーディン奏者でありながら、山下洋輔トリオの初代ドラマー森山威男のバンドに所属していたことがあったり、椎名林檎に起用されたことがあったり、かと思えば、ジプシー音楽からエルメート・パスコアルのようなブラジル音楽を奏でてみたりと縦横無尽にジャンルを横断している。もしかしたら、「Jazz World Beat」というタイトルに最もふさわしいのはこの人なのかもしれないとも思う。

他にも若手ジャズピアニストの桑原あいや川嶋哲郎(サックス)、さらにはミニ・ペンギン・カフェも出演。「ジャズ」という音楽の振れ幅の広さを体感できるイベントとなるだろう。

イベント情報
『Jazz World Beat 2017』

2017年7月8日(土)
会場:東京都 めぐろパーシモンホール

[大ホール]
山下洋輔×スガダイロー
アントニオ・ザンブージョ
二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band
MC:
中川ヨウ / 中原仁
※17:00開演

[小ホール]
Choro Club
桑原あい
田中邦和+佐藤芳明
川嶋哲郎
ミニ・ペンギン・カフェ
※13:30開演

料金:
大ホールのみ:前売 S席7,000円 A席6,000円
小ホールのみ:前売 全席指定3,800円
1日通し券:大ホールS席+小ホール8,800円
※未就学児入場不可



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