『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の公開を機に、再び注目を集める「岩井俊二」の存在
もともとは、テレビのオムニバスドラマの一本として制作・放送され、のちにその再編集版が劇場公開されるなど、長らくの間ファンに愛され続け、数々のフォロワーを生み出してきた岩井俊二による『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1995年)。それがこの夏、『君の名は。』などで知られるプロデューサー・川村元気の旗振りのもと、脚本・大根仁、制作・シャフトという布陣でアニメーション映画化され、映像作家・岩井俊二は今再び注目を集めている。
『Love Letter』(1995年)で長編映画デビューして以降、『スワロウテイル』(1996年)、『四月物語』(1998年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、そして最近では『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年)など、多くの人気映画の監督として知られる彼の原点はミュージックビデオにある。1980年代の終わり頃から、ZARD、サザンオールスターズ、松たか子など、数えきれないほど多くのミュージックビデオを監督し、現在も1年に数本のペースでミュージックビデオを撮り続けている岩井俊二。ここでは、そんな彼が近年監督したいくつかのミュージックビデオ作品をピックアップしながら、改めてその作家性について考えてみよう。
DAOKO“Forever Friends”(2017年)
1993年にテレビ放送されたオリジナル版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の主題歌として、多くの人々の心に鮮烈な印象を残したREMEDIOSの“Forever Friends”。今回のアニメ版の主題歌に起用されたDAOKOがカバーしたこの曲(劇中の挿入歌としても使用されている)のミュージックビデオは、岩井俊二の監督によるものだ。
しかも、オリジナル版のロケ地であった千葉県飯岡町(現・旭市)に再び足を運び、当時の面影を残す場所で撮影。どこか懐かしい田舎町の風景はもちろん、小学校の教室やプール、バス、線路、そして灯台など、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の世界を織りなす、さまざまなスポットを歩くDAOKOの可憐な姿が郷愁を誘う。ゆっくりと移動するカメラ、スローモーション、降り注ぐ陽光、さらには青を基調としたDAOKOの衣装や小道具など、岩井俊二の美学が貫かれた一本だ。アニメ版はもちろん、オリジナル版のファンも必見の映像と言えるだろう。
YEN TOWN BAND“アイノネ”(2015年)
岩井俊二の代表作『スワロウテイル』(1996年)の劇中バンドとして登場したYEN TOWN BAND(小林武史やCharaが参加)が2015年に復活。“Swallowtail Butterfly~あいのうた~”以来、実に19年ぶりのシングルとしてリリースした“アイノネ”のミュージックビデオを岩井俊二が担当。
映画監督として多くの人に認知されたのち、2010年前後からは、アニメーション――とりわけ、実写で撮影した映像をトレースする「ロトスコープ」という手法に興味を持ち、自身が監督した映画『花とアリス』(2004年)の前日譚となる『花とアリス殺人事件』(2015年)をその手法を用いて自ら監督するなど、アニメーション監督としての顔も持つ岩井俊二。その彼が、ロトスコープの手法を用いて映画『スワロウテイル』の20年後の世界を描いた本作は、懐かしさと斬新さが入り混じった、あるいは虚と実が入り混じった独特な感覚を、見る者にもたらせる。
Aimer“蝶々結び”(2016年)
RADWIMPSの野田洋次郎が楽曲提供&プロデュースしたAimerのヒット曲“蝶々結び”のミュージックビデオを岩井俊二が監督。「蝶々結び」をキーワードに、人生のさまざまな局面を切り取った、ドキュメンタリー調の映像が印象的な一本だ。
少女の靴紐を結ぶ母、浴衣の帯を締める姿など、「結び」が織りなす数々の記憶。とりわけ、体育館で制服のまま、新体操のリボンの演舞をする女の子をスローモーションで捉えた映像は、岩井俊二の真骨頂と言える仕上がりに。ピントは合わせられないものの、浜辺ではしゃぐカップルとして、Aimerと野田洋次郎がゲスト出演していることも話題となった。リリース後も長きにわたって愛され続け、現在視聴回数1400万回を超える大ヒットミュージックビデオとなっている。
illion“Miracle”(2016年)
女性を主人公とした映画が多い印象のある岩井俊二だが、そのミュージックビデオ作品もまた、圧倒的に女性アーティスト、とりわけ女性のシンガーソングライターが多い。そんななかにあって、ある種珍しい一本と言えるのが、野田洋次郎のソロプロジェクト・illionのアルバム『P.Y.L』に収録された“Miracle”のミュージックビデオだ。
野田がSNSで発見し、接触したという韓国の気鋭のクリエイター・Jaehoon Choiの原画とシナリオをベースに、岩井俊二がアニメーション化した本作。髪の毛で表情の見えない青年が、ひとり彷徨い歩きながら、次々と不思議な体験をするシュールレアリスティックな物語。そこにどこか、岩井俊二の心象風景と共通するものを感じるのは気のせいか。ピアノを主体とした楽曲のテイストと相まって、実に繊細な印象を残す一本だ。
新山詩織“さよなら私の恋心”(2017年)
そんな岩井俊二が手がけた最新のミュージックビデオ作品がこちら。20歳のシンガーソングライター、新山詩織の最新シングル“さよなら私の恋心”だ。サウンドプロデュースをはじめ、作曲、編曲をCharaが担当している。
ベッドから起き上がり、物思う表情でアパートのなかを歩き回る新山の姿をワンカットで捉えたミュージックビデオ。この歌のテーマである「私の恋心」を、部屋に佇む複数の女性で表現するというアプローチが面白い。やや紗のかかった独特なトーンや窓から差し込む陽光など、岩井俊二らしさが溢れた作品と言えるだろう。撮影現場で新山は、岩井から「女の子たちに寄り添うように」という指示を受けたコメントしているが、自然体の表情をとらえることをそのなによりの特徴としている岩井俊二の映像は、実はそういった細やかな演出によって可能となっているのかもしれない。
これら5本、そして次作から見えた、岩井俊二が活躍し続ける理由
このように、依然として音楽との関わりも深い岩井俊二だが、その気になる次回作は、どうやらクラムボンの日比谷野外音楽堂公演を撮影した作品になりそうだ。もともと縁があったわけではないが、岩井の映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』で、黒木華演じる主人公のハンドルネームが「クラムボン」だったことから、クラムボン側が話を持ちかけ、クラウドファンディングによって実現したプロジェクトである(参考記事:クラムボンが一歩踏み出して話す、アーティストの「お金」の話)。
そういった些細な「繋がり」を楽しむ姿勢はもちろん、確固たる映像美学を持ちながらも、最新の機材を用いた撮影技法に対する探求心や、配信やアニメーション、果てはクラウドファンディングなど、常に新しいことにトライし続ける姿勢―実は、そのフットワークの軽さこそ、映像作家・岩井俊二が第一線で活躍し続けるなによりの理由なのだろう。
- リリース情報
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- 新山詩織
『さよなら私の恋心』初回限定盤(CD+DVD) -
2017年9月6日(水)発売
価格:1,620円(税込)
JBCZ-6064[CD]
1. さよなら私の恋心
2. らくがきちょう
3. さよなら私の恋心 -instrumental-
[DVD]
・“さよなら私の恋”Music Vodeo+Making
- 新山詩織
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- 新山詩織
『さよなら私の恋心』LIVE盤(CD+DVD) -
2017年9月6日(水)発売
価格:1,836円(税込)
JBCZ-6065[CD]
1. さよなら私の恋心
2. らくがきちょう
3. さよなら私の恋心 -instrumental-
[DVD]
『新山詩織 全国ツアー2016-2017「ファインダーの向こう」』から5曲収録
- 新山詩織
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- 新山詩織
『さよなら私の恋心』通常盤(CD) -
2017年9月6日(水)発売
価格:1,080円(税込)
JBCZ-60661. さよなら私の恋心
2. らくがきちょう
3. さよなら私の恋心 -instrumental-
- 新山詩織
- イベント情報
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- 『新山詩織 ライブツアー2018』
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2018年2月3日(土)
会場:愛知県 名古屋 ボトムライン2018年2月9日(金)
会場:大阪府 umeda TRAD2018年2月12日(月・祝)
会場:東京都 赤坂BLITZ
- プロフィール
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- 岩井俊二 (いわい しゅんじ)
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1963年1月24日生まれ、宮城県出身。1993年、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で日本監督協会新人賞を受賞。テレビドラマでの受賞者は異例。初の劇場用長編映画となる『Love Letter』(1995年)がアジアで大ブレイク。その独特な映像美は「岩井美学」と称され、熱狂的な支持を集め多くのクリエイターに影響を与えている。主な監督作に『スワロウテイル』(1996年)、『四月物語』(1998年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、『花とアリス』(2004年)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年)など。まだ、海外にも活動を広げ『New York, I Love You (3rd episode)』(2009年)、『ヴァンパイア』(2012年)を監督。2015年には、初の長編アニメーション作品となる『花とアリス殺人事件』に挑み、国内外で高い評価を得る。復興支援ソング『花は咲く』の作詞も手がける。
- 新山詩織 (にいやま しおり)
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小学生の頃から、父親の影響で、70年~80年代のブルース・パンク・ロックを中心とした洋楽・邦楽を聴いて育つ。中学卒業直前のある日、手に入れたばかりのアコースティックギターを手に、「もやもやした気持ちのやり場がなくて、衝動的に作った」という初オリジナル曲(作詞、作曲)“だからさ”が完成。高校2年生(16歳)の春、『Treasure Hunt~ビーイングオーディション2012~』に応募。最終審査で、オリジナル曲“だからさ”、椎名林檎“丸の内サディスティック”を弾き語りで演奏し、グランプリ獲得。2013年4月17日に、1stシングル『ゆれるユレル』でメジャーデビュー。2016年4月期よりフジテレビ系月9ドラマ『ラヴソング』に宍戸春乃役で出演。劇中歌で“恋の中”(作詞作曲:福山雅治)が起用された。2017年9月6日、ニューシングル『さよなら私の恋心』を発売。
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