時代の流れを読みつつ、独自のサウンドに挑戦
現在のアメリカの音楽シーンは、ヒップホップ、R&Bが隆盛を極めている。つい最近まで大手を振っていたポップ系やカントリー系に代わって、ヒップホップ、R&B系アーティストたちの楽曲がチャート上位にひしめき合っている状態だ。
そんな変化を敏感に捉え、自分たちのサウンドに吸収、柔軟に対応したのがアダム・レヴィーン率いるMaroon 5のニューアルバム『Red Pill Blues』。本作は、本国アメリカの総合アルバムチャートで初登場2位を記録するなど、快進撃を繰り広げている。もっとも彼らにとって、チャート上位は常駐ポジション。3年前に発表された前作『V』では2度目となる全米ナンバー1を獲得し、同作からはシングルヒットが続出。
しかし前作『V』が大成功を収めたにもかかわらず、あえて彼らは大胆な変貌に挑んだ。メンバー曰く「新作のサウンドは、現在のヒップホップやR&Bから影響を受けている」とのこと。R&Bの影響ならデビュー当初から多分に窺えてはいたものの、「現在の」というのが特筆すべきポイントだろう。
ケンドリック・ラマーやFUTURE、A$AP Rockyといった現在のヒップホップシーンを牽引するラッパーたち、デビューアルバム『Ctrl』でいきなり全米3位をマークした注目の女性R&Bシンガーのシザらがゲストとして迎えられているのも納得だ。とはいえ、バンド演奏にラップを乗せたよくあるジャンルの折衷とは一線を画す。彼らが描くのは、ヴァイブに重点を置いたムーディーなサウンドスケープ。つまり現在のシーンの流れを汲みつつ開拓された、独自のバンドサウンドだ。
完成までにはそうとう試行錯誤もあったというが、その成果は一聴すれば明白。アダムは「安易なポップヒットは作りたくなかった。ダークだったり物憂げだったり、ムーディーでミステリアスな感じ。それがアルバム全体の雰囲気だよ。クールなビートと、808を使ったクールなサウンドがギッシリ詰め込まれている」と語っている。
Maroon 5『Red Pill Blues』ジャケット(Amazonで見る)
ポップさだけじゃない、バンドとしての一体感にも注目
アルバムタイトルの『Red Pill Blues』は、映画『マトリックス』に触発されたもの。この世が仮想現実だったと暴かれる「赤いピル」を飲んだかのような、トリッピーな異次元を感じさせる今作のサウンドには、ピッタリと言えそうだ。
前述のR&B、ヒップホップに影響された新機軸に加えて、チャーリー・プースやDiplo、“Issues”のヒットでブレイクしたジュリア・マイケルズらによる変化球を巻き込みながら、大河ドラマを見ているかのようなドラマチックな展開に翻弄される。シングルヒットを飛ばすだけのバンドと思っていた人には意外かもしれないが、ロックバンドとしての一体感も特筆ものだ。まるでコースターに乗っているかのようなエモーショナルジャーニーが待ち受けている。
いまやロックバンドで欧米のシングルチャートの上位に楽曲を送り込めるのは、彼らかImagine Dragonsくらいなもの。アメリカをはじめとする海外のヒットチャートでロックバンドの存在感が希薄になっている中、なぜ彼らは上位に君臨できるのか。変化を恐れぬMaroon 5の新作『Red Pill Blues』を聴けば、自ずとその答えが見えてくる。と同時に、世界の音楽シーンの最先端の動向も窺い知れるに違いない。
- リリース情報
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- Maroon 5
『Red Pill Blues』日本盤(CD) -
2017年11月1日(水)発売
価格:3,240円(税込)
UICS-13341. Best 4 U
2. What Lovers Do feat. SZA
3. Wait
4. Lips On You
5. Bet My Heart
6. Help Me Out with Julia Michaels
7. Who I Am feat. LunchMoney Lewis
8. Whiskey feat. A$AP Rocky
9. Girls Like You
10. Closure
11. Denim Jacket(ボーナストラック)
12. Visions(ボーナストラック)
13. Don't Wanna Know feat. Kendrick Lamar(ボーナストラック)
14. Cold ft. Future(ボーナストラック)
- Maroon 5
- プロフィール
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- Maroon 5 (まるーん ふぁいぶ)
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米カリフォルニア州ロサンゼルスで結成したポップバンド。前身バンドのカーラズ・フラワーズとして活動していたアダム・レヴィーンらが2001年よりマルーン5と改名して活動開始し、翌年に1stアルバム『ソングス・アバウト・ジェーン』でメジャーデビュー。グラミーの最優秀新人賞を獲得。以降、クリスティーナ・アギレラやウィズ・カリファらとの共演シングルのヒット、グラミーをはじめとする受賞歴も重ね、名実ともにスターバンドとして活躍。2014年、ジェシー・カーマイケルが復帰して5thアルバム『V(ファイブ)』を発表。2017年11月に6thアルバム『Red Pill Blues』を発売。
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