オンリーワンな演奏の真価がわかる、ピアノの弾き語り
矢野:弾き語りっていうのは、私の中ではいつでもできるものですし、そこで自分の全てが出る、そういうプラットフォームのようなものです。世界中どこに行っても、電気がなくてもできるということもとても大切なことですね。そして、あくまでも全責任は自分にある。
矢野顕子は、自身のライフワークでもあるピアノ弾き語りについて、こう語っていた。2017年11月29日リリースのニューアルバム『Soft Landing』は、約7年ぶり5作目となる弾き語りアルバム。筆者は初回限定盤に付属する76ページの特製ブックレット内でのインタビューを担当した。アルバムについて語り下ろしてもらった取材から改めて見えたのは、さまざまな音楽活動を繰り広げてきた彼女の中でも、ピアノ弾き語りが最も「純度が高い」音楽表現であるということだった。
2016年にデビュー40周年を迎えた矢野顕子。これまでも多くのスタイルで活動してきた彼女は、近年も旺盛なコラボレーションや共作を繰り広げている。『飛ばしていくよ』(2014年)と『Welcome to Jupiter』(2015年)という2枚のアルバムは、AZUMA HITOMIやsasakure.UK、Seiho、tofubeatsなど若い世代のトラックメイカーを起用した意欲作だった。
2017年には矢野顕子×上原ひろみ名義で共演アルバム『ラーメンな女たち - LIVE IN TOKYO - 』をリリースし、ツアーを展開。こうしたコラボレーションから伝わってくるのは、多彩な世代やジャンルのアーティストとも自在に息を合わせる矢野顕子の柔軟さと言えるだろう。
一方で、彼女自身が「全責任は自分にある」と言う通り、ピアノ弾き語りに関してはどんな曲も矢野顕子の色に染めてしまう。ロックでもジャズでもクラシックでもない、彼女だけが持つ間合いと呼吸が息づく演奏。歌い始めた瞬間に空気を変えるようなオンリーワンの表現だ。
レコーディングも独特で、ドキュメントのように進められる。ピアノ弾き語り第一作の『SUPER FOLK SONG』(1992年)は、特に緊迫感が漂う真剣勝負の色合いが強く、その張り詰めたムードは録音工程を記録したドキュメンタリー映画『SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~』に色濃く刻み込まれている。
その『SUPER FOLK SONG』から過去全てのピアノ弾き語りシリーズの録音とミックスを手掛けてきた名エンジニアの吉野金次が、今回は監修を担当。彼の提案によって、これまでのスタインウェイではなくベヒシュタインのグランドピアノを弾いているのも本作のポイントと言える。録音は、2017年5月に神奈川県立相模湖交流センターにて行われた。広いホールにグランドピアノと機材を持ち込み音の響きを捉えながら録音を進めていく様子は、初回限定盤付属のDVDにも収録されている。
矢野顕子『Soft Landing』ジャケット(購入はこちら)
歌における言葉へのこだわり。カバーの選曲も歌詞が基準
『Soft Landing』には、フジファブリック“Bye Bye”やYUKI“汽車に乗って”など本人の選曲によるカバー曲が6曲、オリジナル曲が7曲の全13曲が収録されている。まず注目は、前述したように、どんな曲でも自分のものにしてしまうカバーだろう。矢野顕子は、自身が「歌いたい」と思う曲をどう選んでいるのか。そのポイントは歌詞にあるらしい。
矢野:最初に、何か引っかかるものがあるっていうことですね。そこから『これはどういう曲かな?』と思って、まず歌詞をチェックします。そして歌詞のなかで私の考えとは違うものや、私の口からはこういう言葉は出ないなというものがある場合は、その曲は却下することになりますね。
また、YUKIと矢野顕子は2017年のイベント『ふたりでジャンボリー』でも共演を果たしている。そのときに得た手応えも大きかったようだ。
矢野:YUKIさんと一緒にやるのは、本当に楽しいですね。一緒にやることによって、彼女の中の秘められたいろんな素晴らしい点を私が発見していく。そういうことが数々ありました。
アルバムには奥田民生やYO-KING(真心ブラザーズ)らによるバンドO.P.KINGの“OVER”のカバーも収録。この曲を選んだ理由もYO-KINGが書いた歌詞の言葉にあった。
矢野:やはり、詩の素晴らしさにつきますね。私は倉持(陽一)くん(YO-KING)のファンなので。ファンではありますけど、私にも歌える彼の歌って、少ないんですね。その中の貴重な一曲です。私だけではなく多くの人々が心に触れるものだと思います。
一方、オリジナル曲の中での注目は、代表曲“SUPER FOLK SONG”の続編的ナンバー“SUPER FOLK SONG RETURNED”だろう。
この曲は昨年開催したライブイベント『ふたりでジャンボリー~糸井が書いて矢野が歌う1101曲(の予定)~』でも披露された一曲。アルバムには“野球が好きだ”“夕焼けのなかに”と、糸井重里とのタッグによる新曲3曲が収録されている。矢野顕子はこんな風にイベントと制作を振り返っていた。
矢野:いつかは糸井さんとの集大成をやりたいなと思っていたので、とても良かったですね。この二人でとにかく沢山の曲を作って、いろんなプロジェクトをやってきたわけですが、ほとんどの方はその全容がわからない。まあ、私たちも全部はわかってるわけじゃなかったですし(笑)。とても楽しかったです。それだけではなく、彼とは生涯の制作のパートナーなわけですから。なので、新しい曲も作りたいと思って。
アルバムにはNHKドラマ『ブランケット・キャッツ』のために書き下ろされた表題曲“Soft Landing”など、彼女自身が作詞を手掛けた楽曲も収録されている。「ドラマの持つ優しい感じに寄り添うものを書いたつもりです」という“Soft Landing”は、彼女の趣味の領域でもある宇宙関連の用語からとられたもの。カバーを選曲する際にも、歌詞を重視すると語っていた。谷川俊太郎の詩に曲をつけた“引っ越し”も含めて、それぞれの曲が持つ言葉の響きも見逃せない。
世代も、ジャンルも超え、どんなアーティストとも通じ合うことのできる音楽家、矢野顕子。「天性の才能」という言葉で表現してしまうのは安易に過ぎるかもしれないが、アルバムを聴けば、その核にあるものがしっかりと伝わってくるにちがいない。
- リリース情報
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- 矢野顕子
『Soft Landing』初回限定盤(CD+DVD) -
2017年11月29日(水)発売
価格:6,480円(税込)
VIZL-1280[CD]
1. Bye Bye
2. 野球が好きだ
3. Full Moon Tomorrow
4. 汽車に乗って
5. 引っ越し
6. かくれんぼの村
7. OVER
8. Drivin', Cryin', Missin' You
9. Soft Landing
10. Wives and Lovers
11. 六本木で会いましょう
12. 夕焼けのなかに
13. SUPER FOLK SONG RETURNED
[DVD]
1. the Making of Soft Landing
2. Piano Solo Live Rarities
3. Soft Landing Music Videos
※ブックレット付属
- 矢野顕子
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- 矢野顕子
『Soft Landing』通常盤(CD) -
2017年11月29日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-648171. Bye Bye
2. 野球が好きだ
3. Full Moon Tomorrow
4. 汽車に乗って
5. 引っ越し
6. かくれんぼの村
7. OVER
8. Drivin', Cryin', Missin' You
9. Soft Landing
10. Wives and Lovers
11. 六本木で会いましょう
12. 夕焼けのなかに
13. SUPER FOLK SONG RETURNED
- 矢野顕子
- イベント情報
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- TOKYO MIDTOWN presents矢野顕子 Album
『Soft Landing』Special Events -
2017年11月30日(木)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン
料金:無料
- TOKYO MIDTOWN presents矢野顕子 Album
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- 『さとがえる / ひきがたるツアー』
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2017年12月7日(木)
会場:神奈川県 湘南台文化センター 市民シアター2017年12月9日(土)
会場:福島県 郡山市民文化センター 中ホール2017年12月10日(日)
会場:東京都 NHKホール2017年12月12日(火)
会場:愛知県 三井住友海上しらかわホール2017年12月15日(金)
会場:大阪府 サンケイホールブリーゼ2017年12月17日(日)
会場:石川県 北國新聞赤羽ホール
- プロフィール
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- 矢野顕子 (やの あきこ)
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1976年、アルバム『JAPANESE GIRL』でソロデビュー。以来、YMOとの共演や様々なセッション、レコーディングに参加するなど、活動は多岐に渡る。rei harakamiとの「yanokami」、森山良子とのやもりをはじめ、上妻宏光、石川さゆり、上原ひろみ、YUKIなど、様々なジャンルのアーティストとの共演も多い。近年の活動では、2015年、Seiho、tofubeatsなどのトラックメーカーを迎えアルバム『Welcome to Jupiter』をリリース。同年、20周年を迎えた「さとがえるコンサート」では、TIN PANと共演し、そのライヴをおさめた『矢野顕子+ TIN PAN PART II さとがえるコンサート』、スタジオ・ライヴ映像作品『Two Jupiters』を2作同時リリース。2016年、ソロデビュー40周年を迎え、所属レーベル・事務所の垣根を越えたALL TIME BEST ALBUM『矢野山脈』をリリース。2017年4月には、上原ひろみとLIVEアルバム『ラーメンな女たち-LIVE IN TOKYO-』をリリースし、全国にて白熱のピアノセッションを繰り広げた。6月、NHK総合 ドラマ10「ブランケット・キャッツ」の主題歌に新曲『Soft Landing』が起用され、同楽曲の配信限定リリースがスタート。
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