華やかな授賞式の衣装が「黒一色」に
『第75回ゴールデン・グローブ賞』の授賞式が日本時間の1月8日にアメリカ・ロサンゼルスで行なわれた。
テレビシリーズ・ドラマ部門では、少子化が深刻化した社会を舞台に、権利を奪われ、子孫を残すための侍女として支配者に仕える女性たちを描いた『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』が作品賞、女優賞を受賞。またリミテッドシリーズ・テレビ部門ではニコール・キッドマンとリース・ウィザースプーンが共演した『ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~』が最多4部門に輝いた。
映画部門では『スリー・ビルボード』が作品賞を含む3部門を獲得。監督賞は『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロが受賞した。
そんな受賞結果以上に今年の『ゴールデン・グローブ賞』で話題を集めたのが、黒一色に統一された参加者の衣装だろう。映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインへの相次ぐ告発を契機としてハリウッドに広がったセクハラ問題を背景に、性差別や性的嫌がらせの撲滅を訴える女優や俳優が揃って黒いドレスやスーツを纏って授賞式に出席したのだ。
ステージに上がった『ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~』の出演者・スタッフたち ©HFPA, Golden Globe Awards
監督作『レディ・バード』が作品賞などにノミネートされたグレタ・ガーウィグ Photo credit: Getty Images for Tiffany & Co.
「#MeToo」に続く「#TIMESUP」運動とは?
この動きを後押ししたのが多くのハリウッド女優・俳優が賛同する「TIME'S UP」という運動。日本語で「時間切れ」を意味する「TIME'S UP」という言葉が、性差別への抗議を表明する新たなスローガンになろうとしている。
TIME'S UPのInstagramより。「差別や嫌がらせ、虐待に我慢するのはもう終わり」という強いメッセージが掲載されている。
1月1日から始動したこの運動は、ニューヨーク・タイムス紙に全面広告を掲載。発起人にはリース・ウィザースプーンやナタリー・ポートマン、エマ・ストーン、メリル・ストリープらも名を連ね、ジェシカ・チャステイン、ブレイク・ライヴリー、マーゴット・ロビー、エマ・ワトソン、クロエ・グレース・モレッツ、マーゴット・ロビーらも自身のSNSなどで賛同の意を表している。
ナタリー・ポートマンのInstagramより。エマ・ワトソン、メリル・ストリープらの姿も「Dear Sisters」と題された書簡を発表 被害者支援の基金も設立
1月1日に公開された「Dear Sisters」と題されたステートメントには、上司や雇用者、客からの理不尽な性的嫌がらせにあっている農業従事者や家政婦、ビルの管理人、ウェイトレス、工場勤務者といった女性への支援を表明し、有色人種や移民、障がい者、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、白人、シスジェンダー、ストレートの人々よりも弱い立場に置かれがちな人々たちに対する機会や賃金の平等を求めていく、としている。
「TIME'S UP」では、職場でセクハラの被害にあっている人を法的に支援する基金「TIME'S UP Legal Defense Fund」を設立。現在までに1600万ドル(約1800億円)を超える資金を集めている(基金への支援はクラウドファンディングもしくはマーチャンダイズの購入で参加できる)。
さらにセクハラ対策を行なわない企業に罰則を科す法律の整備を訴えるなど、蔓延する性差別への解決に向けた具体的な策を提示。性的嫌がらせなどの被害にあった人々が声を上げた「#MeToo」に続いて、今度は声をあげた人々を守り、また問題そのものを撲滅するために立ち上がろうという運動になっている。
大きな感動を呼んだオプラ・ウィンフリーのスピーチ 「自分の真実を語ることこそが、私たちが持つ最強の手段」
『ゴールデン・グローブ賞』では女性だけでなく、男性俳優陣も黒い衣装で出席。「TIME'S UP」のピンバッジを襟元に着けて授賞式に臨んだ。
『ストレンジャー・シングス』の子役たちも胸に「TIME'S UP」のピンバッジを着けているWe’re ready.#SQUAD #goldenglobes #redcarpet #BeYourBiggestFan pic.twitter.com/uLFibIDfap
— Caleb McLaughlin (@calebmclaughlin) 2018年1月7日
『マスター・オブ・ゼロ』のアジズ・アンサリ
またメリル・ストリープ、ローラ・ダーン、エマ・ワトソンらは、パートナーとして女性や有色人種などの人権問題に取り組むアクティビストたちを連れて出席。
メリル・ストリープとアクティビストのアイジェン・プー
受賞のスピーチでも性差別や性的嫌がらせへの問題提起をする言葉が目立った。なかでも黒人女性として初めて特別賞のセシル・B・デミル賞を受賞したオプラ・ウィンフリーのスピーチは大きな賞賛を集め、彼女を2020年のアメリカ大統領選挙に推すハッシュタグまで生まれた。
約9分におよぶスピーチでオプラは、シドニー・ポワチエが黒人で初めて『アカデミー賞』主演男優賞に輝いた授賞式をリアルタイムで観ていた自身の少女時代を振り返り、黒人の男性があのように祝福されるのを初めて目にしたその瞬間が、床に座ってテレビを見ていた少女の自分にとってどれだけの意味をもたらしたか何度も説明しようとした、と話した。
そして「1982年にシドニーは『ゴールデン・グローブ賞』でセシル・B・デミル賞を受賞しました。今この瞬間にも、どこかに黒人女性として同じ賞を受賞する私の姿を見ている少女がいることも忘れていません」と語った。
オプラ・ウィンフリー ©HFPA, Golden Globe Awards
さらに「私が確信していることがあります。自分の真実を語ることこそが、私たちが持つ最強の手段です。そして私は声をあげ、自分たちのパーソナルな物語をシェアする強さを持った女性たちを誇りに思い、触発されています。私たちはそれぞれが語った物語のおかげでこの会場で祝福されています。そして今年は私自身が物語となったのです」と続けた。
また昨年末に98歳で亡くなったリーシー・テイラー(1944年に6人の武装した白人男性に拉致され、レイプされた黒人女性)の名を挙げ、「彼女は私たちと同じように、力を持った男性たちに壊された社会で長い間生きてきました。あまりにも長い間、女性たちがそうした男性たちに真実を語っても聞いてもらえず、信じてもらえない時代が続きました。でも彼らの時代はもう終わりです。タイムズアップ!彼らの時代は終わったのです」と語り、こう締めくくった。
「これを見ている全ての少女たちに知ってほしい。新しい日はすぐそこまで来ている!そしてその日が本当に来た時、それはもう誰も『Me too』と言わなくていい時代が来るように、ここにいるような多くの立派な女性たち、何人かの素晴らしい男性たちが戦っているおかげなのです」。
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