LILI LIMIT×気鋭作家・UMMMI. PVの域を超えた映像作品を制作

4曲を1本にまとめた、ショートムービーのようなミュージックビデオが公開

2月1日、LILI LIMITが1本のミュージックビデオ(以下、MV)を公開した。『「LIB EP」Music Video』と題されたこのMVは、2月7日にリリースされた3rd EP『LIB EP』に先駆けて公開されたもの。

多くの場合MVとは、ある特定の1曲を題材として作られるものだが、この『「LIB EP」Music Video』は、その名の通り、『LIB EP』に収録された4曲すべてを題材にして作られている。“COLORS”“GET UP”“ENCLOSE”“FEEL IT”の4曲が断片的に繋ぎ合わされ、映像もまた、断片的なイメージの連なりによって構成されているのだ。映像のなかに一貫して登場する一人の女性の存在が、この美しくも歪な曲と映像の連なりに、ひとつの旋律のようなものを与えている。

監督を務めたのは、東京藝術大学に在籍中のUMMMI.

本作を監督したのは、UMMMI.(石原海)。UMMMI.は、これまで多くの芸術祭や展覧会に出品し、2016年には映像インスタレーション『どんぞこの庭』で、アートアワード『CAF賞』の「美術手帖編集長 岩渕貞哉賞」を受賞。2018年に入ってからは、写真家・小林真梨子がキュレーションを務めた、1993年生まれのクリエイターたちによる展覧会『1993』に、櫻木大悟(D.A.N.)、MONJOE(DATS / yahyel)、写真家・草野庸子らとともに参加。映像、インスタレーション、文筆など、様々なジャンルを横断して活動する気鋭の芸術家だ。

UMMMI.
UMMMI.

今回、CINRA.NETではUMMMI.にメールインタビューを実施し、『「LIB EP」Music Video』や「音楽と映像」の未来について、いくつかの問いを投げかけた。

—『「LIB EP」Music Video』を制作するにあたり、どのようなコンセプトがあったのでしょうか?

UMMMI.:都市でも地方でもない、ある種の近未来的な印象をこのEPから受けて、現実的ではない、架空世界の、様々な手に負えないことがゆるやかに繋がりながらワープするような映像を撮りたいと思いました。それが、例えば犬とかシャボン玉だったわけですが……とにかく、EPという何曲か連続した音楽をひとつの映像にまとめなければいけなかったので、繋がりのないものが、何らかの法則に従って連なっているようなものを作りたいと思いました。

—最近はメンバーにVJがいるyahyelのようなバンドがいたり、ビヨンセやフランク・オーシャンのように、映像と音楽をリンクさせた「ビジュアルアルバム」を作り上げる音楽家がいたりと、「音楽」と「映像」の分野を超えたクロスオーバーはとても活発化していると思います。「音楽×映像」の未来という点で、この先、UMMMI.さんがやってみたいことはありますか?

UMMMI.:かつて、音楽は目に見えないものだったけれど、YouTubeなどインターネットの台頭により、年々目に見えるものでもあるような存在の仕方をしているなと思い始めていました。

MVやVJも、アプローチによってはもちろん面白いことができるとは思うのですが、個人的には物語に興味があるので、いつかミュージシャンそのもののドキュメンタリーを撮ってみたいなと思っています。音楽を作っている人は、音楽ではないことをしていても音楽的な瞬間があると思っていて、そういう、愛してる音楽を作っている人の人生を引き受けて、単純な音だけのことではない、音楽的瞬間を近くで眼差しながら、ともに寄り添ってゆく。そのなかで奇跡のような音楽を、言動で奏でる瞬間を、映像で捉えることができたらいいなと思っています。

『LIB EP』は、LILI LIMIT自身のドキュメンタリーであり、告白のような作品だ

「人生を引き受けて、ともに寄り添ってゆく」――最後の問いの答えに刻まれたUMMMI.の願望は、表現者としての誠実かつ純粋な視点から湧き上がるもののように感じられる。優れた表現とは、ときに表現者の「告白」そのものである。そして、LILI LIMITの『LIB EP』もまた、作り手が、そんな表現の定理のなかに全身を埋めながら作り上げられた作品であるかのような印象を受ける。

『LIB EP』で、LILI LIMITは完全にアップデートされた。ベースミュージックやR&Bからの反響を感じさせる、エレクトロニックで、ミニマルなサウンドメイク。本作でLILI LIMITは、強靭なビート、カニエ・ウェスト的な大胆な展開、さらに静寂すらも手なずけている。

ただし彼らは、決して世界的な音楽シーンの流れに合わせて、R&Bやヒップホップ、ミニマルなサウンドに隣接したわけではないだろう。これまでLILI LIMITが貫いてきた「大衆性と芸術性を両立させたい」「受け手の想像力を掻き立たせたい」という精神性を考えれば、自分たちの本能に従った、と捉えた方がしっくりくる。「ポップ」とは聴き手に寄り添うことではなく、聴き手を驚嘆させることにこそ真髄がある、という真理に立ち向かっているとも言えるだろう。LILI LIMITは、聴き手を舐めてかかることもなければ、自分たちの可能性も舐めてはいない。

LILI LIMIT(撮影:西田香織)
LILI LIMIT、2016年1月時のインタビュー記事「LILI LIMITの挑戦は始まったばかり。芸術性と大衆性は両立する?」(撮影:西田香織)

MVの監督を務めたUMMMI.は、『LIB EP』に対する印象を次のように語った。「すごい均衡をギリギリのところで保っている感じがしました。ポップとエクストリームの両者を静かな熱量で抱え続けているまんま、というか。片方が飛び抜けていたらまったく別物の音楽になりそうなものが、ちょうどいいところで、ちょうどいいように混ざっている音楽だなと」。

「LIB」という言葉に込められた、大切な意味とLILI LIMITの覚悟

これまでコンセプチュアルな色の強かった牧野純平(Vo)の綴る言葉には、「告白」の色が強まったような印象を受ける。それ故に、1センテンス毎に「気迫」のようなものを感じさせる。饒舌に語られる百の言葉より、深く息を吸い、血や勇気と共に吐き出された一言の方が表現としては重要だと、いまの牧野は感じているのかもしれない。

1曲目“COLORS”で歌われる<重ねた時代ありふれた言葉 気にしてたら何も産まれはしない>というフレーズは、時代が歌わせた言葉ではなく、牧野自身の内側から溢れ出た言葉だろう。

左から:牧野純平(Vo)、丸谷誠治(Dr)、黒瀬莉世(Ba)、志水美日(Key)、土器大洋(Gt)
左から:牧野純平(Vo)、丸谷誠治(Dr)、黒瀬莉世(Ba)、志水美日(Key)、土器大洋(Gt)

LILI LIMITは、皆が同じ方向に向かって一斉に拳を振り上げるような安直な共感は求めてこなかったバンドであり、聴き手を突き放していた時期もあったと話すが、メジャーデビュー以降は「伝える」ということに人一倍向き合ってきたバンドである(参考記事:LILI LIMIT×写真家・伊丹豪「正気か?」と疑うほどの芸術的挑戦)。本作での彼らは、人と人が1対1で抱き合っても溶け合うことのできない体と心の形を、それでも確かめ合おうとするくらいの本気のコミュニケーションを、聴き手に求めている。

タイトルに冠された「LIB」とは、「解放」を意味する。LILI LIMIT自身が音楽や映像、アートの表現の枠をさらに解放させ、<誰かが決めた誰かの指針 誰かが決めた基準でしかないでしょう>(“COLORS”)と歌うことで、聴き手をも、いまの社会に存在するあらゆる煩わしさから解放させる。このEPは、とても歪で、とても温かい。

LILI LIMIT『LIB EP』
LILI LIMIT『LIB EP』(Amazonで見る

リリース情報
LILI LIMIT
『LIB EP』(CD)

2018年2月7日(水)発売
価格:1,300円(税込)
KSCL-2979

1. COLORS
2. GET UP
3. ENCLOSE
4. FEEL IT

プロフィール
LILI LIMIT
LILI LIMIT (りり りみっと)

牧野純平(Vo)、土器大洋(Gt)、黒瀬莉世(Ba)、志水美日(Key)、丸谷誠治(Dr)。2012年、ボーカル牧野を中心に山口県宇部にて結成。その後福岡へ拠点を移動し現在のメンバーになる。2014年より東京にて活動を開始。2016年7月13日『LIVING ROOM EP』でメジャーデビュー。同年10月26日には1st Full Album『a.k.a』をリリース。2017年4月1日配信限定トラック『LIKE A HEPBURN』をリリース。同年6月28日には2nd EP『LAST SUPPER EP』をリリース。これまでに、SUMMER SONICへの出演や、海外バンドMEWやPOP ETCとのライブ経験も経る中、Gt.土器大洋は、でんぱ組.incへの楽曲提供、ゆずの楽曲のサウンドアレンジを手がけるなど、多方面で活躍中。2017年、1st Full Album『a.k.a』収録“A Short Film”のミュージックビデオが、アジア最大級の国際短編映画祭『ショートショートフィルムフェスティバル2017』ミュージック部門16作品にノミネートされるなど、その作品性も話題となっている。

UMMMI. (うみ)

アーティスト / 映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて作品制作をしている。過去に現代芸術振興財団CAF賞、美術手帖編集長岩渕貞哉賞受賞(2016)。イメージフォーラムフェスティバルヤングパースペクティブ入選(2016)、MEC AWARD2016佳作(2016)、ポンピドゥーセンター公式映像フェスティバルオールピスト東京入選(2014)など。



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