藤井隆の才能を改めて考察 タレントではなく現代のポップスターへ

なぜ、藤井隆が『CROSSING CARNIVAL』に?

CINRA.NETが4月22日に開催する『CROSSING CARNIVAL'18』は、「二度は同じものが生まれない、この日限りの祝祭」というコピーを掲げている。週末ごとに何かしらの大型イベントが催される東京の街で、来場者、そして出演者にとっても特別なイベント作りをするべく、コラボレーションや演出、そしてハプニングも込みのライブ企画を、我々は打ち立てたかった。

他にはない、特別なイベントを作りたいーーそんな思いと並行して頭のなかにあったのは、「CINRA.NETらしいイベントを作りたい」ということ。音楽、映画、アート、演劇、文学……いくつものカルチャーを横断することで生まれるダイナミズムこそが「CINRA.NETらしさ」だと思うからこそ、『CROSSING CARIVAL』もそんなイベントにしたかった。

イベントサイトにて、「言うなれば、存在そのものがCROSSING」というふうにアーティスト・藤井隆のことを紹介させていただいたが、彼をこの祝祭にお招きしたかった大きな理由はそこにある。

『CROSSING CARNIVAL』メインビジュアル
『CROSSING CARNIVAL』メインビジュアル(サイトを見る

藤井隆が、ジャンルを越境し才能を発揮するまでの葛藤

これまでに2回、筆者は藤井隆に取材する機会をいただいたが、音楽家、役者、お笑い芸人、アートディレクターといくつもの顔を持ち、カルチャーを横断する存在としての今に至るまでには、大きな葛藤があったということを教えてもらった。2017年、彼が『light showers』をリリースした際、こう話してくれた。

藤井:いわゆる「通常業務」ではないとされている芝居や音楽の仕事をして取材していただくときに、やたらと「あなたの肩書きはなんですか」とか「役者として」「俳優として」「ミュージシャンとして」と質問されたりすると、「デビューしてから今まで自分の存在の仕方に何か問題があったのか?」と自分自身の存在の仕方に対してうんざりしてしまいます。
藤井隆に訊く、SNSで話題を呼んだ90年代のCM風プロモ動画の裏側」より

1992年、吉本新喜劇でデビューして以降、独自のキャラクターで一世を風靡。2000年には『ナンダカンダ』で歌手デビュー、2002年リリースの1stアルバム『ロミオ道行』は松本隆がプロデュースを手がけ、音楽レーベル「SLENDERIE RECORD」を主宰するなどミュージシャンとしてのイメージも確立している。

藤井のボーカルをフィーチャーした楽曲。tofubeats『First Album』(2014年)収録

藤井隆『ロミオ道行』を聴く(Spotifyを開く

さらに近年は、NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)に出演するなど、俳優としての才能も発揮。そうやってジャンルを越境するあり方を確立する一方で、彼の根底には「芸人」という職業と先人たちに対する絶大な尊敬があるということも語ってくれた。

藤井:「タレント」と呼ばれる方ならお客さんを「わー!」って沸かせなければならない。でも、まず僕には無理。スタイルがいいわけでも、顔がいいわけでもないですからね。じゃあ、芸人としてマイク1本あれば、いつでも笑いがとれるのかといえば、それもできない。タレント、芸人としての強みがないのは劣等感かもしれませんね。
(「藤井隆に訊く、SNSで話題を呼んだ90年代のCM風プロモ動画の裏側」より)
藤井:芸人として自分が面白いと思うことを信じて発表する、いわゆる単独公演の経験もないままずっときました。僕の場合、単独公演がコンサートだったので、そういう点で昔はコンプレックスがありました。

僕は吉本新喜劇出身なので、いただいたセリフと役のなかで面白い人になれるかもしれませんが、「さっきあった出来事を、面白おかしく伝える」という才能はないんですよ。同期の中川家のような圧倒的な実力が自分にないことも早い段階で気づいていました。
(「藤井隆に訊く、SNSで話題を呼んだ90年代のCM風プロモ動画の裏側」より)

世間や関係者からは「どうせ芸人でしょ?」という心ない視線を向けられ、片や芸人として圧倒的な実力を持ち合わせていないことへの劣等感に苛まれるーーそんなふうに複雑にこんがらがった自己を解放するように、藤井隆は歌い、そして踊っているのだ。

やはり、藤井隆を「現代のポップスター」と評したい

身を引き裂かれるような葛藤と引き換えにした多面的な活動、そしてその変幻自在なきらめきに、やはり藤井隆はポップスターそのものだと言いたくなる(こういう言い方は、藤井さんはお好きじゃないかもしれないが)。

単に「芸人」という括りで言っても、古くは、ハナ肇とクレージーキャッツ、ザ・ドリフターズがそうだったように、才能を持った表現者がひとつの領域に止まっている必要性なんてどこにもない。公私ともに藤井と仲のいい星野源を例に挙げるまでもなく、グローバルな視点で見てもドナルド・グローヴァー(aka Childish Gambino)のようなめちゃくちゃな存在だっている(音楽家として『グラミー賞』、脚本家としては『ゴールデングローブ賞』を受賞)。

『CROSSING CARNIVAL'18』に出演する、前野健太や志磨遼平(ドレスコーズ)も同じように言えるが、ジャンルを股にかけて才能を発揮する人たちこそが面白い世の中になっているし、僭越ながらCINRA.NETはそういった人たちの居場所になれればとも思っている。非常に個人的な話をすると、藤井隆をこの祝祭にどうしてもお招きしたかったもうひとつの理由は、そこにあった。

藤井隆がアートディレクションを手がけた『light showers』のCF動画は、ぜひチェックしてほしい

最後になるが、藤井隆は川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女。)が作詞・作曲を手がけるバンド、DADARAYのステージにゲスト出演することも決定している。

DADARAY
DADARAY

DADARAY『DADASTATION』を聴く(Spotifyを開く

一夜限りの特別アレンジで、藤井隆とともにあの名曲が披露される。この新たな音楽的な出会いが何をもたらすのか。それはぜひ、会場で目撃していただきたい。

『CROSSING CARNIVAL』タイムテーブル
『CROSSING CARNIVAL』タイムテーブル(サイトを見る

イベント情報
『CROSSING CARNIVAL'18』

2018年4月22日(日)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE
出演:
KOHH
Chara×韻シストBAND
GRAPEVINE(ゲスト:康本雅子)
大森靖子(Crossing:world's end girlfriend)
藤井隆
おとぎ話(新作の完全再現ライブ)
前野健太
Awesome City Club feat. Jiro Endo
world's end girlfriend × Have a Nice Day!
THE NOVEMBERS(ゲスト:志磨遼平(ドレスコーズ))
GAGLE(ゲスト:鎮座DOPENESS、KGE THE SHADOWMEN)
DADARAY(ゲスト:藤井隆)
WONK
Tempalay
King Gnu
LILI LIMIT(Crossing:牧野正幸)
Emerald(ゲスト:環ROY)
料金:前売6,000円 当日6,500円(共にドリンク別)

プロフィール
藤井隆
藤井隆 (ふじい たかし)

2000年に『ナンダカンダ』でデビュー。松本隆、筒美京平、本間昭光、Tommy february6、堀込高樹などとの作品を重ね音楽的評価を高める。2014年9月自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」を設立し音楽活動の場を広げる。2015年6月、アルバム『Coffee Bar Cowboy』そして2017年9月に冨田謙をプロデューサーに迎え、藤井隆が最も影響を受けた「90年代の音楽」をテーマにアルバム『light showers』リリース。バラエティー、ドラマ、舞台に積極的に出演する傍ら、年間30箇所以上のクラブツアーを行うなど精力的に音楽活動を行っている。



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