おとぎ話が『眺め』最速取材で語った「普通だったらこれで解散」

『CROSSING CARNIVAL』のアティテュード

4月22日開催の『CROSSING CARNIVAL'18』。数多の音楽イベントが存在するこの時代に、CINRA.NETが主催するこの音楽イベントは、その名のとおり、人と人、ジャンルとジャンル、文脈と文脈が交差する、言ってしまえば「CINRA.NETらしい」ものを目指して形作っていったものだ。それは、Charaのようにクロスオーバーを体現する音楽家や、藤井隆や前野健太、志磨遼平といった表現のフィールドが音楽だけにとどまらないアーティスト、KOHHのように言語の壁をものともしないグローバルなアクトが名を連ねたラインナップを見て、おわかりいただけると思う。

『CROSSING CARNIVAL』メインビジュアル
『CROSSING CARNIVAL』メインビジュアル(サイトを見る

「やりきったと思ってるよ。これで解散しないんだったら、これから何をするんだろうって感じ」(有馬)

コラボレーションをはじめとする企画性を打ち出した『CROSSING CARNIVAL』において、少し異質な出演内容のアーティストがいる。そう、おとぎ話だ。おとぎ話は、6月にリリースする新作『眺め』の完全再現ライブを行うことが決定している。この企画は、「今のおとぎ話の音楽をどう届けるべきか?」をバンド側と何度も話し合って決まったものだ。おとぎ話との企画を楽しみにしてくれている方のために、『眺め』完成直後の最速インタビューを織り交ぜた解説をお届けしたい。

最初に断言したいのだが、『眺め』というアルバムは、おとぎ話のどの作品とも異なるものに仕上がっている。メンバーも口を揃えて、「これまでとは違う」と語る。一足先に最終ミックス前の音源を聴かせてもらった筆者も、そこについては同意する。何が具体的に違うのだろうか? 『眺め』の仕上がりについて、有馬和樹はこう語る。

有馬(Vo,Gt):やりきったと思ってるよ。普通のバンドだったら、これ出して解散すると思うくらい、ひとつの到達点になってる。解散しないんだったら、これから何をするんだろうって感じ。

謎めいてるというかさ、もはや俺たちもどんなアルバムかわからないんだよね。でも、日本のどのバンドも、どの音楽家も、このアルバムは作れないと思う。そう考えると、見過ごすことはできても、否定することはできないアルバムなんじゃないかな。

有馬和樹(おとぎ話)
有馬和樹(おとぎ話)

この「やりきった」という感覚は、おとぎ話として誰もが納得するような作品を根詰めて作ったということではない。それは有馬をはじめ、メンバー全員の肩の力が抜けていることからもよく伝わってくる。話を聞くうちに、「普通」という『眺め』を形成するキーワードが見えてきた。

前越(Dr):今作はクセがあまりないよね。やっぱり昔はクセが強かったから。個性とかクセとかをなるべく排除していって、音そのもので聴かせるみたいなところがあるかもな。

有馬:「『個性的』なことを狙ってやろうとしない」「自分のできることだけをやる」ってことで逆に個性が出るんだと思う。俺らが考える普通って、普通の人からしたら普通じゃないって気づいたことで楽になったんだよね。「普通のことを普通にやればいいや」って考えてる時点で、もう普通じゃないじゃん?(笑)

おとぎ話は、これまでと明らかに違う境地にいる

俺たちは普通でいい――言うなれば、『眺め』はおとぎ話の無意識が結晶化したようなアルバムだと思う。ありのまま、自然体でという境地に至るまでの心境の変化について有馬はこう説明する。

有馬:俺はずーっと人の目とか評価を気にしてやってきたんだけど、『10YC』のツアー(2017年に開催されたデビュー10周年ツアー『10 YEARS CARAT TOUR』)のときに「ちゃんと面白いバンドだな」「大丈夫じゃん」って思えたんだよね。昔は、自分は面白いことやっているはずなのに伝わらない、みたいなことばっかり考えてたけど、今は「まぁ伝わるんじゃないかな」って思えるというか。

今のおとぎ話を象徴する“COSMOS”は、「今までで一番いい曲を残したい」「絶対に多くの人に届く曲にしたい」という明確な意識のもとで書かれた楽曲で、言うなれば自然体で生まれたものではない。その“COSMOS”を収録した『CULTURE CLUB』(2015年)は、彼ら自身が定義した「おとぎ話らしさ」をわかりやすく世に提示した自覚的な作品だったし、それと地続きに、次作『ISLAY』(2016年)もリスナーに対してわかりやすく設計された部分を残した作品だった。しかし、今回の『眺め』は違うのだということを彼らは強調する。

『CULTURE CLUB』を聴く(Spotifyを開く

『ISLAY』を聴く(Spotifyを開く

10年以上のキャリアを通じて着実に積み重ねた自信と手応えから、バンドは自らの「普通」に立ち返った。ただ、おとぎ話の場合、その「普通」がやはり普通でないから面白い。

有馬:やっぱり俺、Captain Beefheartとかルー・リードとかが好きだからね。最近はSun Raとか聴いてたり、ロックよりもわけわかんないワールドミュージックがもともと好きだし。あと、バンドの姿勢的には、ぼーっとしている感じのほうがかっこいいなっていうのはあったかな。Yo La Tengoっぽくやりたいっていうかね。

これまでに影響源として言及していたPixiesやThe Flaming Lipsではなく、同じオルタナティブロックでもYo La Tengoの名前が挙がるあたりに、『眺め』を読み解くヒントがあるように思う。

有馬:あまり派手にしないとか、反復っていうのはテーマとしてあったんだよね。“太陽の讃歌”(『ISLAY』収録曲)の後半みたいな感じというか。Tyler, the Creatorとか、あの辺の人たちもさ、CANとかクラウトロックが好きなんだろうなって思うんだけど、今だったらああいうコード感のあまりない音楽をバンドでやるのが面白いかなって。

牛尾(Gt):ギターメインというよりはリズム中心。だから俺、あんまり弾いてないよ(笑)。でも弾き倒してないぶん、逆にギターは印象的になっている感じはするかな。

前越:割とみんなでリズム隊やっている感じだよね。

風間(Ba):ほんと、今までとは違うアプローチで作っていたよ。

おとぎ話にとって、特別な意味を持つ『CROSSING CARNIVAL'18』のステージ

ここまで解説したように『眺め』は相当オリジナルな作品に仕上がっているし、しかもこれまでのどの作品とも違う手触りの作品になっている。

無邪気で人懐っこいメロディーといい歌、縦横無尽で彩り豊かなギター、そしてそれを支える鉄壁のリズムセクション――おとぎ話がこの4人でやっている限り変わらない部分ももちろんあるが、今作がどのように受け止められるのかは、メンバーたちにも読めない部分があったのだという。だからこそ、いち早く『眺め』を多くの人に触れてもらう機会を用意したかった。

おとぎ話(左から:前越啓輔、風間洋隆、牛尾健太、有馬和樹)
おとぎ話(左から:前越啓輔、風間洋隆、牛尾健太、有馬和樹)

6月にリリースするアルバムを、先んじてライブで披露するーーおとぎ話にとって、『CROSSING CARNIVAL'18』は単なる企画イベントではなく、マイルストーンのような意味を持つだろうと思っている。それは観に来ていただいた方にとってもきっと同じはず。22日は、おとぎ話がこれから紡いていく物語を、そして何よりこの謎めいた新作の正体を、その目と耳で確かめてほしい。

『CROSSING CARNIVAL』タイムテーブル
『CROSSING CARNIVAL』タイムテーブル(サイトを見る

イベント情報
『CROSSING CARNIVAL'18』

2018年4月22日(日)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE
出演:
KOHH
Chara×韻シストBAND
GRAPEVINE(ゲスト:康本雅子)
大森靖子(Crossing:world's end girlfriend)
藤井隆
おとぎ話(新作の完全再現ライブ)
前野健太
Awesome City Club feat. Jiro Endo
world's end girlfriend × Have a Nice Day!
THE NOVEMBERS(ゲスト:志磨遼平(ドレスコーズ))
GAGLE(ゲスト:鎮座DOPENESS、KGE THE SHADOWMEN)
DADARAY(ゲスト:藤井隆)
WONK
Tempalay×JABBA DA FOOTBALL CLUB
King Gnu×Ryohu
LILI LIMIT(Crossing:牧野正幸)
Emerald(ゲスト:環ROY)
料金:前売6,000円 当日6,500円(共にドリンク別)

プロフィール
おとぎ話
おとぎ話 (おとぎばなし)

2000年に大学で出会った有馬と風間により結成。同校の牛尾と前越が加わり現在の編成に。2007年にファーストアルバム『SALE!』以来、8枚のアルバムをリリース。felicity移籍第一弾アルバム『CULTURE CLUB』(2015年)が話題に。映画『おとぎ話みたい』での山戸結希監督とのコラボレーションは熱烈なフォローワーを生み続けています。同じく山戸監督による映画『溺れるナイフ』提供曲「めぐり逢えたら」を収録した『ISLAY』(2016年)。ライブバンドとして評価の高さに加えて映画、映像、演劇、お笑い等、各界クリエーターよりのラブソングは止みません。「日本人による不思議でポップなロックンロール」をコンセプトに掲げて精力的に活動中。



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