京都出身の4人組インストバンド・jizueが、メジャー初となるフルアルバム『ROOM』を7月25日に発表する。緊迫感のあるリードトラック“elephant in the room”や、元ちとせをゲストボーカルに迎えた“Sing-la(森羅)”など、これまでになく幅広い曲調が収められ、本作でバンドのことを初めて知る人にとっても、格好の入口となる作品だと言えよう。
そこで本稿では、ミュージシャンや関係者の声をもとに、jizueというバンドの本質的な魅力に改めて迫ることにした。Schroeder-Headz、fox capture plan、LUCKY TAPESという親交の深い3組、ミュージックビデオやアーティスト写真を手掛けるGLOWZ、『FUJI ROCK FESTIVAL '18』主催社・SMASHの山本紀行への取材で得た言葉からは、楽曲やライブにおける個性だけではなく、なにより人との「縁」を大事にするバンドの姿が浮かび上がってきた。
そもそも、jizueってどんなバンド?
2006年に井上典政、山田剛、粉川心を中心に結成され、翌年より片木希依が加入し、現在の4人で活動を本格化させた京都出身のインストバンド、jizue。男性3人はもともとサッカー好きの幼馴染であり、jizueというバンド名も、元フランス代表のスター選手で、先日レアルマドリードの監督を勇退したジネディーヌ・ジダンの愛称から名付けられている。
結成当初はハードコア寄りの音楽性だったが、徐々にジャズやラテンなどを吸収し、プログレ的な構築感と、ジャムバンド的な解放感を併せ持ったバンドへと変化。さらには、フェスやイベントへの出演が増えたことにより、ダンスミュージック的な4つ打ちの要素も取り入れ、踊れる音楽性へと進化していった。昨年発表されたメジャーデビュー作『grassroots』では、それまでのマイナー調のイメージではなく、オーディエンスと同じ時間を分かち合う喜びを表現したような楽曲“grass”を収録するに至っている(参考記事:jizue、結成11年目にしてメジャーデビュー。その理由と理想を訊く)。
すでにバンド結成からは12年。これまでオリジナルアルバムを5枚発表し、昨年ついにメジャーデビューと、そのキャリアは決して順風満帆なものではなく、むしろゆっくりだったが、それは彼らがなにより人との「縁」を大事にして、着実に歩みを進めてきたことを意味している。インディーズ時代に作品をリリースしてきた「bud music」は、近い距離で一緒にやれる仲間として選んだレーベルで、なおかつメジャーデビュー後もともに歩んでいるというのが、とても象徴的。また、同じbud musicに所属するNabowaの山本啓や、同じ関西出身であるtricotの中嶋イッキュウ、YeYeなど、これまでの作品に参加しているゲストは浅からぬ関係性を持った同郷のミュージシャンが多いのも特徴だ。
皆が口を揃えて証言する「メンバーの仲のよさ」
では、なぜ彼らがこうして人との「縁」を重視するのかといえば、他の誰でもない、jizueのメンバー4人自身がまず人として繋がっているからである。井上は常々「この4人でずっと面白いことを続けるのがバンドの目標」と語っているように、音楽的な好みやプレイヤーとしての相性はもちろん、なにより人間として彼らが強く結び付いているからこそ、その周りにもさまざまな「縁」が生まれるのだ。
jizueの他、PolarisやOvallなどのミュージックビデオも手掛けるGLOWZの山田祥子と、現在所属しているビクターエンタテインメント洋楽部の先輩であり、片木のソロアルバムへの参加や、スプリットアルバム『COLOURS』(2018年)のリリースなど、親交の深いSchroeder-Headzの渡辺シュンスケも、なにより彼らの「仲のよさ」を強調する。
山田(GLOWZ):jizueのメンバーは、本当に気さくで面白くて仲がいい! ミュージックビデオやアーティスト写真の撮影でjizueを担当してくださっているヘアメイクの上原舞美さんは高校の後輩であったり……関わって来た人との繋がりをとても大切にしているし、愛されている方々だなと思います。
渡辺(Schroeder-Headz):打ち上げで何度か目の当たりにした、僕が勝手にそう呼んでいる「jizue劇場」。ステージではクールに見える山田くんの、無茶振りを受けての寒い一発ギャグや、全然似てないモノマネなどの多芸(?)に執拗に絡む、(粉川)心くんのお茶目な人柄。そして、jizueのレコーディングエンジニアも務める井上さんの優しくもときには激しいツッコミ。
その3人の妙な寸劇が、打ち上げのさなか唐突に始まるわけですが、もらい事故を警戒しつつ、最前列の客席からそのやりとりを眺めながらも時折鋭いツッコミを入れて、ケラケラ笑う(片木)希依ちゃん。なんちゅう仲のいいバンドだと思いつつ、そうか、あの見事なバンドアンサンブルの秘密は、まさにこの「jizue劇場」から生まれていたのか、と芋焼酎お湯割を片手に妙に納得したのでした。
彼らがインディーズ時代に発表した5枚のアルバムは、それぞれ『Bookshelf』『novel』『journal』『shiori』『story』と、「本」にまつわるタイトルが付けられていた。「jizue」という物語には、活動を通じて出会った何人もの人々の名前が記されていることだろう。
反骨精神を抱きながら、音でメッセージを訴える一面も持つ
jizueにとって約2年ぶりとなるニューアルバム『ROOM』。“grass”のアルバムバージョンや“trip”を含む全11曲には、彼らの内包する多彩な側面がギュッと凝縮され、これまでになくバラエティーに富みながら、現在のjizueの姿を確かに刻んだ作品となっている。
打ち込みによるエレクトロニカ風のイントロダクション“to enter”に続くのが、本作のリードトラック“elephant in the room”。緊迫感のある雰囲気のなか、複雑な拍子やキメがスピード感たっぷりに展開される、実にjizueらしいナンバーであり、初期のハードコア寄りの作風を連想させつつも、別次元へと到達した強力な1曲だ。
「elephant in the room」というワードは、「触れてはいけないこと」とか「空気を読む」といった意味合いの慣用句だが、かつてShing02と共鳴し、風営法によるクラブ規制に対して“dance”という楽曲を発表するなど、社会派な一面も持つバンドだけに、今の時代に対するなんらかのメッセージが込められているのかもしれない。ミュージックビデオを手掛けたGLOWZの山田祥子は次のように語る。
山田(GLOWZ):メンバーの皆さんは打ち合わせのときに、“elephant in the room”という慣用句を「見て見ぬふりをされた問題」というニュアンスで表現していました。アルバム『ROOM』のジャケットとリンクして、「シュールレアリズム」をテーマにできたら、という要望をもとに映像ならではの表現を模索しました。jizueの持っている、反骨精神やダークサイドを表しているかのような楽曲。見る人によって、色々な解釈をしていただけたらと思います。
jizue『ROOM』ジャケット(Amazonで見る)
新作は、世界的なジャズやヒップホップの潮流なども捉えている
アルバムの中盤には、元ちとせをゲストに迎えた“Sing-la(森羅)”を収録。jizueからのラブコールによって実現したコラボレーションだそうだが、ブラックミュージック的なディーバを迎えるのではなく、奄美の歌姫を迎えているのがなんともjizueらしいと言えよう。昨年の取材時には、アルメニア出身のピアニストであるティグラン・ハマシアンへの傾倒を語っていたが、彼の音楽が内包する東欧的なエキゾチシズムを、jizueなりに日本人のエキゾチシズムとして解釈したのが、この曲だと言えるかもしれない。
元ちとせ。オフィシャルサイトでは「私にとって新しい曲でリズムがとても難しく感じて苦戦しましたが。。。言葉と音の世界観が私を引っ張ってくれました。jizueの皆さんとライブ出来る日が楽しみです。」とコメントしている。
さらには、ポリリズミックに再構築された“Englishman in New York”のカバー、ヒップホップトラックの“Detour”、片木の速弾きが印象的な“swallow”を経て、jizue史上最も静謐ながら深いエモーションを感じさせる“green lake”が後半のハイライトを作り出す。そして、アウトロ的な“birth”、さらには、ボーナストラック的な位置付けの“I Miss You(EM remix)”でアルバムは幕を閉じている。
もともと「ポストロック」や「ジャムバンド」の括りで語れることの多いバンドだが、前述のティグラン・ハマシアンや、以前から粉川がファンを公言するマーク・ジュリアナやブライアン・ブレイドといったジャズドラマーの影響も含め、『ROOM』は確かな時代性も備えつつ、jizueが一言では言い表せない音楽性のバンドであることを証明する作品となった。
jizue『ROOM』(Apple Musicはこちら)
例えば、ceroの『POLY LIFE MULTI SOUL』は近年のジャズやヒップホップにおいて世界的な潮流となっているポリリズムの面白さを改めて提示する作品だったが、その要素はjizueの作品にも十二分に含まれている。また、8月24日に対バンが予定されているtoeにしても、かつてのポストロックのイメージから、いち早くネオソウル的な音楽性へと舵を切ったバンドであり、だからこそ、この2組の対バンは見逃せないのである。
もちろん、決してなんらかのブームに寄りかかることなく、あくまで「この4人ありき」で音を奏でるjizueというバンドは、まさに唯一無二だと言っていいだろう。
Schroeder-Headz、fox capture plan、LUCKY TAPESに訊く「自分たちにはなくてjizueのライブにはあるものって?」
最後に、jizueの最大の魅力と言っても過言ではない「ライブ」について、彼らと対バン経験のあるミュージシャンや関係者の声を紹介しながら迫ってみよう。まずは再び登場の山田祥子と渡辺シュンスケに加え、新作のリリースツアーでも共演するfox capture planの岸本亮、LUCKY TAPESの高橋健介からコメントを寄せてもらった。
山田(GLOWZ):歌詞のないインストゥルメンタルなのに、歌を聴いたときのような情感や風景が見えてくる音楽。ライブ撮影も何度かさせていただいていますが、1曲1曲の4人の集中力がとても高くて、その気の流れやアスリートのような息遣いを捉えたいと思いながらレンズを覗いていました。一番最初に作ったという“SAKURA”が、アンコールの定番曲として今も磨き続けられているのが素敵です。
渡辺(Schroeder-Headz):演奏におけるHotを内包したCoolの絶妙なバランス。ハイブリッドで美しく繊細なアンサンブルのなかからも、4人の熱いソウルが色々な色彩を放って溢れ出してくるのが目に見えるよう。それから、各メンバーの出す音が、それぞれ本当にいい音で気持ちいい(これ、インストバンドにとって超重要)。いい音いい演奏で、あんな立体的な素晴らしいアンサンブルをされたら、もう、めっちゃいいとしか言えないわけで。あとは、希依ちゃんの本当に楽しそうにピアノを弾く姿。いいな~っていつも思う。
岸本(fox capture plan):楽曲構成の練り方やライブでのエモーションのすさまじさは毎回刺激になります。バンドとして、スタジオで入念に取り組んでいる姿が映えてくる。素晴らしい。リスペクト。リフで引っ張る曲やラテンジャズテイストの曲は我々より多い印象ですね。あーいうのはアガります!
fox capture plan。10月28日、大阪梅田Shangri-Laにて、jizueリリースツアーに出演。
高橋健介(LUCKY TAPES):高い演奏力、そしてエネルギーがとにかくすごい。特にライブはエネルギーの塊に毎回やられます。jizueは演奏の「縦」がものすごく揃ってるところが、僕らにはないところだなと思っています。
LUCKY TAPES。12月7日、愛知NAGOYA CLUB QUATTROにて、jizueリリースツアーに出演。
『フジロック』での楽しみ方を、SMASH担当者に訊いた
4人のコメントに個人的な意見を付け加えるなら、先日のライブレポートにも書かせてもらったトランス感はjizueならではのものだと思うので、ぜひとも体感していただきたい(参考記事:ADAM at、jizue、シュローダーが共演『ビクタージャズ祭り』レポ)。
そして、『ROOM』の発表から2日後の7月27日には、『FUJI ROCK FESTIVAL '18』に出演。2012年の初出演時は「GYPSY AVALON」だったが、今年は堂々「FIELD OF HEAVEN」のトップバッターを飾る。SMASHの山本紀行にもコメントを寄せてもらった。
山本(SMASH):jizueには「JAZZ」というキーワードがあるので、落ち着いた雰囲気やテクニカルな演奏などを想像される方も多いかと思うのですが、多彩なメロディーやフィジカリーなライブパフォーマンスなど、JAZZというキーワードを突き抜けたところが魅力だと思います。いつものように、ときには熱く激しく、ときには素敵なメロディーを苗場で響かせてほしいですね。jizueのライブはROCKです。リズムやメロディーに体や心を預けて一緒に踊ってもらえたらと思います。
そういえば、『ROOM』というアルバムタイトルにはどんな意味があるのだろうか。“elephant in the room”から取られたのかとは思うが、なにか思惑があるはず。それを僕なりに考えてみれば、なにより人との「縁」を大事にする彼らのこと、jizueという部屋にみんなを迎え入れようとする、より開かれた姿勢の表れなのではないかと思う。8月から年末にかけても、数多くのライブを予定。jizueはいつだって、君との出会いを待っている。
- リリース情報
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- jizue
『ROOM』初回限定盤(CD+DVD) -
2018年7月25日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VIZJ-22︎[CD]
1. to enter
2. elephant in the room
3. grass(album version)
4. trip
5. Sing-la(森羅)feat.元ちとせ
6. Englishman in New York
7. Detour
8. swallow
9. green lake
10. birth
11. I Miss You(EM remix)
[DVD]
1. chaser(Live at Shibuya WWW,Tokyo)
2. tower(Live at Hidden Agenda,Hong kong)
3. trip(Live at THE WALL,Taipei)
4. sakura(Live at Shibuya WWW,Tokyo)
5. grass official music video
※DVDは初回限定盤に付属
- jizue
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- jizue
『ROOM』通常盤(CD) -
2018年7月25日(水)発売
価格:2,592円(税込)
VICJ-617741. to enter
2. elephant in the room
3. grass(album version)
4. trip
5. Sing-la(森羅)feat.元ちとせ
6. Englishman in New York
7. Detour
8. swallow
9. green lake
10. birth
11. I Miss You(EM remix)
- jizue
- イベント情報
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- 『jizue New Album「ROOM」Release Live』
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2018年8月24日(金)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
ゲスト:toe2018年10月28日(日)
会場:大阪府 梅田Shangri-La
ゲスト:fox capture plan2018年11月16日(金)
会場:福岡県 ROOMS
ゲスト:COLTECO2018年12月2日(日)
会場:京都府 MUSE
ゲスト:TENDRE2018年12月7日(金)
会場:愛知県 NAGOYA CLUB QUATTRO
ゲスト:LUCKY TAPES2018年12月22日(土)
会場:東京都 恵比寿LIQUIDROOM
ゲスト:元ちとせ(Vo)、Yukako Shiba(Viiolin)、Naoko Kakutani(Viola)、Eri Hayashi(Contrabass)
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- 『ニューアルバム『ROOM』インストアライブ&ジャケットサイン』
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2018年8月19日(日)
会場:京都府 タワーレコード京都店2018年8月26日(日)
会場:東京都 タワーレコード渋谷店2018年8月27日(月)
会場:東京都 タワーレコード新宿店
- プロフィール
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- jizue (じずー)
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2006年、井上典政(Gt)、山田剛(Ba)、粉川心(Dr)を中心に結成、翌年より片木希依(Pf)が加入。これまでに『Bookshelf』『novel』『journal』『shiori』『story』の5枚のフルアルバムを発表し、そのどれもがロングセラーを記録。ロックや、ハードコアに影響を受けた魂を揺さぶるような力強さ、ジャズの持つスウィング感、叙情的な旋律が絶妙なバランスで混ざり合ったサウンドで、地元京都を中心に人気を高め、『FUJI ROCKFESTIVAL』『GREENROOM FESTIVAL』『朝霧JAM』といった大型フェスにも出演。国内に留まらず、カナダ、インドネシア、中国、台湾など、海外にも進出し、その圧倒的な演奏力で高い評価を得ている。2017年10月、ミニアルバム『grassroots』でビクターよりメジャーデビュー。そして、2018年7月25日、2年ぶりとなる6枚目のフルアルバム『ROOM』をリリース。
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