オーバーサイズのメンズスーツで登場したレディー・ガガ
『アリー/ スター誕生』で映画初主演を果たしたレディー・ガガ。10月25日に『第31回東京国際映画祭』のオープニング作品として日本で初披露された本作での彼女の演技は、本国で『アカデミー賞』のノミネーションが有力視されるほど高い評価を獲得している。
映画は8月の『ヴェネチア国際映画祭』でワールドプレミアを迎えた。ガガは本作のプロモーションでたびたび煌びやか衣装に身を包んで公の場に現れ、人々の目を楽しませている。
だが『ELLE』が毎年主催する『Women in Hollywood』での彼女は少し違った。10月15日に行なわれたこのイベントでのガガは、オーバーサイズのパンツスーツを纏い、髪は1つ結び、メイクも落ち着いた印象だ。彼女がこの日着用していたのはマークジェイコブスの女性用メンズスーツだという。
「力を取り戻したかった。私はパンツを履きました」
この日、ガガがこの衣装を選んだ理由はその日のスピーチで明かされた。その一部を紹介する。
イベントのために準備をしていて、「ドレスというドレス、ハイヒールというハイヒール」を試し、気分が悪くなったガガは、「ハリウッドの女性とは本来どういうものなのだろう?」と自問したという。
「私たちは世間を楽しませるためだけの物ではありません。私たちは人々を笑顔にしたり、しかめっ面にしたりするただのイメージではありません。私たちは人々の楽しみのために互いに競い合う巨大な美の見世物の一員でもありません。私たちハリウッドの女性は『声』なのです。私たちには世界に対する深い考えやアイデアや信念や価値観があります。私たちは声をあげ、世間に聞かせ、黙らされた時には立ち上がる力があります」
10月15日に開催された『ELLE』の『Women in Hollywood』イベントより。レディー・ガガとシャーリーズ・セロン
彼女は「重要なのは何をレッドカーペットで着るか、だけなのか」と感じて悲しい気持ちになりながら、10着ほど試したあとに「隅に静かに埋もれていた」マークジェイコブスのスーツを見つけた。「ロダルテは?」「ディオールは?」とドレスを勧めてくる周囲の声をよそに彼女はそのスーツを着たという。
「涙が出ました。このスーツが今日の私だと感じられた。このスーツを着て、自分自身の真実を感じられた。そして今夜何が言いたかったのかがはっきりわかったのです」
「エンターテイメント業界の人物から性的暴行を受けたことのある者として、未だその相手の名前を言う勇気が出ない女性として、慢性的な痛みと共に生きている女性として、男性の言うことを聞くようすごく若い頃にしつけられた女性として、私は今日、力を取り戻したかった。私はパンツを履きました」
ハリウッドの女性として。「私にはプラットフォームがある。変化を起こせるチャンスがある」
彼女はその後、自身が性的暴行を受けた経験や、身体的・精神的に苦しんできたことについて語り、メンタルヘルスに関する問題への関心向上をその場にいたハリウッドの人間たちに訴えた。
「私にとってはこれがハリウッドの女性でいるということです――私にはプラットフォームがある。変化を起こせるチャンスがある。私たちが耳を傾け、信じ、周囲の助けを必要としている人にもっと細心の注意を払うことを願います。人々の助けになりましょう。変化の原動力になりましょう」
米『ELLE』のウェブサイトでは、感情を込めて時に言葉を詰まらせながらスピーチをするガガの映像と、一部の書き起こしが掲載されている。
初主演映画『アリー/ スター誕生』でも見せた無防備な姿
女性らしい華やかなドレスではなく、オーバーサイズのメンズスーツを着て「力を取り戻したかった」「私たちは『声』だ」と語り、ハリウッドの女性であることを意味を説いた彼女のスピーチは多くの人々の心を動かし、インターネットでは賞賛の言葉が溢れた。2017年に公開されたNetflixのドキュメンタリー『レディー・ガガ: Five Foot Two』でも彼女の素顔を見ることができるが、かつてのパブリックイメージである過激で強烈な姿ではなく、力強くも自分自身の脆い内面をさらけ出したガガの姿は、『アリー/ スター誕生』で彼女が演じたアリーの姿とも重なる。
『アリー/ スター誕生』は、音楽業界での成功を夢見るアリーが、国民的ミュージシャンであるジャクソン(本作で監督デビューを果たしたブラッドリー・クーパーが演じる)との出会いをきっかけに挫折を経験しながらスターへの階段を駆け上がっていく姿を描いた作品だ。ガガはぼさぼさの髪で、ノーメイクでスクリーンに登場する。
自分の容姿に対するコンプレックスをこぼしていたアリーがやがて堂々と大観衆の前でステージに立ち、観客を圧倒する様は見る者を勇気づけるだろうし、一方でジャクソンを深く愛し、愛ゆえに葛藤する姿も共感を呼ぶだろう。この映画はラブロマンスであり、感動を呼ぶ音楽エンターテイメント映画であり、女性や声なき者をエンパワーする映画でもある。日本では12月21日に公開される本作。その公開を前に届けられた胸を打つスピーチは、レディー・ガガというエンターテイナーがデビューから10年を経た現在も人々を魅了し続ける理由を明らかにしているようだった。
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