BiSHの熱気に、世間や会場キャパがようやく追いついてきた

2018年のBiSHに感じた「無敵感」

破竹の勢いでシーンを駆け上がってきたメジャーデビューからの2年を経て、2018年のBiSHに感じたのは、ある種の「無敵感」のようなものだった。そして、彼女たち自身も、止まることなく走り続けてきた。

今年5月22日には横浜アリーナにて即日完売となったワンマン公演『BiSH "TO THE END"』を開催。夏には各地の大型フェスに出演し、爪痕を残してきた。

10月からは初の全国ホールツアー『BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR』を開催。12月5日にはメジャー5枚目のシングル『stereo future』をリリースし、12月21日には幕張メッセにて史上最大規模の単独ワンマン公演『BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL “THE NUDE”』が開催される。

昨年7月に開催された幕張メッセイベントホールでの公演で、アイナ・ジ・エンドは「圧倒的な存在になりたい」、セントチヒロ・チッチは「最高のその先へ行くことを約束します」と言っていたけれど、まさにその言葉を形にするような1年だった。

BiSH</p>
BiSH

BiSHを取り巻く熱気は、今に始まったものではない

多くのメディアはグループの現状を「躍進」や「ブレイク」という言葉で説明する。『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)への出演やCMソングへの起用など、テレビでの露出をその理由として説明するような論もある。

しかし筆者としては、デビュー当時から変わらない確信のようなものがあった。ライブを観るたびに「渦巻いている熱気に会場のキャパシティーが追い着いていない感覚」を目の当たりにしている印象があった。特にそれを強く感じたのが、“オーケストラ”を12人のストリングスと共に披露した2016年10月の日比谷野外音楽堂公演『Less Than SEX TOUR FiNAL“帝王切開”』。終演後にメンバーやスタッフにも楽屋裏で伝えたのだけれど、その時点で、1万人や2万人が熱狂に沸くアリーナの絵が思い浮かんだのをよく覚えている。

そして“オーケストラ”はBiSHの代表曲となり、壮大なストリングスと締め付けられるようなエモーションを放つ歌声が同居するその曲調は、グループにとって、ひとつの王道となった。

“プロミスザスター”や“My landscape”、今年6月にゲリラリリースされた“NON TiE-UP”のように、いわば勝負曲と言えるタイミングで、BiSHはこうした方向性の楽曲をリリースしてきた。

今回のシングル“stereo future”もその系譜に連なる1曲だ。迫力あるストリングスを全編にフィーチャーしたサウンドを展開し、ミュージックビデオも、退廃的な雰囲気の場所で、30人に及ぶバンド / ストリングス隊を背後にメンバーが激しいダンスを見せるものになっている。

BiSH『stereo future』CD盤</p>
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“DEADMAN”や“MONSTERS”や“SHARR”のようなハードコアなバンドサウンドの曲も軸に持つグループだけに、ストリングスを用いたこれらの曲を、いわゆる「売れ線」を狙ったテイストとして見る向きもあるだろう。

しかし筆者が感じるのは、ストリングスによって曲に加わるのは「わかりやすさ」ではなく、むしろ生々しく研ぎ澄まされた「切迫感」であるということ。このあたりは、全曲のサウンドプロデュースを手掛ける松隈ケンタの手腕も大きいはずだ。

「アイドル的な女の子」になれなかったというコンプレックスが生む「切迫感」

そのことはBiSHの6人のメンバーの人間性とも結びついているのだと思う。

これまでメンバーのインタビューの中でたびたび話にあがるのが、「キラキラしている女の子」への憧れと、その背中合わせのコンプレックスだ。

たとえば、先日CINRA.NETに掲載されたインタビューでアイナ・ジ・エンドは、こんな風に語っていた。

私は学生の頃、クラスの可愛くて、モテて、キラキラしてる女の子に憧れてて。自分はそうなれないから「仲良くなりたいなぁ」と思っていたんです。そういう、クラスで輝いてたような女の子たちがアイドルフェスにはいっぱいいます。だから、居心地が悪いというか、場の空気になれない感じがある。
(引用:BiSHが6人全員で振り返る、この夏出演した17本もの音楽フェス

たとえばアユニ・Dなど他のメンバーも自分の性格を「根暗」と語ることが多い。そういう意味では、「アイドル的な女の子」になれなかったBiSHのメンバーの人間性と、たとえストリングスが入ろうとも決して単なる「売れ線」に終わらず胸をかきむしるような切迫感を醸し出すBiSHの曲調も、どこかつながっているように思う。

オルタナティブロックの系譜の先に位置付けられるBiSH

メンバーのソロ活動も、とても興味深い。アイナ・ジ・エンドは今年5月、ロックフェス『VIVA LA ROCK』内の企画ステージ『VIVA LA J-ROCK ANTHEMS』に参加し、椎名林檎の“本能”を歌った。そのバンドマスターをつとめていたのが亀田誠治で、その縁で9月19日にはアイナ・ジ・エンドが人生で初めて作詞作曲をしたという“きえないで”のプロデュースも亀田誠治が担当。シンプルなメロディーと言葉で喪失感を歌っている。

セントチヒロ・チッチは、やはり9月19日にソロ楽曲をリリース。GOING STEADY / 銀杏BOYZの“夜王子と月の姫”をカバーした。インタビューでも自身の音楽のルーツにGOING STEADYを挙げ、峯田和伸への敬愛を語っている彼女。楽曲のアレンジ、演奏、プロデュースはリーガルリリーが担当しているが、これもチッチ本人の交流から実現に至ったという。

さらに、アユニ・Dはバンド形態のソロプロジェクト、PEDRO(ペドロ)を始動。ミニアルバム『zoozoosea』をリリースし、9月25日には新代田FEVERで初ライブ『happy jam jam psycho』を開催した。アユニ・D自身はベースを担当し、ギタリストは田渕ひさ子が担当。ライブではNUMBER GIRL“透明少女”のカバーも披露していた。

ちなみに、BiSHのクリエイティブ・プロモーションに携わるエイベックス・エンタテインメントの篠崎純也は、『Quick Japan増刊 WACKな本』(太田出版)のインタビューにて、“オーケストラ”のアイディアのリファレンスにはThe Smashing Pumpkinsの“Tonight, Tonight”があることを明かしている。彼らの代表作『メロンコリーそして終りのない悲しみ』(1995)に収録された1曲だ。

こうして見ていくと「楽器を持たないパンクバンド」としてデビューしたBiSHに連なる1990年代以来の音楽ヒストリーのツリーが浮かび上がってくる。

The Smashing Pumpkins、NUMBER GIRL、椎名林檎、GOING STEADY、銀杏BOYZ。そして同世代のバンドとしてのリーガルリリー。そういうアメリカと日本のオルタナティブロックの系譜の先にBiSHを位置づけることができる。12月の幕張メッセ公演は、そういうことを改めて感じ取れる場になるかもしれない。

リリース情報
BiSH
『stereo future』初回生産限定盤(2CD+Blu-ray)

2018年12月5日(水)発売
価格:7,344円(税込)
AVCD-94215~6/B

[CD]
1. stereo future
2. S・H・i・T
3. stereo future ( GOD EATER 3 Ver.)
[Live CD]
2018.08.29 ZEPP TOKYO
TOKYO BiSH SHiNE 4
1.NO THANK YOU
2.summertime
3.DA DANCE!!
4.社会のルール
5.BUDOKANかもしくはTAMANEGI
6.本当本気
7.Lonely girl
8.スパーク
9.VOMiT SONG
10.サラバかな
11.デパーチャーズ
12.ぴらぴろ
13.プロミスザスター
14.beautifulさ
15.ALL YOU NEED IS LOVE
16.BiSH -星が瞬く夜に-
[Blu-ray]
『TOKYO BiSH SHiNE 4』
1. NO THANK YOU
2. summertime
3. DA DANCE!!
4. 社会のルール
5. BUDOKANかもしくはTAMANEGI
6. 本当本気
7. Lonely girl
8. スパーク
9. VOMiT SONG
10. サラバかな
11. デパーチャーズ
12. ぴらぴろ
13. プロミスザスター
14. beautifulさ
15. ALL YOU NEED IS LOVE
16. BiSH -星が瞬く夜に-

BiSH
『stereo future』DVD盤(CD+DVD)

2018年12月5日(水)発売
価格:4,860円(税込)
AVCD-94217/B

[CD]
1. stereo future
2. S・H・i・T
[DVD]
『TOKYO BiSH SHiNE 4』
1. NO THANK YOU
2. summertime
3. DA DANCE!!
4. 社会のルール
5. BUDOKANかもしくはTAMANEGI
6. 本当本気
7. Lonely girl
8. スパーク
9. VOMiT SONG
10. サラバかな
11. デパーチャーズ
12. ぴらぴろ
13. プロミスザスター
14. beautifulさ
15. ALL YOU NEED IS LOVE
16. BiSH -星が瞬く夜に-

BiSH
『stereo future』CD盤(CD)

2018年12月5日(水)発売
価格:1,080円(税込)
AVCD-94218

1. stereo future
2. S・H・i・T

イベント情報
『BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"』

2018年12月22日(土)
会場:千葉県 幕張メッセ9・10・11ホール

プロフィール
BiSH
BiSH (びっしゅ)

アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dからなる楽器を持たないパンクバンド。2015年3月に結成。5月にインディーズデビュー。今夏、全国大型フェスへの多数出演を経て、2018年10月から開催された初の全国ホールツアー「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR」を中野サンプラザ公演からスタートさせ、12月9日には横浜アカレンガ倉庫にフリーライブ”stereoなfutureにしないYOKOHAMA”を開催、更に、12月22日には幕張メッセ9・10・11ホールにて史上最大規模の単独ワンマン公演「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL “THE NUDE”」を行うことが決定している。



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