世界トップクラスのプロデューサー、マーク・ロンソンが満員の幕張メッセを沸かせた夜
12月17日、星野源とマーク・ロンソンのダブルヘッドライナーショーが開催された。新作『POP VIRUS』のリリースを目前に控えていたこともあり、会場には星野のファンも多くいたはず。しかし、マークがステージに現れると指定席の観客も即座に総立ちに。最初から最後まで観客を躍らせ、沸かせ続けた。
もちろん、そのハイライトは“Uptown Funk”がプレイされた瞬間。“SUN”やアルバム『YELLOW DANCER』(2015年)発表前の星野が同曲に勇気づけられたことは、ラジオやこの日のMCでも語っていたとおり。2人の音楽家が時代性や音楽性をシェアしていることが現場で感じられた、感動的な瞬間だった。
マークのパフォーマンスでもうひとつ感動的だったことがある。マイケル・ジャクソンのメドレーに続いて、マークは「もう1人、レジェンドを紹介しよう」と語ったのだ。直後に故エイミー・ワインハウスの“Valerie”が鳴り響く。その盛り上がりように、「ああ、音楽家マークのストーリーが幕張メッセでシェアされているのだ」と感じ、目頭が熱くなった。
今や、押しも押されもせぬ世界トップクラスのプロデューサー、マーク・ロンソン。2015年3月にはアルバム『Uptown Special』の日本盤リリース直後に来日も果たしている。今でこそ信じられないが、そのときに彼がDJをしたのは代官山UNIT(キャパシティーは約600)。チケットは発売されるやいなや即完売。その後、じわじわと『Uptown Special』がマストリッスンな作品になっていったことは、みなさんも知ってのとおり。でも、こう思う方だっているはずだ。
……いや、ちょっと待って。マーク・ロンソンってそんなにすごい人なの?
それでもブルーノ・マーズが歌うビッグヒット“Uptown Funk”ならご存知のはず。
ダイレクトに腰にクるビートとベースライン。おそろしくキャッチーなコーラス(サビ)に向けて高揚していく楽曲構成。底抜けにポジティブで、懐かしくもフレッシュなサウンド。どうだろう? テレビや街中で耳にしたことがないだろうか?
それじゃあ、本題に入っていこう。これを読み終えた頃には「マーク・ロンソンって誰?」という疑問が解消して、彼が鳴らす音にすっかり夢中になっているはず。
5度の『グラミー』受賞歴を誇る、マーク・ロンソンの歩みを振り返る
マーク・ロンソンが生まれたのは1975年。“Uptown Funk”が全米シングルチャートで14週連続1位を記録したり(ちなみに14週連続は歴代3位タイの長さ)、『グラミー賞』を5度も受賞していたりと、「アメリカの音楽家」のイメージもあるマークだが、実はロンドン生まれ。8歳までは同地で暮らし、その後にニューヨークへと引っ越している。現在も彼はロンドンとニューヨークを行き来している。
1990年代にDJとして活躍していたマークは、その後プロデューサーへと転向。大きく注目されたのは、今は亡きエイミー・ワインハウスの大ヒット作『Back to Black』(2006年)で、このアルバムは11曲中6曲がマークのプロデュース。まずは同作から、『グラミー賞』の「最優秀楽曲賞」と「最優秀レコード賞」を勝ち獲った“Rehab”を聴いてみよう。
分厚いホーンセクション、ブレイクビーツ風のドラムス、ウォールオブサウンド的パーカッション……。1950~60年代のリズム&ブルースやポップソングにリスペクトを捧げつつ、それがヒップホップ的な解釈で提示されている。この、どこかノスタルジックだがとてつもなくフレッシュな音は、マークのシグネチャーサウンドだ。
エイミーとの仕事でマークは『グラミー』最優秀プロデューサー賞を受賞。世界が認めるプロデューサーに名実ともに上り詰めた。その快進撃については、彼の音を求めたアーティストの名前を並べるだけで事足りるかもしれない。先日来日したポール・マッカートニーを筆頭に、レディー・ガガ、クリスティーナ・アギレラ、アデル、リリー・アレン、そしてブルーノ・マーズ……。普段はJ-POPのリスナーだという方にとっても聞き知った名前があるはず。
もちろん、ソロキャリアも華々しい。デビュー作『Here Comes the Fuzz』(2003年)にはQ・ティップ(ex.A Tribe Called Quest)のような大物ラッパーからジャック・ホワイト(ex.The White Stripes)まで、さまざまなアーティストが参加。
2作目の『Versions』(2007年)は『Back to Black』から地続きのレトロでグル―ヴィなサウンドが聴ける、マークの個性が確立された力作だ。続く『Record Collection』(2010年)では、シングル“Bang Bang Bang”で聴けるように、シンセサイザーも大胆に導入。“Uptown Funk”の洗練されたサウンドへの道筋を見出していく。
そして、マークは先述の“Uptown Funk”と『Uptown Special』で大きな成功を収めることになる。商業的な面だけでなく、2度目の『グラミー』最優秀レコード賞を受賞するという偉業も成し遂げた。
マーク・ロンソン『Uptown Special』を聴く(Apple Musicはこちら)
ある意味ベタで、ど直球。なのに誰にも真似できないサウンドの秘密
マークの音楽の最大の魅力は、言うなればその「ベタさ」にある。もう一度“Uptown Funk”を聴いてみよう。ここではThe Gap Bandやリック・ジェイムスを参照点に、1970年代後半から1980年代前半のファンク / ディスコがストレートに再現され、そこにモダンな洗練が加えられている。その「ど直球さ」がリスナーにはかえってフレッシュに聴こえ、ヒットの要因となった。
その作家性は、レコードからサンプリングしたネタで想像もできなかったサウンドを作り出そうとしていた、それまでのビートメイカーたちとはまったく異なる。コペルニクス的転回というよりは、360度回って元の場所に戻ってきたようなマークの音楽に驚かされた音楽家は多い。
それについて、OKAMOTO'Sのハマ・オカモトはこう述べていた。「ガーリック・チャーハンにステーキが乗ってたら美味いに決まってるじゃん!(ミュージック・レヴュー・サイト「Mikiki」より / 外部リンクを開く)」。まさしくそのとおり。マークの音楽とは、うま味ばかりが詰め込まれた、こってりサウンドなのだ。
では、(特にアメリカの)音楽家であれば躊躇してしまうような直球のサウンドに、どうしてマークだけが挑むことができたのか? その理由は、最初に述べた、彼の拠点がイギリスとアメリカにまたがっている点にあると考えられる。
マークは、どちらかといえば英国的な音楽家だ。The BeatlesやThe Rolling Stonesが米国のリズム&ブルースに魅せられたように、マークも過去のアメリカンミュージックの虜である。その愛を直接的に表現できるのは、英国的な屈折を一度経て、米国の音楽を客観的に見据えられるからだろう。
表面的にはベタに聴こえるかもしれないが、そこにはポップミュージックの歴史を何周も読み込んだ、愛と批評性に満ちた眼差しがある。音楽の地図を自由に見渡すようなその個性は、英米の二重拠点で、DJとミュージシャン双方の視点を持つマークだからこそのものだろう。
レディー・ガガ主演映画の劇中歌も手がける。2019年は、マーク旋風が吹くか?
2018年のマークは、なかなかに忙しそうだ。Diploとのユニット・Silk Cityではデュア・リパをフィーチャーした“Electricity”をリリース。マイケル・ジャクソンのトリビュートマッシュアップ“Michael Jackson x Mark Ronson: Diamonds Are Invincible”や、クインシー・ジョーンズのドキュメンタリー『クインシーのすべて』のサウンドトラックに参加したことも話題となっている。
11月にはマイリー・サイラスとの新曲“Nothing Breaks Like a Heart”をリリースし、つい先日はジョン・レノン&オノ・ヨーコの“Happy Xmas (War Is Over)”を、彼らの息子でマークの旧友でもあるショーン・オノ・レノンをゲストに迎えてカバー。さらに超待望の5作目『Late Night Feelings』が2019年にリリース予定である。“Nothing Breaks Like a Heart”を聴く限り、新作ではマークの新たな一面を見ることができそうだ。
さて。付け加えておかなければいけないのは、2019年2月に発表される『グラミー賞』のこと。レディー・ガガとブラッドリー・クーパーが熱く歌い交わす『アリー/スター誕生』の劇中歌“Shallow”は、主要2部門を含む4部門にノミネートされている。そしてこの曲の作曲者の1人は……もうここまで書いたらおわかりだろう、マーク・ロンソンその人だ。『第61回グラミー賞』でもマーク旋風が吹き荒れるのだろうか。新作『Late Night Feelings』とともに、2019年はマーク・ロンソンの年になりそうだ。
- リリース情報
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- マーク・ロンソン
“Nothing Breaks Like A Heart feat. Miley Cyrus” -
2018年11月29日(木)配信
- 星野源
『POP VIRUS』初回限定盤A(CD+Blu-ray) -
2018年12月19日(水)発売
価格:5,400円(税込)
VIZL-1490
※特製ブックレット付属
- 星野源
『POP VIRUS』初回限定盤B(CD+DVD) -
2018年12月19日(水)発売
価格:5,184円(税込)
VIZL-1491
※特製ブックレット付属
- 星野源
『POP VIRUS』通常盤初回限定仕様(CD) -
2018年12月19日(水)発売
価格:3,348円(税込)
VIZL-1492
※特製ブックレット付属
- 星野源
『POP VIRUS』通常盤(CD) -
2018年12月19日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-65085
- マーク・ロンソン
- プロフィール
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- マーク・ロンソン
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ロンドン生まれ、NY育ち。義理の父はイギリスのロック・バンド、フォリナーのミック・ジョーンズ、母はフリーランス・ライター、そしてロンドン/NY社交界の実力者という華やかな家庭環境に育つ。故エイミー・ワインハウスの名作「リハブ」のプロデューサーとして第50回グラミー賞で<最優秀プロデューサー賞>を受賞し、一躍脚光を浴びる。なお、同曲は<最優秀レコード賞>を受賞し、これを収録したアルバム『バック・トゥ・ブラック』は<最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞>を受賞。第56回グラミー賞で「最優秀男性ポップ・ヴォーカル・アルバム」を受賞したブルーノ・マーズの2ndアルバム『アンオーソドックス・ジュークボックス』に収録された、6週連続全米No.1を獲得したヒット曲「ロックド・アウト・オブ・ヘヴン」をプロデュース。同楽曲は第56回グラミー賞で「最優秀楽曲賞」「最優秀レコード賞」にノミネート。2015年1月、4枚目のアルバム『アップタウン・スペシャル』をリリース。2014年11月にリリースした同作のファースト・シングル「アップタウン・ファンク feat.ブルーノ・マーズ」は全米シングル・チャート14週連続で1位を獲得し、全世界で大ヒットを記録。第58回グラミー賞では、見事「アップタウン・ファンク feat. ブルーノ・マーズ」で<年間最優秀レコード賞>と<最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ)>の2部門を受賞。2018年12月17日(月)に幕張メッセ国際展示場 9~11ホールで星野源とマーク・ロンソンによるダブル・ヘッドライナー公演が決定。約2年4カ月ぶりの来日を果たした。
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