(メイン画像:Credit Kevin Westenberg)
50年以上現役で、第一線で輝き続けるロックンロールバンド。比肩する存在はどこにもいない
The Rolling Stonesがいかに偉大なバンドであるか。彼らの鳴らすロックンロールがどんな風に格好いいのか。どんな名曲の数々があって、どんな風にロックの歴史を形作ってきたのか。
そういうことについては、この原稿では書こうとは思っていない。すでにいろんな人がそれを言葉にしている。音楽評論家だけでなく、幅広い世代のミュージシャンが「The Rolling Stonesのどんなところに憧れたのか」を語っている。その中にはTHE BAWDIESやGLIM SPANKYやOKAMOTO'Sのような若い世代のバンドもいる。そのヒストリーを詳しく解説した本やムックもある。なにより、彼らの鳴らした音を聴けば、きっとそのエネルギーがダイレクトに伝わる。
4月19日には最新ベスト盤『HONK』もリリースされた。The BeatlesやQueenやLed Zeppelinなど歴史に語り継がれるバンドは他にもたくさんいるが、50年以上現役で、第一線で輝き続けるロックンロールバンドとして、彼らに比肩する存在は世界のどこにもいない。
The Rolling Stones『HONK』を聴く(Apple Musicはこちら)
なにより、今も彼らは世界中をツアーしステージに立っている。3月には、FLORENCE AND THE MACHINEのフローレンス・ウェルチをフィーチャーした“Wild Horses“の昨年5月のライブ映像がYouTubeにも公開された。ベスト盤『HONK』のCD3枚組デラックス・エディションのボーナスディスクに収録されるライブ音源からの1曲だ。
The Rolling Stonesは「今」のロックバンドであり続けている。彼らが体現しているのはノスタルジーではなく、その伝説は2019年の現在も日々更新されている。だから、結局のところ「彼らの鳴らすロックンロールがどんな風に格好いいのか」については、言葉を連ねるより、それを体感するのがいちばんいい。
アート、デザイン、映画、ファッション、テクノロジーの歴史との密接な結びつきを体感する展覧会
ここで書こうと思っているのは、The Rolling Stonesが、アート、デザイン、映画、ファッション、そしてテクノロジーの歴史と密接に結びついてきた、ということ。彼らの魅力は音楽そのものだけにとどまらず、さまざまなクリエイターを巻き込み、コラボレーションを繰り広げ、そうしてひとつの文化を作り上げてきたところにあった、ということだ。
2019年3月15日から5月6日まで、TOC五反田メッセで『Exhibitionism-ザ・ローリング・ストーンズ展』が開催されている。筆者がそこを訪れて強く感じたのも、そういうことだった。
同イベントは、2016年4月ロンドンを皮切りに世界主要都市で開催されてきたThe Rolling Stones初の大規模な世界巡回展。メンバーの使用楽器やステージ衣装などファン垂涎のアイテムも多数展示されていたが、とても興味深かったのは、そこを通して「ポップアートの歴史としてのThe Rolling Stones」に触れることができる、ということだった。
The Rolling Stonesと20世紀の5人の偉人
そこで、ここからは、何人かの重要人物の名前を挙げつつ、The Rolling Stonesが彼らとどういう仕事を成してきたかを辿っていきたい。
最初の重要人物はグラフィックデザイナーのジョン・パッシェ。彼の名前を知らなくても、The Rolling Stonesのシンボルである「ベロマーク(Lips and Tongue)」にピンとこない人はいないだろう。世界でもっとも有名なロゴマークのひとつとも言えるあの唇と舌のデザインを担当したのが彼だ。
あのマークが最初に世に登場したのは1971年に発表されたシングル『Brown Sugar』でのこと。当時のジョン・パッシェはまだ美大生だった。彼を見出したのがミック・ジャガー。ミックと、ミュージシャンになる前には広告会社でグラフィックデザイナーとして勤めていたという経歴を持つチャーリー・ワッツがメンバーにいたからこそ、バンドは音楽だけでなくアートやデザインにも類まれなるクリエイティビティーを発揮することになった。
ジョン・パッシェは、デビュー当時所属していたデッカ・レコードとの契約が終了しバンドが設立した「ローリング・ストーンズ・レコード」のために依頼され、ミック・ジャガーの印象的な口元にインスピレーションを受けてロゴを考案する。当時はこんなに歴史に残るデザインになるとは思ってもいなかっただろう。
20世紀のポップアートを代表するアーティスト、アンディ・ウォーホル
2人目はアンディ・ウォーホル。20世紀のポップアートを代表するアーティストである彼は、The Rolling Stonesとも数々の仕事を共にしている。中でも有名なのは1971年のアルバム『Sticky Fingers』のジャケットだろう。ジーンズを穿いた男性の股間のクローズアップに本物のジッパーを取り付け、その中にはブリーフを穿いた男性の股間の写真が封入されているデザインは、大きな反響を呼んだ。
それ以前にも彼らとは深い交流があった。1960年代当時にアンディー・ウォーホールが活動していたニューヨークのアトリエ「ファクトリー(The Factory)」には、ミック・ジャガーやルー・リード、ジム・モリソン、ボブ・ディランなども頻繁に集い、たびたびパーティーが開催されていたという。
世界の映画界に大きな影響を与えてきた、ジャン=リュック・ゴダール
3人目は、ジャン=リュック・ゴダール。世界の映画界に大きな影響を与えてきた彼も、The Rolling Stonesを題材にした作品を監督している。それが1968年に公開されたドキュメンタリー映画『ワン・プラス・ワン』だ。
アルバム『Beggars Banquet』(1968年)に収録された“悪魔を憐れむ歌”のレコーディング風景をカメラに捉え、その過程と当時の時代性を象徴する数々の政治的なアジテーションが交錯するかのように描かれた本作。映像の中には、この1年後にバンドを追われ、非業の死を遂げることになるブライアン・ジョーンズの姿も収められている。
映画界の巨匠、マーティン・スコセッシ
4人目はマーティン・スコセッシ。数々の名作に携わり、The Bandの『ラスト・ワルツ』など音楽ドキュメンタリーも手掛けてきた映画界の巨匠も、The Rolling Stonesをフィルムにおさめている。その作品は2008年に公開された『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』。収容人数2800人の劇場「ビーコン・シアター」を舞台にThe Rolling Stonesが行ったライブの模様を舞台裏も交えて収録したドキュメンタリーだ。ゲストに登場したのはバディ・ガイ、ジャック・ホワイト、クリスティーナ・アギレラ。すでに「大御所」としてシーンに君臨するようになった時代のThe Rolling Stonesが、どんな風にひとつのライブをドラマにしているかが描かれる。
マイクロソフトを率いた、ビル・ゲイツ
そしてもう1人は、ビル・ゲイツ。マイクロソフトを率いた彼が「Windows 95」をリリースした時に、グローバルなプロモーションのために起用したのがThe Rolling Stonesの“Start Me Up”だった。
それまでThe Rolling Stonesの楽曲が企業広告に使われたことは一度もなかったが、ビル・ゲイツがミック・ジャガーに電話で直談判して契約が決まったと言われている。
彼らは誰よりも先に最先端のテクノロジーと蜜月関係を結んだロックバンドでもあった。まだ回線も貧弱で、一部の大学と企業でしかインターネットが使えなかった1994年の時点で、The Rolling Stonesはテキサス州ダラスのライブのインターネット生配信を試みている。
こうして見ていくと、The Rolling Stonesが、単なるひとつのロックンロールバンド以上の存在感を持っていること、その足跡が、20世紀から21世紀にかけてのポップアートとテクノロジーの歴史と直結しいることがわかるだろう。
彼らがデビューした1960年代当時は、まだロックが若者たちの反抗の象徴として勃興していた頃である。その頃から、アートとデザインの力でロックンロールバンドを強力な「ブランド」として育て上げる発想を誰よりも先に持っていたのがThe Rolling Stonesというバンドだった。
だからこそ、1960年代から1970年代にかけて「伝説」となったその後も、2010年代の今に至るまで現役でキャリアを積み重ね、自身を新しく更新し、今も第一線で居続けるのだろう。
- リリース情報
-
- The Rolling Stones
『HONK』デラックス盤(3CD) -
2019年4月19日発売
価格:4,968円(税込)
UICY-78934/6[CD1]
1.スタート・ミー・アップ
2.ブラウン・シュガー
3.ロックス・オフ
4.ミス・ユー
5.ダイスをころがせ
6.ジャスト・ユア・フール
7.ワイルド・ホース
8.愚か者の涙
9.悲しみのアンジー
10.ビースト・オブ・バーデン
11.ホット・スタッフ
12.イッツ・オンリー・ロックン・ロール
13.ロック・アンド・ア・ハード・プレイス
14.ドゥーム・アンド・グルーム
15.ラヴ・イズ・ストロング
16.ミックスト・エモーションズ
17.ドント・ストップ
18.ライド・エム・オン・ダウン[CD2]
1.ビッチ
2.ハーレム・シャッフル
3.ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー
4.ラフ・ジャスティス
5.ハッピー
6.ドゥー・ドゥー・ドゥー…(ハートブレイカー)
7.ワン・モア・ショット
8.リスペクタブル
9.ユー・ガット・ミー・ロッキング
10.レイン・フォール・ダウン
11.ダンシング・ウィズ・ミスターD
12.アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト
13.エモーショナル・レスキュー
14.友を待つ
15.セイント・オブ・ミー
16.アウト・オブ・コントロール
17.ストリーツ・オブ・ラヴ
18.アウト・オブ・ティアーズ[CD3]
1.一人ぼっちの世界–ライヴ・アット・プリンシパリティ・スタジアム/カーディフ 2018/6/15
2.ダンシング・ウィズ・ミスターD–ライヴ・アット・ヘルレドーム/アーネム(オランダ) 2017/10/15
3.ビースト・オブ・バーデン with エド・シーラン–ライヴ・アット・アローヘッド・スタジアム/カンサス 2015/6/27
4.シーズ・ア・レインボー–ライヴ・アット・Uアリーナ/パリ 2017/10/25
5.ワイルド・ホース with フローレンス・ウェルチ–ライヴ・アット・ロンドン・スタジアム 2018/5/18
6.夜をぶっとばせ!-ライヴ・アット・マンチェスター・イブニング・ニュース・アリーナ 2018/6/5
7.デッド・フラワーズ with ブラッド・ペイズリー–ライヴ・アット・ウェルズ・ファーゴ・センター/フィラデルフィア 2013/6/18
8.シャイン・ア・ライト(ライトを照らせ)- ライヴ・アット・アレナ/アムステルダム 2017/9/30
9.アンダー・マイ・サム– ライヴ・アット・ロンドン・スタジアム 2018/5/22
10.ビッチ with デイヴ・グロール– ライヴ・アット・ザ・ホンダ・センター/アナハイム 2013/5/18
- The Rolling Stones
-
- The Rolling Stones
『HONK』通常盤(2CD) -
2019年4月19日発売
価格:3,888円(税込)
UICY-15816/7[CD1]
1.スタート・ミー・アップ
2.ブラウン・シュガー
3.ロックス・オフ
4.ミス・ユー
5.ダイスをころがせ
6.ジャスト・ユア・フール
7.ワイルド・ホース
8.愚か者の涙
9.悲しみのアンジー
10.ビースト・オブ・バーデン
11.ホット・スタッフ
12.イッツ・オンリー・ロックン・ロール
13.ロック・アンド・ア・ハード・プレイス
14.ドゥーム・アンド・グルーム
15.ラヴ・イズ・ストロング
16.ミックスト・エモーションズ
17.ドント・ストップ
18.ライド・エム・オン・ダウン[CD2]
1.ビッチ
2.ハーレム・シャッフル
3.ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー
4.ラフ・ジャスティス
5.ハッピー
6.ドゥー・ドゥー・ドゥー…(ハートブレイカー)
7.ワン・モア・ショット
8.リスペクタブル
9.ユー・ガット・ミー・ロッキング
10.レイン・フォール・ダウン
11.ダンシング・ウィズ・ミスターD
12.アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト
13.エモーショナル・レスキュー
14.友を待つ
15.セイント・オブ・ミー
16.アウト・オブ・コントロール
17.ストリーツ・オブ・ラヴ
18.アウト・オブ・ティアーズ
- The Rolling Stones
- イベント情報
-
- 『Exhibitionismーザ・ローリング・ストーンズ展』
-
2019年3月15日(金)~5月6日(月・振休)
会場:東京都 TOC五反田メッセ
- プロフィール
-
- The Rolling Stones (ざ ろーりんぐ すとーんず)
-
1962年、ロンドンで結成。翌63年にシングル「カム・オン」でデビュー。当時のメンバーはミック・ジャガー(Vo)、キース・リチャーズ(G)、ブライアン・ジョーンズ(G)、ビル・ワイマン(B)、チャーリー・ワッツ(Ds)。「サティスファクション」「黒くぬれ」「夜をぶっ飛ばせ」等、ブルース/R&Bに根差したワイルドなサウンドと不良っぽいイメージで、ビートルズに対抗する世界的なバンドとなる。 1968年の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」以降は、よりルーツに根差した泥臭いサウンドを展開。翌年にジョーンズが脱退、ミック・テイラーが加わると、2本のギター・アンサンブルを軸とするルーズでヒップな”ストーンズ風R&R”を確立、「ホンキー・トンク・ウィメン」「ブラウン・シュガー」「ダイスをころがせ」「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」等、後のステージの定番となる代表曲を次々と生み出す。1976年、ギタリストがテイラーからロン・ウッドに交代した後も、変わらぬスタイルに流行も巧みに取り入れつつ、「ミス・ユー」「スタート・ミー・アップ」等のヒット曲を連発。1990年には初来日公演が実現、1993年にビル・ワイマンが脱退するも、大規模なワールド・ツアーをコンスタントに実施するなど、半世紀に亘りシーンの第一線に君臨し続けるロックの代名詞的な存在である。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-