「#BiSHアメトムチ」とは何か?
筆者が最初にその言葉をTwitterのタイムラインで発見したのは、4月2日のこと。渋谷駅地下コンコース壁面に巨大広告が掲出されたことを伝えるニュースがトレンド入りしていたのがきっかけだった。
壁面広告は4月3日にApple Music限定のミニアルバム『STiCKS』の配信がスタートすることを伝えるもので、メンバーの巨大ビジュアル上に「CD紙ジャケ」が2000枚貼り付けられ、1人4枚まで剥がして持ち帰れる仕様になっていた。ちょうど渋谷近辺にいたので足を運んでみたら、わずか数十分で配布終了になったとのことだった。
これまで、BiSHはリリースのたびに数々のゲリラ的な手法で反響を呼んできている。2017年にはメジャー2ndアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』を2日間限定、299円でゲリラ先行販売したこともあった。2018年にはシングル『Life is beautiful / HiDE the BLUE』の店着日に、何の事前告知もなしにシングル『NON TiE-UP』をゲリラリリースしたこともあった。
BiSH『THE GUERRiLLA BiSH』を聴く(Apple Musicはこちら)
だから「清掃員」(BiSHファンの通称)たちの反応は素早くなっている。デビュー以来たびたびグループについてのコラムを書き、ライブを観て、インタビューもしている筆者のような人間よりも、ずっと速いスピードで情報が拡散され届くようになっている。すごいな、と正直に感じたのが第一印象。
が、今回はこれまでのような「CDのゲリラ販売」とは違う新たな展開だという。7月3日にメジャー3rdアルバム『CARROTS and STiCKS』をリリースすることをあらかじめ告知し、その発売にむけてストリーミングサービスとライブを連動させ3か月にわたって行うプロジェクトが「#BiSHアメトムチ」だ。
4月1日に「『#BiSHアメトムチ』特報映像」として発表された動画によると、その概要は、アルバムに収録される音源を『STiCKS』(=ムチ)、『CARROTS』(=アメ)というタイトルでそれぞれ「4曲入りのEP」としてApple Music限定で先行配信。それをライブでも随時公開し、14曲入りのアルバムが持つ「凶悪さ」と「キャッチーさ」の二面性を伝えていくというものだ。
4月2日には『STiCKS』リード曲として“遂に死”のMVが公開された。
現在、BiSHは4月から7月まで3か月かけた全国14か所、21公演のライブハウスツアー『LiFE is COMEDY TOUR』を回っている。
まずはその初日、4月5日の神奈川CLUB CITTA'公演で『STiCKS』収録の4曲がライブ披露され、5月5日の大阪Zepp Osaka Bayside公演からは『CARROTS』収録の4曲がセットリストに加わるという。そして、ツアーファイナルの東京Zepp Tokyo公演が行われる7月3日が『CARROTS and STiCKS』の発売日。つまり、ツアーファイナルとアルバム発売をひとつのゴールに見据え、ステージと配信を通してその全貌を少しずつシェアしていくというタイムスケジュールだ。
「楽器を持たないパンクバンド」ならではの新たな音楽表現のあり方が立ち上がってきている
そういうことを踏まえて、4月5日の神奈川CLUB CITTA'公演を観に行った。事前に告知されていたとおり、セットリストは、過去の代表曲に加えて『STiCKS』に収録された“遂に死”“FiNALLY”“優しいPAiN”“FREEZE DRY THE PASTS”の4曲が加わった内容。そこから感じ取れたのは、エグく、過激に、そして尖った方向性を志向するその中身だった。
BiSH『STiCKS』を聴く
BiSHのライブが何より面白いのは、そこに「楽器を持たないパンクバンド」ならではの新たな音楽表現のあり方、新たなパフォーマンスの概念が立ち上がってきている、ということ。
作曲は松隈ケンタが全て手掛けている。ライブによっては生バンドがバックに入ることはあるが、演奏を彼女たち自身が担当するわけではない。基本的には「歌って踊る」というパフォーマンスのスタイルだ。が、振り付けをアイナ・ジ・エンド自身が手掛けていること、そして最近ではそのクオリティーと自由度がどんどん上がってきていることもあって、そこに肉体表現としての強度が宿ってきている。
筆者が最初に「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチコピーを聞いたときには、単なる言葉遊びだと思っていた。正直、そこにあまり深い意味性を感じてはいなかった。しかし「振り付け」を「演奏」と同じように音楽表現の範疇として捉えるならば、プロのコレオグラファーが可愛く見栄えする振り付けを考えメンバーがその通りにダンスをすることが多い他のアイドルやダンス&ボーカルグループに対し、メンバー自身が振り付けを考え、ときに常識を逸脱した動きを見せるBiSHのダンスパフォーマンスは、とてもパンクロック的。そうやって考えると、たしかにBiSHは文字通りの「楽器を持たないパンクバンド」ということになる。
特にライブで見せた『STiCKS』収録の4曲のダンスパフォーマンスは、そういうBiSHのユニークなあり方を存分に発揮した、フリーキーでアナーキーなものだった。
特に目を奪われたのは、メンバー6人が折り重なって痙攣のような動きを見せる“遂に死”。そして、中央で椅子に座ったリンリンと取り囲む5人が不気味で病的な動きを見せる“FREEZE DRY THE PASTS”。楽曲には歌詞の一部が「ピー」音で消されている箇所があるのだが、ステージでもそこは音源通りに再現。しかもその場面ではセントチヒロ・チッチが口を抑え、壮絶な表情で崩折れる。後日公開された動画にも収録されているが、観ていて思わず鳥肌が立った瞬間だった。
一方、いち早く聴かせてもらった『CARROTS』のほうは、『STiCKS』にある不穏さや鋭角性とは対称的に、覚えやすいメロディーとノリやすいビートで安心感と一体感をもたらす4曲。スケール感あるミドルテンポのパワーポップ“I am me.”、疾走感あるパンクロックの“まだ途中”と“CAN YOU??”、そしてピアノとオーケストラを配した壮大なバラードの“NO SWEET”と、どれもCMやドラマで使われそうなポテンシャルのあるナンバーだ。
BiSH『CARROTS』を聴く
そして、この原稿を書いている4月中旬の時点ではまだ制作途上で曲名も未定だそうだが、6月には両EPには収録されないアルバムリード曲のミュージックビデオ公開とライブ披露が予定されている。
ちなみに、グループ初のオリコン1位を獲得した『PAiNT it BLACK』や自身最大のセールスを記録した『stereo future』など、BiSHは2018年に4枚のシングルをリリースしている。その表題曲はどれもタイアップを獲得し(ゲリラリリースされた『NON TiE-UP』を除く)、グループの存在を広く世に知らしめた楽曲だ。
しかし、それらの楽曲はアルバム本編ではなくボーナスディスクへの収録となるという。そういうことも含めて、かなり挑戦的なプロジェクトが進行中だ。
ただ、取り巻く企画の情報量はとても多いのだが、BiSHに関しては、何より現場でライブを観たときに「なるほど、こういうことか」とその本質にフォーカスがピンと当たる感覚がある。そういうところもパンクロック的だと思う。興味深く追っていきたい。
- リリース情報
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- BiSH
『STiCKS』 -
2019年4月3日(水)配信
1.遂に死
2.FiNALLY
3.優しいPAiN
4.FREEZE DRY THE PASTS
- BiSH
『CARROTS』 -
2019年5月3日(金)配信
1.I am me.
2.まだ途中
3.CAN YOU??
4.NO SWEET
- BiSH
『CARROTS and STiCKS』(2CD+Blu-ray Disc)初回生産限定盤 -
2019年7月3日(水)発売
価格:10,800円(税込)
AVCD-96297~8/B
- BiSH
『CARROTS and STiCKS』(2CD+DVD) -
2019年7月3日(水)発売
価格:6,264円(税込)
AVCD-96299~300/B
- BiSH
『CARROTS and STiCKS』(2CD) -
2019年7月3日(水)発売
価格:4,212円(税込)
AVCD-96301/2
- BiSH
『CARROTS and STiCKS』(CD) -
2019年7月3日(水)発売
価格:3,240円(税込)
AVCD-96303
- BiSH
『BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"』(Blu-ray+2CD)初回生産限定盤 -
2019年4月3日(水)発売
価格:10,800円(税込)
AVXD-92771/B~C
- BiSH
『BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"』(DVD) -
2019年4月3日(水)発売
価格:4,860円(税込)
AVBD-92772
- BiSH
- イベント情報
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- 『LiFE is COMEDY TOUR』
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2019年5月11日(土)
会場:北海道 Zepp Sapporo
2019年5月17日(金)
会場:福岡県 Zepp Fukuoka2019年5月18日(土)
会場:福岡県 Zepp Fukuoka2019年5月25日(土)
会場:宮城県 仙台PIT2019年5月26日(日)
会場:宮城県 仙台PIT2019年6月1日(土)
会場:富山県 クロスランドおやべ
2019年6月15日(土)
会場:愛媛県 松山市総合コミュニティセンター2019年6月16日(日)
会場:香川県 高松festhalle
2019年6月22日(土)
会場:広島県 BLUE LIVE2019年6月23日(日)
会場:広島県 BLUE LIVE2019年6月29日(土)
会場:新潟県 新潟LOTS2019年6月30日(日)
会場:新潟県 新潟LOTS
2019年7月2日(火)
会場:東京都 Zepp Tokyo2019年7月3日(水)
会場:東京都 Zepp Tokyo
- プロフィール
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- BiSH (びっしゅ)
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アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dからなる楽器を持たないパンクバンド。2015年3月に結成。5月にインディーズデビュー。2019年4月から14箇所21公演のライブハウスツアー「LiFE is COMEDY TOUR」を開催中。そして、2017年11月に発売したメジャー2ndアルバム「THE GUERRiLLA BiSH」より1年半、待望のメジャー3rdアルバム「CARROTS and STiCKS」を2019年7月3日に発売することが決定!発売と併せて2019年4月よりアルバム発売まで3ヶ月間に及ぶ「#BiSHアメトムチ」プロジェクトが開始している。
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