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女性の7割が、広告やメディア上の女性画像が自分自身だと感じられない、という調査
女性の70%は広告などで日々目にする女性の画像に不満を抱いている――そんな調査結果が発表された。多様性や包括性を持つこと、レプリゼントされてないと感じている人々に光を当てることの重要性は、メディアやエンターテイメントの世界で訴えられ続けているが、ユニリーバの美容ブランド「Dove」が手掛けた「ダヴ美の固定観念の影響に関する2019年定量調査」によれば、今日でも多くの女性たちが広告やメディアの中の女性像は自分とかけ離れていると感じている。
「美しい女性」を定義する基準とはなんだろうか? 細い身体やシミひとつない肌、大きな目、高い鼻、サラサラの長い髪といった外見の要素だろうか? 前述の調査では、女性の10人に7人は「美しさ」の固定観念に絶えずさらされることで、現実的でない美しさの基準を満たすことを強制されていると感じており、これは多くの女性が外見に不安を抱く要因の1つになっているという。
日本の電車が脱毛の広告で溢れているように、見渡せば誰かが決めた美の基準を押し付けようとするメッセージは日々の生活でそこら中に存在している。そこに意図がなかったとしても、日常的に触れるイメージが固定的な狭い美しさの定義を採用していたら、人々が自分と比べてネガティブなメッセージを受け取ってしまっても不思議ではないだろう。それが若い女性ならなおさらだ。
Dove×Getty Images×Girlgazeの3社がタッグを組んだ「#ShowUsプロジェクト」
同調査は、年齢、地域、社会における立場などが異なる11か国(イギリス、アメリカ、カナダ、フランス、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチン、中国、日本、インド、ロシア)の18歳から64歳までの女性9千人以上を対象に行なわれた。参加した女性のうち67%はブランドが使用する画像に責任を持つべきであると回答し、様々な体型やサイズ、肌の傷痕やシミといった身体的な多様性の描写の改善を求める声も多いという。
「見たことのないものになることはできない」とは、女性の活躍が制限されたフィールドでしばしば聞かれる言葉だが、このような現状を背景にDoveと世界最大級のストックフォトやロイヤリティフリー素材を擁するGetty Images、女性とノンバイナリージェンダーのクリエイターコミュニティーであるGirlgazeの3社がタッグを組み、「#ShowUsプロジェクト」を始動させた。
5千点を超える多様な女性たちのストックフォトライブラリを構築。撮影は女性およびノンバイナリージェンダーの写真家
「#ShowUsプロジェクト」では5千点を超える画像を所蔵した大規模なストックフォトライブラリをGetty Images内に創設した。
1年間をかけて構築されたフォトライブラリの写真は、Girlgazeに所属する女性およびノンバイナリージェンダーの写真家116人が世界39か国の女性たちを撮影したもの。Girlgazeの創設者アマンダ・デ・カディネットは「レンズの後にいる写真家が多様になれば、レンズの前にいるモデルも多様になります」とその意義を強調する。
被写体自身の言葉で自らを定義すべく、179人のモデルは自身で画像の検索キーワードとタグを設定した。モデルは社会的地位や年齢、肌の色や状態、体型、障がいの有無なども様々。全ての写真に画像加工が施されていないのも特徴だ。
同プロジェクトでは「『女性はこうあるべき』という世間のイメージではなく、性自認が女性である、または性別二元論に捉われず生きる人々のありのままの姿を写し出すことで、美に対する固定観念を変えていくことに挑みます」としている。またキャンペーンサイトに自分の写真をアップロードすることでフォトライブラリの一部になることもできる。モデルの1人で、トランスジェンダーのアクティビストであるエル・ローズは「たった1人のキッズでも、私を見て自分だと感じてくれる人がいるということがとても重要」と語る。
非現実的な女性像を絶えず目にすることは、女性の自信に悪影響を及ぼす
西イングランド大学アピアランス研究センターのフィリッパ・ディードリヒ教授はメディアが発信するイメージが、見る者に与える影響について次のように説明している。
「女性は毎日メディアによって、非現実的な美や制限された女性像を描いた時代遅れの画像を絶え間なく見せられています。数十年に及ぶ科学的研究によって、そのような画像を見ることが女性の身体や能力に対する自信に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。さらに、女性が自らの身体に不満を感じると、健康と幸福、人間関係、学習意欲や労働意欲などの生活の重要な領域全般で否定的な結果になります」
女性がありのままの身体に自信が持てるようになるという意味でも、多様なイメージが広告やメディア上で表現されることは大きな意味を持つ。
「ボディ・ポジティブ」ムーブメントの側面も
ありのままの自分を愛そう、外見の多様性を受け入れようという考えは、「ボディ・ポジティブ」という言葉で近年欧米などでムーブメントになっている。最近ではドラマ『グッド・プレイス』への出演で知られ、体重で女性の価値を図るような風潮への抵抗として「I Weigh」キャンペーンをスタートさせたジャミーラ・ジャミルは、ボディ・ポジティブの考えの代表的な提唱者のひとりだ。
I WeighのInstagramより。『クィア・アイ』で知られるジョナサン・ヴァン・ネスも賛同
包括的なストックフォトライブラリを目指す「#ShowUsプロジェクト」も、こうした動きを推進する側面もあるだろう。ただしボディ・ポジティブの盛り上がりは良い面だけでなく、まるでスキニーであることやダイエットをすることが悪いことかのような極端な考えにも発展しており、本来の目的から外れたそうした考えには批判の声もあがっている。ありのままの自分を受け入れることは決して簡単なことではない。非難されるべきは痩せたいと望む少女ではなく、凝り固まった美の基準を採用し、それだけで人をジャッジしようとする社会の風潮だろう。そしてそのような風潮はメディアや広告に表現される固定的なイメージからも生み出される。
メディアや広告主にストックフォトの使用を呼びかけ
Getty Imagesでは「real people(実際の人々)」「diverse women(多様な女性)」「strong women(強い女性)」「women leaders(女性のリーダー)」といった検索キーワードの使用が前年の100~200%増加しているという。より現実に近い状態で女性を表現したストック画像へのニーズも増大しているということだ。
「#ShowUsプロジェクト」はメディアや広告主に、次の企画やキャンペーンで使用する写真を同プロジェクトから選ぶことを呼びかけている。多様なイメージを擁するこのフォトライブラリはそれだけでも価値があるものだが、これまで長きにわたって画一的な「美しさ」の定義の強化に加担してきたとも言えるメディアや様々なブランドの広告がその画像を使用していくことでこそ本来の目的を果たすはずだ。
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