ビリー・アイリッシュという「現象」の正体 なぜ世界中で熱狂が?

今年3月に1stアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』を発表し、今や時代を象徴する存在として世界中を席巻しているビリー・アイリッシュ。

CINRA.NETで始動したビリー・アイリッシュを複数の視点で捉える短期連載、第2弾のテーマは「時代がビリー・アイリッシュに熱狂する背景」。2019年、ビリー・アイリッシュを取り巻く数々の「現象」の背後にあるものの正体は何か? ライター・辰巳JUNKのテキストから迫る。

「ストリーミング時代を象徴するポップスター」はいかにして生まれたのか?

デビューアルバムがリリースされる前から、ビリー・アイリッシュは「ポップスターに必要なもの」すべてを持っていた。

強烈な個性にシンボリックなファッション、そして絶大な人気をすでに手にしていたのだ。その証拠に、2019年3月に発売された『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』はApple Music史上もっともプレリザーブされたアルバムとして記録を打ち立てている。大多数の大人に知られてこなかった17歳の少女が、なぜそれほどの人気を手にしていたのだろう?

ビリー・アイリッシュ
2001年12月18日生まれ、ロサンゼルス出身のシンガー・ソングライター。2019年3月29日に発売したデビューアルバム『WHEN WE FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は、英米両国はもちろん全世界11か国で1位を獲得し、英国では女性ソロ最年少1位、米国シングルチャートでは14曲同時チャートインを果たし、カーディ・B、ビヨンセ、アリアナ・グランデらが持つ女性アーティストの同時チャートイン記録を更新するなど全世界で「現象」と呼べるほどの大ヒットとなっている。

2015年、13歳のビリーは共作者である兄・フィニアスが制作した“Ocean Eyes”をSoundCloudでバイラルさせ、翌年「Darkroom/Interscope」と契約。レーベルは彼女を「新種のポップスター」と位置づけ、ラジオで売り出す伝統的手法は用いず、慎重に作家性とオンライン人気を育む方針をとった。結果として、その選択は正しかった。

「ストリーミング出身のポップスター」と謳われるビリーは、今やSoundCloudのみならずYouTubeのASMR界隈からTikTokのeガールズまで、幅広いユースコミュニティーのアイコンだ。若者を代弁し導く「Z世代のスター」像には、新世代を映すさまざまな「現象」が宿っている。

他に類を見ない、ビリー・アイリッシュが持つ対極的な2つの要素

「自分のことが嫌いなら、これはあなたの曲だよ」(ニューヨーク公演にて、“idontwannabeyouanymore”パフォーム前のMCより)

暗闇のなか、観衆に語りかけた少女は静かに踊りだす。まるでパーティーの隅で友達と駄弁って身体を揺らすかのように。

ビリー・アイリッシュの魅力は親密さだ。ツアーセットは、自宅の制作現場を模すベッド。アルバムにしても仲間と笑い合う会話からはじまっている。一方で興味深いことは、ビリーが近年稀に見る演劇的なパフォーマーでもあることだろう。ホラー映画調な白目に黒目、蜘蛛、漆黒の涙……ここまで奇抜なペルソナを世間に知らしめたポップスターはレディー・ガガ以来ではなかろうか。

親密さと演劇性。対極に映る2要素の共存こそ、Z世代のリアリティーかもしれない。たとえば「片思い相手が同性愛者だったらいいのに」と願う“wish you were gay”は、最後に拍手が挿入されている。パーソナルに響く告白は、観客のための見世物だったというわけだ。

こうした「常に誰かに見られている意識」は長らくセレブリティーの専売特許とされてきたが、今ではソーシャルメディアに親しむ者の多くが持ち合わせている。今日、Instagramには「編集されたセルフイメージ」が「ありのままの姿」のようにポストされているし、同時に現実離れした表現で本心を描かんとする手法も珍しくない。そこはまさしく、親密さと演劇性が混濁し、その境界線を失う世界だ。

ビリーは、ファッションアイコンとしてInstagram時代を生き抜く武器も与えている。バスケットボールパンツが目印のオーバーサイズな1990年代R&B / ヒップホップ女性アクト風ストリートスタイルは、他者からの体型ジャッジを防止するバリアーでもあるのだ。リアーナから学んだという「防衛としてのファッション」は、学校やソーシャルメディアでボディーシェイミングのリスクに晒されるティーンたちのクールなサバイブ術たりえるだろう。

未成年のドラッグ汚染など、ビリーが社会の暗闇に目を向ける理由

<I can't lose another life(私はこれ以上 生命を失いたくない)>“ilomilo”より

周囲に流されぬ個性に注目が集まるビリーだが、その実、非常に社会的なアーティストでもある。山火事や洪水を示唆する“all the good girls go to hell”は環境問題についての歌だ。“xanny”では友人コミュニティーに跋扈するドラッグを拒否しているし、“listen before I go”は精神疾患と自死が描かれている。

ビリーにとって、これらの問題はアメリカの若者の日常であり自然なものなのだという。実際、アメリカにおいて気候問題は若年層が懸念する社会問題のトップに位置している。ザナックスやオピオイドをはじめとするドラッグが未成年でも簡単に手に入る環境も形成されているし、急増する10代後半の自殺率は21世紀最高水準となった。

暗鬱なイシューをアートに昇華しつづけるビリーは、前出“listen before I go”を披露したトロント公演にて、ひとつの目標を明かしている。「この曲で落ち込まないでほしい。あなたを私に引き寄せて……精神的なハグにしてほしい。本当にやりたいのは、私の言葉があなたの言葉になって、それが私たちのものでありつづけること」。

2019年、ビリー・アイリッシュは「ポップスターに必要なもの」すべてを持っている。もちろん、そのうちのひとつは、ファンへの真摯な想いだ。

<I’m in your arms in Central Park / There’s nothing you could do or say / I can’t escape the way, I love you(セントラル・パークであなたの腕のなか あなたは話すことすらできない 私はそこから逃れられない あなたを愛してるから>“i love you”より

彼女が「もっとも気に入っている曲」と語る“i love you”は、アルバムのラストを飾る3曲からなる連作の中央に添えられている。3つのタイトルを繋げると以下のようになる。

「“listen before i go”(私が行ってしまう前に聞いて) / “i love you”(あなたを愛してる) / “goodbye”(さよなら)」。

なお、この悲しいラブソングは、Spotifyのアルバムリリース記念イベントにおいて、ファンとビリーの絆を示す楽曲としてキュレーションされた。

ビリー・アイリッシュ『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
ビリー・アイリッシュ
『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(CD)

2019年3月29日(金)発売
価格:2,376円(税込)

1. !!!!!!!
2. bad guy
3. xanny
4. you should see me in a crown
5. all the good girls go to hell
6. wish you were gay
7. when the party's over
8. 8
9. my strange addiction
10. bury a friend
11. ilomilo
12. listen before i go
13. i love you
14. goodbye
15. come out and play ※日本盤ボーナストラック
16. WHEN I WAS OLDER (Music Inspired By The Film ROMA) ※日本盤ボーナストラック

プロフィール
ビリー・アイリッシュ

2001年12月18日生まれ、ロサンゼルス出身のシンガー・ソングライター。8歳からロサンゼルス少年少女合唱団に所属し、11歳の頃から作曲を始める。13歳のときにレコーディングした「Ocean Eyes」をSoundCloudにアップロードしたところ、まだ13歳とは思えない表現力の高さが話題を呼び、同楽曲でInterscope Recordsよりデビュー。日本には2018年のSUMMER SONICで初来日し、パフォーマンスを披露して話題となった。2019年3月にSpotifyが発表した“世界で最も人気のある女性アーティストTOP20”では、レディー・ガガらを抑えてアリアナ・グランデに次ぐ2位にランクイン(集計期間:2019年1月1日~3月1日)するなど、日々注目を集め続けている。2019年3月29日に発売したデビューアルバム『WHEN WE FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は英米両国はもちろん全世界11ヵ国で1位を獲得し、英国では女性ソロ最年少1位、米国シングル・チャートでは14曲同時チャート・インを果たし、カーディ・B、ビヨンセ、アリアナ・グランデらが持つ女性アーティストの同時チャート・イン記録を更新するなど全世界で”現象”と呼べるほどの大ヒットとなっている。



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