メキシコの「死者の日」がモチーフ。ピクサーのファンタジー作品が地上波初放送
ディズニー / ピクサーによる長編アニメーション映画『リメンバー・ミー』が、2月21日に日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で地上波初放送される。
2017年11月に全米公開、翌年3月に日本公開された『リメンバー・ミー』は、『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチらが監督を務め、メキシコの「死者の日」をモチーフしたファンタジー作品だ。主人公は、伝説のミュージシャンであるエルネスト・デラクルスに憧れて、自身もミュージシャンを夢見る天才ギター少年ミゲル。「死者の日」に「死者の国」に迷い込んでしまったミゲルが、ガイコツのヘクターの助けを借りながら元の世界に戻ろうとする冒険の様子が描かれる。
『第90回アカデミー賞』では長編アニメーション賞と主題歌賞を受賞、『第45回アニー賞』では最多11部門を受賞するなど高い評価を獲得し、日本でも興行収入50億を超えるヒットを記録した。
家族や先祖を覚えていること、語り継いでいくこと
リー・アンクリッチ監督が劇場公開時のコメントで「(『リメンバー・ミー』は)家族についての物語だ。愛する亡くなった家族やご先祖たちを覚えていることで、子供たちの世代に語り継いでいく。多くの人々が共感できることだと思うよ」と述べているように、本作は「記憶」と「家族」が大きなテーマになっている。
一年に一度、死者の魂が戻ってくる「死者の日」は、日本のお盆のようなお祭りの日だ。作中では、生きている人間が死んだ家族や祖先の写真を祭壇に飾るという死者の日ならではのしきたりが紹介される。ミゲルが迷い込んだ「死者の国」にいるガイコツたちは肉体の死を迎えても残り続ける魂の象徴であり、祭壇に自身の写真が飾られていないと、死者の日に生者のもとを訪れることができない。生きている者によって存在を忘れられた死者は「最後の死」を迎え、死者の国からも消えてなくなってしまう。
ミゲルが死者の国で出会うガイコツのヘクターは、現世で写真が飾られていないために一年に一度の特別な日にも人間界に渡ることができずにいる。この世界では「現世の人間に忘れられる(現世に自分を覚えている人間がいなくなる)」ということが何よりの恐怖だ。「最後の死」を迎えないためには、「忘れられない」ということが重要なのだ。それは良い思い出だろうと悪い思い出だろうと、生きている誰かの記憶に残ってさえいれば魂が消えることはない、ということだとも言える。
「家族の絆」の大切さと厄介さ
登場人物のほとんどがミゲルの家族で構成される本作では、「家族が思い出を繋いでいく」ということが重要なコンセプトになっている。クライマックスには、ミゲルの家族にまつわるある秘密と、「家族の記憶のなかに生き続けること」が起こす奇跡のような出来事が涙を誘う展開が待っている。それは家族の絆や祖先との繋がりがもたらす影響についての道徳的な教訓をもたらす一方で、家族や血縁で結ばれた集団の構成員であるがゆえに直面する厄介さの可能性も示唆している。
死者の国に迷い込んだミゲルがもとの人間世界に戻るには、自分の祖先の「許し」を得ることが必要になる。ミゲルの家では、ミュージシャンであった先祖が家庭を捨てて音楽の道を進んだという昔の出来事が原因で代々音楽が禁じられているが、ミゲルはそれでも夢を諦められず密かにギターの練習に励んでいた。日の出までにもとの世界に戻らなくてはいけないミゲルは、死者の国で出会った曽々祖母に「許し」をもらおうとするのだが、彼女はその条件として「現世に戻ったら音楽をやめること」を言い渡す。
ミゲルは自分の意思とは関係のない、家系に代々伝わる掟のせいでやりたいことを制限され、夢を追うことができない。その掟は親から子へと、理屈ではなく「そういうもの」として受け継がれてきたものだろう。つまりミゲルにとって家族は、死者の国に迷い込んでしまったという窮地を抜け出すために不可欠の存在であり、同時に夢の実現を阻む障害でもある。ミゲルの置かれた状況のなかでは、家族の繋がりの大切さという普遍的で伝統的なテーマと、家族という関係の複雑さが共存しているのだ。
物語のなかで歌の持つ意味が変化するテーマ曲“リメンバー・ミー”
「記憶」と「家族」という本作のテーマを繋ぐ鍵となるのが「音楽」の存在だ。特に、映画の邦題と同名のテーマ曲“リメンバー・ミー”は物語の展開において大きな役割を果たす。
“リメンバー・ミー”は本編で3回、エンディングも加えると4回流れる。マリアッチの要素を加えたアップテンポ版と、子守唄のように歌われるバラード版などアレンジの異なる複数のバージョンが存在するが、物語のなかでは歌われる場面によって曲調だけでなく、楽曲の持つ意味も変化する。
作詞作曲を手掛けたのは、『アナと雪の女王』の“レット・イット・ゴー”および続編のメイン曲“イントゥ・ジ・アンノウン”を世に送り出したロバート・ロペス、クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻だ。複数の“リメンバー・ミー”は作中で歌い手となるキャラクターも異なるが、もともとはアンクリッチ監督の「文脈によって違う意味を持つ曲を作って欲しい」というリクエストが発端となって制作されたのだという。2人は監督が求めたバージョンの違いを「自分に注目を集めて、見せびらかすための歌と、愛する誰かに贈るための歌」と解釈したのだと『Variety』のインタビューで語っている。
日本語吹き替え版でミゲル役を演じた石橋陽彩による“リメンバー・ミー”
2人によれば、“リメンバー・ミー”の根底にあるのは「さよならのメッセージ」であり、それは多様に解釈することができる。日本語版の歌い出しはこうだ。
<リメンバー・ミー お別れだけど リメンバー・ミー 忘れないで たとえ離れても心ひとつ おまえを想い 唄うこの歌>
歌の中で想われているのはこの世からいなくなった人かもしれないし、生きていても遠く離れた場所にいる人かもしれない。前述のインタビューでは、“リメンバー・ミー”の歌詞が彼らにとってとてもパーソナルなレベルから作られたことが明かされている。それは「仕事で留守番をさせることの多い子供たちと、離れていてもどうやって繋がっていられるか?」という2人が実際に直面していた問題だった。
“リメンバー・ミー”は映画の公開と共に様々な言語で歌われ、大切な人を失った悲しみや、大切な人と離れてしまう寂しさに寄り添ってくれる歌として受け入れられた。作中でミゲルやヘクターと家族の繋がりを象徴する歌として機能したものが、物語を離れて広く人々の心に響いたのは、ロペス夫妻の実体験に根ざした個人的な「お別れ」の体験がこの歌の出発点にあったからなのだろう。
日本版声優は当時13歳の石橋陽彩や、藤木直人、橋本さとし、松雪泰子ら。歌声も披露
本作では“リメンバー・ミー”をはじめ、多彩な楽曲が声優本人によって歌われている。オリジナル版ではミゲル役のアンソニー・ゴンザレス、ヘクター役のガエル・ガルシア・ベルナル、エルネスト・デラクルス役のベンジャミン・ブラット、ミゲルの曽祖母ココの母親ママ・イメルダ役のアラナ・ユーバックらが歌声を披露した。
日本語吹き替え版では当時13歳の石橋陽彩がミゲル役を演じ、声優初挑戦ながら伸びやかな歌声で主演の大役を果たした。ヘクター役は藤木直人、デラクルス役は橋本さとし、ママ・イメルダ役は松雪泰子が演じている。
また“リメンバー・ミー”のエンディングバージョンは、シンガーのMiguelとメキシコの歌手ナタリア・ラフォルカデがデュエット。日本版ではシシド・カフカが東京スカパラダイスオーケストラとコラボーレションして話題を呼んだ。
シシド・カフカと東京スカパラダイスオーケストラによる日本版エンドソングの“リメンバー・ミー”
「金ロー」では本編ノーカット放送。ピクサー新作『2分の1の魔法』も公開間近
『リメンバー・ミー』の地上波初放送となる今回は、本編ノーカットで放送される。ピクサーの最新作『2分の1の魔法』の公開を記念して金曜ロードSHOW!で行なわれる「ピクサー祭り」の一貫としてラインナップされており、同放送枠では2月28日に『トイ・ストーリー』、3月13日に『トイ・ストーリー2』の放送も控える。
先日の『第92回アカデミー賞』授賞式では松たか子を含む世界各国の「エルサ」による『アナと雪の女王2』の楽曲の生パフォーマンスが日本でも大きな話題を呼び、式の中では映画と音楽の関わりにスポットを当てるコーナーも設けられていた。多彩なピクサー映画のなかでも真正面から「音楽」を扱った作品である『リメンバー・ミー』のテレビ放送もまた、音楽が物語やキャラクターにもたらす力について改めて実感する機会となるだろう。
- 番組情報
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- 金曜ロードSHOW!
『リメンバー・ミー』 -
2020年2月21日(金)21:00~22:59に日本テレビ系で放送
監督:リー・アンクリッチ
脚本:エイドリアン・モリーナ、マシュー・アルドリッチ
- 金曜ロードSHOW!
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