※本記事は『ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。
会話だけで恋に落ち、結婚までたどり着けるのか? Netflixの異色リアリティーショーが米で人気
「恋は盲目」なのか? この普遍的な命題を実証せんとするNetflix配信のリアリティショー『ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~』が大ヒット中だ。「社会実験」を名乗る本作は、2020年2月のリリース以降、一か月ものあいだアメリカのNetflix人気番組ランキングのトップ圏に居座りつづけた。
『ラブ・イズ・ブラインド』はかなり奇妙な企画になっている。結婚願望のある30人の男女が社会から隔離されるかたちでポッドと呼ばれる個室に入り、一枚の壁を通して一対一、声のみで交流していく。相手の外見は見えないため、内面重視の関係構築が強制される空間なわけだ。ここで10日間のうちに婚約を成立したカップルのみが対面をゆるされ、次のステージに進むことができる。閉鎖空間で愛をはぐくんだ恋人たちを待ち受けるのは、かくも厳しい現実社会だ。4週間という決められた期間のなかで旅行、同棲、家族紹介といった課題をこなしていき、愛を試されながら結婚式にたどり着かねばならない。もちろん、脱落者はたくさん出る。このあまりにスピーディーな婚活企画でエンゲージできたほうが少数派だ。外見や人種、仕事、人生を深く知りもしない相手と結婚できるほど「恋は盲目」なのか? これが『ラブ・イズ・ブラインド』の命題である。
「アンチ・モダンロマンス」な社会実験? いまや米で最も多い「出会いの場」は外見重視のオンライン
普遍的な問いかけをする『ラブ・イズ・ブラインド』だが、若年層を惹きつける「アンチ・モダンロマンス」な番組という見方もできる。「アンチ・スマートフォン」と言い換えても良いだろう。
現在、アメリカでは「Tinder」などのデートアプリが一般的なものになりつつある。2017年に成立した異性愛カップルを対象とする調査において、最も多かった「出会いの場」は、合計39%にものぼる「オンライン」。かつて一般的であった「友人/家族の紹介」、「職場/教会経由」の出会いに起因する交際は減少傾向にある。ウェブを通じて膨大な出会いの機会を授けるサービスがこれだけ普及すると、当然その文化に疲弊する人々も出てくる。とくに問題視されるのは「外見主義」的な側面だ。
Netflixドラマ『マスター・オブ・ゼロ』で知られるアジズ・アンサリが2015年に発表した著書『当世出会い事情――スマホ時代の恋愛社会学』で紹介された調査によると、オンラインデートにおける行動動機の90%は「画像」であると推測される。つまり、内面を伝えるプロフィール文章をいくら工夫したとしても、結局は見た目で選別される確率が高いのだ。女性ならカメラに向かって誘いかけるような写真、男性なら視線をはずしたワイルドな写真がウケる……といった風に。こうした「表面的な出逢い」文化のアンチテーゼとしてつくられた婚活企画こそ、強制的に隔離される「不自由」の精神性を売りにする『ラブ・イズ・ブラインド』、というわけだ。
顔が見えない閉鎖空間で生まれる「魂のつながり」。親からのプレッシャーや年齢差など、ミレニアル世代の普遍的な結婚・恋愛事情も
番組を観てみよう。結婚を望む20代、30代の『ラブ・イズ・ブラインド』参加者たちは、相手の姿を見ることのできないポッド空間の「不自由」を喜んだ。体型で判断されたくない女性や、ルックスに自信のない男性には特段の需要がある。実際、ポッドのなかでは、エモーショナルかつ繊細で、まさに「魂のつながり」と言うべき瞬間が数多く生まれた。不平等な世界を生き抜くための「強さ」主義にとらわれる苦悩を共有し涙した黒人カップルなどが代表例だろう。一方、いざ婚約が成立して外に出てみたら、相手の容姿が好みではなかったパターンも発生する。ポッド編で2人の男性からモーションをかけられたある女性は、外に出たあと「フった相手」のほうが好みな外見だったことを知り、対象のカップルをも巻き込む四角関係へと突入していく。
日本でも共感を呼びそうな、ある意味で保守的側面を感じさせるエピソードも多い。たとえば結婚のプレッシャー。20代、30代の参加者のなかには、親からプレッシャーをかけられて婚約を急ぐ者も珍しくない。年齢やジェンダーの問題もつきまとう。ポッド内で心を通わせたあるカップルは、女性34歳、男性24歳。女性側が年齢差にためらいを見せることでロマンスに亀裂が入ってしまう。
閉鎖空間で育んだ「魂のつながり」が通用するかを問う現実社会編はさらにシビアだ。たとえば、ポッド内でモテモテだった男性が迎える衝撃展開。彼が3人の女性から選んだ婚約者は、パートナーの稼ぎに頼る気満々の借金持ち無職だったのだ! このカップルの経済観ギャップは互いの家族を紹介するフェーズにも響くこととなる。またミレニアル世代らしい問題として、ソーシャルネットワークの存在もはずせない。「僕に電話を返さないくせに、なんでInstagramを更新してるんだ!」……日本でもおなじみの喧嘩ネタだろう。
異人種間結婚の難しさに直面する黒人女性と白人男性のカップル
アメリカ的な恋愛事情も見ることができる。視聴者から特に人気が高かったローレンとキャメロンは、黒人女性と白人男性のカップルだ。この2人の場合、関係自体は順分満帆なものの、肌の色の違いが大きな障壁となる。異人種間結婚について、ローレンは「戦い」だと表現しているし、キャメロンにしても、かつて黒人女性との交際したとき街中で中傷された経験を告白している。同時に、「黒人は黒人と結婚すべき」と考える父親について、ローレンが「違う時代の人」だと語る場面もある。実際問題、アメリカでは、大都市圏を中心に彼女たちのようなカップルが増えてきている。異人種間結婚が合憲と認められた1967年、新たに結婚した夫婦のうち異人種同士の夫婦は全体の3%程度であったが、以降は増加の一途をたどり、2015年にはその5倍以上となる17%に達した。ちなみに、近年の増加の一因と言われるものが、前述したデートアプリである。
内面重視の「真剣交際」デートアプリや、「社会的距離」意識の増加を背景にした企画「Love Is Quarantine」
『ラブ・イズ・ブラインド』のヒットによって、オンラインデートの変化も加速するかもしれない。近年、プロフィール写真で選別する志向が強い「Tinder」カルチャーに疲れた人々を狙い撃つ動きが目立ってきているのだ。2019年に限定リリースされた「S'More」は、大きな制限をユーザーに課す「真剣交際」特化アプリである。相手のプロフィールに表示される「好きな音楽」や「情熱」といった項目に反応していかないと顔写真が表示されない仕様になっており、一度に交流できるユーザーの数も限定されている。まるで『ラブ・イズ・ブラインド』のポッドのように「不自由」な精神性を売りにしているわけだ。
デーティングアプリ「S'More」のInstagramより
さらに、ソーシャルメディアでは、番組を模範する企画「Love Is Quarantine」が注目を集めている。こちらは、管理者にマッチングされた参加者同士が電話で交流していき、関係が進めば公式Instagramに本人映像がアップされるシステムをとっている。発案者が「今の私たちはポッドの中にいる」と語るように、新型コロナウイルス問題、それに伴う自主隔離および「社会的距離」意識の増加によって生まれた企画である。時勢と需要を突いたこの企画が失敗するわけもなく、世界中から参加希望者が殺到した結果、開始1週間も経たぬうちに複数のカップルが誕生したそうだ。まさに『ラブ・イズ・ブラインド』級にスピーディな「内面重視」恋愛である。同番組自体は、第1話の後に挿入される予告編で「式場から疾走する花嫁」が映されるようなポップでジャンクなリアリティーショーだが、そうした素っ頓狂な内容を「非現実的なもの」と笑っていられるのは今のうち……かもしれない。
- 作品情報
-
- 『ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~』
-
2020年2月13日(木)からNetflixで配信中
- フィードバック 6
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-