突如登場した新人デュオMIZUが、オリコンチャートにいきなりランクイン
3月16日付のオリコン週間アルバムランキングで、2位を記録したゆずの『YUZUTOWN』……ではなく、そのランキングのちょっと下のほうに注目してほしい。「見ず」知らずの新人アーティストであるにもかかわらず、そのデビューミニアルバム『MIZU』が、いきなり5位にランクインしたMIZUである。その楽曲を聴いたことのある人にとっては言わずもがなの話ではあるけれど、彼らは果たして何者なのだろうか? いささか白々しくはあるけれど、まずは彼らがここに至るまでの経緯について、簡単に整理することにしよう。
それは、突然のことだった。今年の1月23日、ゆずのYouTube Official Channelにて、突如「MIZU」というアーティストのアニメーション映像が公開される。どうやらMIZUというのは、共に19歳の「ジンジン」と「ガンガン」からなる2人組のフォークユニットで、基本的には以降、毎週末に行われることになるYouTube Liveで、緩いトークとオリジナルの楽曲を披露する、ある意味非常に「今っぽい」活動形態をとったユニットであるということだった。
かくして、その発表の翌々日である1月25日から現在に至るまで、毎週土曜日の夜に、横浜・伊勢佐木町にあるらしい「文令堂」の前から、緩いトークと「路上ライブ」の生配信を行ってきたMIZUは、回を経るごとに少しずつ、その全貌を明らかにしていくのだった。そして、2月14日には、生配信では弾き語りで披露していた初のオリジナル曲“水色”を、バンドアレンジで正式に配信リリース。
合わせてミュージックビデオを発表するも、そこにUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介(Vo,Gt)が、「すいとうさん」というキャラクターとして参加していることが判明するなど、その謎の交友関係と、思いのほか本気で、予想以上に高いクオリティーをもった楽曲のよさで、多くの視聴者をざわつかせたのだった。さらに3月4日には、同曲を含む6曲入りのミニアルバムでメジャーデビューすることが発表され……それがいま、チャートにランクインしている『MIZU』という次第である。
MIZU『MIZU』を聴く(Apple Musicはこちら)
彼らは果たして何者なのだろうか? 同じ問いを繰り返すのも芸がないので、その音楽性が非常に「似ている」ともっぱら評判のゆず……そのリーダーである北川悠仁に、同じ問いを直接ぶつけてみた。
北川:彼らのYouTube Liveは毎週欠かさず見ているんですけど、なかなかやりますよね(笑)。僕らゆずは20代前半の頃、AMラジオの番組でずっとしゃべりの仕事をやっていたんですけど、こいつらにもそれと同じ匂いを感じるというか(笑)。他のYouTuberたちとはテンションが違う、「昭和の臭い」がするんだよなあ(笑)。
ゆず北川悠仁のコメントからMIZUを紐解いていく
そうなのだ。YouTube Liveを見たらわかるように、ジンジンとガンガンの緩いながらも当意即妙な掛け合いは、とてもじゃないけど19歳とは思えない、非常に場慣れした余裕と雰囲気を醸し出している。近いところで言ったら、2009年から2015年にかけてゆずの2人が担当していた『ゆずのオールナイトニッポンGOLD』の和気あいあいとした雰囲気を彷彿とさせるような。
MIZUが、ゆずのファンから愛されている大きな理由のひとつは、そのあたりにあるのだろう。いや、そのトークはともかくとして、肝心の音楽性については、どうなのだろう。先ほどとは打って変わって、少し真剣な表情になったリーダーは、次のように答えてくれた。
北川:僕らはデビューから20年以上が経ち、それなりに築き上げてきたキャリアがあります。だから、見えないところで背負っているものや、守らなければいけないものがあったりして。それは、一人の大人としても。
でも、MIZUの音楽を聴いていると、自分たちが路上でやっていた頃の、ある意味無責任な感じや自由さを感じるんですよね。それはとてもいいなと思うし、彼らの音楽は、僕らが今回作った『YUZUTOWN』というアルバムにも、実は大きな影響を与えているのかもしれないです。
リード曲となった“水色”はもちろん、“サヨナラチャリ”“2時”“成功のなにがし”など、ほとんどあからさまにゆずの楽曲(“夏色”、“サヨナラバス”、“虹”、“栄光の架橋”)のパロディのように思えるMIZUの楽曲。しかし、侮るなかれ。若者らしい(?)やんちゃなユーモアを含んだ歌詞ではありつつも、そのサビで一気に爆発するジンジンとガンガンのハーモニーは、ゆずのファンならずとも思わず耳を奪われてしまうような、圧倒的な強度と美しさを湛えているのだった。その点は、MIZUの作詞作曲者である……いや、ゆずのリーダーである北川自身も認めるところであるようだ。
北川:最初は「大喜利」的なものなのかと思っていたんですけど、実際作っていったら……いや、実際聴いてみたら、そういうことではないなと。その音楽には、いまのゆずにはない、ある種の瑞々しさがあったり、歌詞にしても、いまの僕らには歌えないようなものがありますよね。
僕らも昔はそうだったんですけど、きっと彼らのまわりにもたくさん友だちがいて、その人たちと日々取り留めもなく話していることや、そこで感じたことを歌にしているんだろうなと思うんです。それこそ、友だちの恋愛の話とか(笑)。それをいまの僕らがやるのは、なかなか難しいところがあるんですけど、彼らはそれを簡単にやっているようで、そこがすごくいいなって思うんですよね。
いまだ何者でもない2人だからこそ、その若者らしい鬱屈や未完成な部分も含めて、自由かつピュアに響くように思えるMIZUの歌声。それは、ある者にとっては等身大の輝きを、またある者にとってはいつかの青き輝きを、その胸の内によみがえらせるのだった。さらにリーダーは続ける。
北川:当時、僕たちは路上で歌うしかありませんでした。だから、路上で嘆いていたわけですよ。いまは、みんな美談にしてくれていますけど、「どうやったらデビューできるのかな?」「ライブハウスに行けばいいのかな?」とか悶々と考えながら、路上でライブをやり続けて。そこでたまたまいまのプロデューサーと出会って、自分たちがやっていることを肯定してもらえたから、その後も自信を持って突き進んでいくことができたけど、迷っていた時期はあったし、誰も足を止めてくれなくてつらいときもありました。
だけど、MIZUの2人は、一応「路上」とはいえ、YouTubeを通じて、たくさんの人に見てもらうチャンスがあって、そこに警察も現れないし、怖い人たちも介入してこないわけですよね。だから、僕らがやり始めたときに、もしもインターネットやYouTubeがここまで進んでいたら、僕らはどうしただろう。こんなふうに配信してたのかな。「来週ライブあります」ってTwitterで告知したり、Instagramに歌詞を上げたりしてのかな。MIZUの2人を通じて、そんなことを考えたりするんですよね。
奇しくも『BIG YELL』というアルバムを出して以降、彼らのもうひとつの原点である渋谷の街を描いた“公園通り”という楽曲を作ったり、ドームツアーとはいえ、「弾き語り」という自身のルーツであるスタイルでライブを行うなど、言わば「バック・イン・ルーツ」とも思える活動を展開してきたゆず。
けれども、彼らのニューアルバム『YUZUTOWN』は、必ずしもそういうアルバムではなく、ベテランならではの色とりどりのアレンジが施された、極上のポップアルバムへと仕上げられていた。ひょっとするとMIZUというアーティストは、その過程で生み落とされた、彼らのもうひとつの姿、あるいは同時進行で別の世界線を生きる、彼らの別の「在り方」なのかもしれない。
いずれにせよ、そのすべてが用意周到であるようでいて、実はその一つひとつの活動から、ファンはもちろん、当の本人たちも、思わぬ展開や予期せぬ収穫を掴み取ってきたゆず。はてさて今回のMIZUの出現は、ゆずの2人にどんな実りをもたらせていくのだろうか。そして、禁断の「共演」は、果たしてあるのだろうか。引き続き注目していきたい。
- リリース情報
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- MIZU
『MIZU』完全生産限定盤(CD) -
2020年3月4日(水)発売
価格:1,650円(税込)
SNCC-869361. サヨナラチャリ
2. 2時
3. 水色
4. ぶる~
5. 5日
6. 成功のなにがし
- MIZU
- プロフィール
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- MIZU (みず)
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19歳のジンジンとガンガンからなる、2人組のフォークデュオ。今年1月にYouTubeにて活動を開始し、毎週土曜日夜に横浜・伊勢佐木町にあるらしい「文令堂」の前で路上ライブ(生配信)を実施。19歳とは思えない成熟されたトークまわしと、人気アーティスト・ゆずを彷彿とさせる歌のハーモニーで、SNSを中心に話題を集めている。
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