日本の音楽史における、B’zの軌跡
4月13日、B’zが「B’z LIVE-GYM -At Your Home-」として、歴代映像作品全23本をフル尺でYouTubeにて公開。5月31日までの期間限定で楽しむことができます。
ビッグアーティストにとって避けられない話ですが、かつてはB’zも様々な議論を呼んできました。何せ日本で一番CDを売っているメガヒット時代の申し子。支持者が多ければ多いほど、その逆の声があるのも当然のことです。彼らは邦楽のマーケットに自らの愛する洋楽的なサウンドを意識的に、ときに無邪気に持ち込もうとしたため、まだ洋邦の溝が深かった時代は「洋楽ファン」から色眼鏡で見られたこともあっただろうし、ハードロックをベースとした音楽性に対して、「時代遅れ」と揶揄する向きもあったかもしれません。
しかし、B’zはひたすら作品を作り続け、ツアーを繰り返すことによって、確固たるオリジナリティーを獲得していきました。時期ごとにアレンジャーやライブのサポートメンバーを入れ替えながら、解体と再構築によって常に音楽性をアップデートし、稲葉浩志はボーカリストとして、松本孝弘はギタリストとして、絶対的なポジションを築き上げます。
日本のCDセールスはB’zが2枚のベストアルバムを発表した1998年にピークを迎え、その後なだらかに下降していったわけですが、それでも彼らは変わることなく作品を作り、ツアーを回り、“RUN”や“Brotherhood”といった「繋がり」の歌を通じて、ファンと固い絆を作り上げていきます。その一方では、「フェスの時代」に対し、徐々に開かれた活動も展開。LIVE-GYMに育てられ、バラエティでネタにもされた“ultra soul”が、フィジカルな一体感を重視する2010年代のフェスで花開いたことも追い風となりました。
2017年には『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』で初のヘッドライナーを務め、「J-POP」や「邦ロック」といったカテゴライズを無効化し、2019年には『SUMMER SONIC』で日本人初のヘッドライナーを務め、「邦楽」と「洋楽」というカテゴライズを無効化。それは様々なボーダーが消えていった時代の表れであると同時に、彼らが弛まぬ歩みによって掴み取ったものだったと言えます。デビュー30周年の2018年に行われた『B’z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-』は、常にトップであり続けたB’zが世代を超越した国民的アーティストとしてのポジションをもう一度掴み直したような、記念すべきツアーでした。
そんなタイミングだからこそ、今回の「At Your Home」は長年のファンの方はもちろん、まだB’zのライブに触れたことがない人にこそ見てほしいと思います。彼らはメディアへの露出が多くないので、パーソナリティに関しては広く知られていないかもしれませんが、ライブのMCやステージングからは彼らの人柄が見えてきます。また、B’zはストリーミングを解禁していないので、ネット世代がB’zのことをより深く知るきっかけにもなるはず。今回公開された23本の映像作品の中から10本を厳選し、見所を紹介しながら彼らの歴史を辿ることによって、「At Your Home」をより楽しんでもらえたら嬉しいです。
1. 『JUST ANOTHER LIFE』(1991年発売)
そもそもB’zはTM NETWORKなどのサポートを務めていた松本さんが自らのバンドを結成するべく、稲葉さんを誘ってスタートしていて、当初の音楽性はハードなギターサウンドと、打ち込みのダンスビートの融合がコンセプト。ファンク色も強めでした。
本作は通常のアルバムツアーとは異なり、その時点のベスト選曲で行われる『Pleasure』が初めて開催されたときのもので、徐々にハードロックな音楽性に移行しつつも、初期っぽさが残る段階。稲葉さんは軽快なステップを踏み、腰をくねらせ、バク転を決め、松本さんはYAMAHAのMG-Mで、アームを多用したプレイを見せるなど、現在のイメージとは大きく異なります(稲葉さんの腰振りがもっと見たい人は『FILM RISKY』をどうぞ)。
サポートメンバーはキーボードとドラムに加え、初期のキーパーソンだった明石昌夫が「マニピュレーター」として参加し、曲ごとにエレキベースとシンセベースを使い分けているのもポイント。“OH! GIRL”での会場全体の合唱が完全に女子だったり、まだアイドル的な側面もありますが、演奏からはミュージシャンシップの高さが確かに感じられるように、ここがB’zの原点であることは間違いありません。
2. 『LIVE RIPPER』(1993年発売)
デビュー5周年を記念して開催され、静岡の渚園に2日間で10万人を集めた初の野外ライブ。前年に発売されたアルバム『RUN』で本格的にハードロック路線へとシフトし、ここではスティーヴン・タイラーのようにシャウトして、アクセル・ローズのようにクルクルと回転する稲葉さんを中心とした、恐れ知らずのロックキッズたちの姿があります。
すっかり日焼けをし、今見るとギャル男っぽいビジュアルも含め、「この2年の間に何があったんだ?」という感じですが、当時はそれほど活動のスピードが速かったのです。よくネタにされる「ホットパンツ期」もこの頃で、全体的に露出多め。松本さんのゼブラ柄や、稲葉さんのユニオンジャックなど、記憶に残る衣装も目立ちます。
“『快楽の部屋』”のラストでの松本さんのギター爆破も名シーンですが、個人的に1曲挙げるなら、やはりステージに自由の女神が登場した“裸足の女神”。「B’zの野外ライブといえば“裸足の女神”」という印象はこのときに決定付けられたもので、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』でこの曲が演奏されたときも、渚園の映像を思い出しました。
3. 『"BUZZ!!" THE MOVIE』(1996年発売)
300万枚以上を売り上げたアルバム『LOOSE』の発売前夜に行われた初のスタジアムツアー『B’z LIVE-GYM Pleasure '95 "BUZZ!!"』から、千葉マリンスタジアムでのライブを収録。間違いなく、彼らの歴史の中でもベストライブのひとつと言っていいでしょう。
「勝新太郎に認められ、プレゼントされた」というエピソードがファンの間では有名なテンガロンハットを被って稲場さんが登場する“BLOWIN’”に始まり、“JAP THE RIPPER”や“ZERO”といったロックナンバー、“TIME”や“もう一度キスしたかった”といったバラード、初めて映像化された“恋心”の振り付け(僕は勝手に「元祖・恋ダンス」と呼んでます)など、名演がずらり。何より未発表の新曲として披露された“LOVE PHANTOM”で、稲葉さんがステージセットの高所から飛び降りる演出はもはや伝説。悲鳴のような絶叫からは、当時の衝撃が伝わってきます。
『Pleasure』というツアーの名称は、1991年に発表された“Pleasure’91~人生の快楽~”から付けられたものですが、年数を重ねるごとに歌詞が変化し、主人公が成長して、今では人生賛歌に。また、ライブ序盤のお決まりフレーズで、どんどんネタ化していく「B’zのLIVE-GYMにようこそ!」が映像化されたのもこの作品が初めてです。5年後には『SUMMER SONIC』がスタートし、24年後に同会場でヘッドライナーを務めることに。
4. 『once upon a time in 横浜 ~B'z LIVE-GYM '99 "Brotherhood"~』(2000年発売)
社会現象となったベストアルバム『Pleasure』『Treasure』の狂騒を経て、横浜国際総合競技場(現・日産スタジアム)で行われた初の音楽イベントであり、「B’zの野外ライブは雨」というイメージがここからスタートしました。打ち込みを排除した『Brotherhood』の世界観を踏襲したヘビーなサウンドが痛快で、この時期のサポートメンバーだったベースの満園庄太郎の暴れっぷりは今振り返ってもインパクト大。この記事のサブタイトルの元ネタである“HOME”も演奏されています。
それぞれのソロ曲が披露されたのも特徴で、ストリングスカルテットとともに歌われた稲葉さんの“遠くまで”は、ラストにサッとイヤモニを外して、アカペラで歌うシーンに鳥肌。このライブでの稲葉さんは肉体美もすごい。一方、この頃髪が短めな松本さんは、世界で5人目、日本人では初となるギブソンのシグネチャーモデルを全編にわたって弾き倒し、ソロ曲“GO FURTHER”をプレイ。テクニカルでありながら、あくまでメロディアスな楽曲は、松本ソロの真骨頂を感じさせます。
5. 『Typhoon No.15 ~B'z LIVE-GYM The Final Pleasure "IT'S SHOWTIME!!" in 渚園~』(2004年発売)
デビュー15周年を記念して、10年ぶりに渚園に帰還するも台風が直撃。しかも、その台風が「15号」だったのは「持ってる」と言っていいのか何なのか。ともかく、そんな状況がアニバーサリーをさらにドラマチックに盛り上げ、上空にはヘリコプターが飛んで会場の全景を映し出し、大量の火薬が爆発する一大ロックスペクタクルが展開されました。
『The Final Pleasure』と銘打たれているだけに、過去のライブの演出が所々で用いられ、“LOVE PHANTOM”のダイブが8年ぶりに復活したほか、新たなライブアンセムとなった“juice”のラストでは松本さんが前回の渚園で見せたギター爆破を再現。アウトロでの稲葉さんのロングシャウトが圧巻の“Brotherhood”なども含め、名演を多数収録。
アンコールでは文字通り「命がけ」でこの日を作り上げたスタッフとオーディエンスに感謝を伝え、“裸足の女神”で大合唱。ラストの“RUN”ではサプライズで用意されたサイリウムをオーディエンスが一斉に光らせる感動的なシーンも。まさに伝説。
6. 『B'z LIVE-GYM 2005 -CIRCLE OF ROCK-』(2013年発売)
円形のセンターステージで360度オーディエンスに囲まれた中でライブが行われた、B’z史上最もコンセプチュアルなツアーの模様を収録。複数置かれた裸の女性のマネキンに稲葉さんが指を這わせる“Mannequin Village”、黒装束の人々が登場し、ステージに松明を灯した“BLACK AND WHITE”、そして、高速回転するステージの外周でスタンドマイクにつかまりながら歌われた“juice”など、様々な演出が盛り込まれました。
このライブは2018年に放送された『アメトーーク!』(テレビ朝日系列)の「B’z芸人」でも取り上げられ、番組の中では様々なLIVE-GYMの演出が紹介されましたが、でもやっぱりB’zの一番の魅力は歌と演奏なんですよね。当たり前だけど。この時期はギタリスト / コーラスとして大田紳一郎が参加して、アレンジの幅が広がり、“ねがい”の間奏での各メンバーのソロをフィーチャーしたセッションがめちゃめちゃかっこいいです。
MCやメンバーとのやり取りも長めに収録されていて、ロックスターで、セクシーで、何よりお茶目な稲葉さんを堪能できます。それは普段クールな松本さんもそうで、テレビの音楽番組ではそこまで伝わっていないところかも。ライブが終わって、2人が笑顔で肩を組んで退場し、サポートメンバーと抱き合うラストシーンが最高。
7. 『B'z LIVE-GYM Pleasure 2008 -GLORY DAYS-』(2009年発売)
ここからは20周年を機に、5年に一度のお祭りとして復活した『Pleasure』の変遷を見ていきます。2008年の会場は日産スタジアムで、天候は安定のどしゃ降り。
ベースにバリー・スパークスが加わり、2010年代のB’zを支え続けたシェーン・ガラースとの強固なリズム隊が完成していて、前述の大田と、長年B’zと活動をともにしてきたキーボードの増田隆宣で構成されたバンドの演奏が実に素晴らしく、ひさびさの『Pleasure』ということもあって、セットリストも「これぞ!」という王道の並び。
2人が初めて音を鳴らした六本木のスタジオ「SOUND JOKER」をセットで再現し、結成秘話が語られ、デビュー曲の“だからその手を離して”を当時のカラオケスタイルで披露したり、本編ラストの“ギリギリchop”で稲葉さんがひさびさのホットパンツ姿を披露するなど、「B’zといえばこれ」という要素を凝縮。映像の公開から1週間が経って、直近2作に続いて再生回数が多いのがこの作品であるように、入門編としても最適の内容です。
8. 『B'z LIVE-GYM Pleasure 2013 ENDLESS SUMMER -XXV BEST-』(2014年発売)
会場は日産スタジアムで、天候はもちろん雨……ではなく、稲葉さんいわく「上出来」。『Pleasure』なのでもちろんヒット曲や人気曲が多数披露されているのですが、5年前との差別化もあってか、「これもやってくれるんだ!」みたいな場面がちょこちょこあって(“さよならなんかは言わせない”や、キャンプファイヤー風で演奏された“あいかわらずなボクら”など)、長年のファンからすれば嬉しい選曲に。
また、この時期から大賀好修がギタリストとして参加していて、これは松本さんがラリー・カールトンと共作した『TAKE YOUR PICK』で2011年の『グラミー賞』を獲得し、ツインギターに開眼したのが大きいと思われます。ドラマ主題歌として若いファンにもリーチした“イチブトゼンブ”が演奏されるようになったり、アンコールラストが“ultra soul”だったり、2010年代型B’zの雛形ができあがったライブだったとも言えるでしょう。
東日本大震災後初の『Pleasure』だったこともあり、直接「震災」というワードこそ使わなかったものの、「続けていくこと」について語った終盤のMCは、現在の状況で聞くと改めてグッと来るものがあります。
9. 『B'z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-』(2019年発売)
B’z結成以来、初めてと言っていいであろう喉の不調を経験した『LIVE GYM 2017-2018 LIVE DINOSAUR』からわずか半年後に開催された30周年の『Pleasure』。ライブ終盤のハイライトを作り続けてきた“ultra soul”を1曲目に据えて、本編ラストに“Pleasure 2018~人生の快楽~”、アンコールに“Brotherhood”“RUN”という重要曲を持ってきたセットリストは集大成に相応しく、「これしかない」というものだったと思います。
内容的にはアニバーサリー色が強く、ハイライトとなる“LOVE PHANTOM”では中盤に続編となる未発表曲“HINOTORI”を挟んで、15年ぶりのダイブを披露。“恋心”の振り付けを改めて説明したり、“juice”の間奏に“NATIVE DANCE”や“太陽のKomachi Angel”といった人気曲のフレーズを入れたりと、30年の歴史を知っていればより楽しめるはずなので、「すでに見た」という人も、過去の映像で歴史を辿った上で、もう一度見てほしい。
熱唱というよりも絶唱に近かったアンコールの“Brotherhood”でもう泣きそうでしたが、最後に演奏された“RUN”のラスト<心開ける人よ行こう>の後で、稲葉さんが「行こう、行こう、行こう!」と3回繰り返すシーンで涙腺崩壊。B’zはまだまだ走り続ける。
10. 『B'z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-』(2020年発売)
長年連れ添ったサポートメンバーを一新して臨んだ、31年目の、最新型の、最先端から加速するB’z。完成度よりも鮮度を重視し、スラップとタッピングを駆使して5弦ベースを弾き倒す紅一点モヒニ・デイをはじめとした新メンバーとの演奏を楽しんでいる様子が伝わってきて、さいたまスーパーアリーナのスタジアムモードがまるでライブハウスのよう。
エドワード・ヴァン・ヘイレンのシグネチャーモデルであるMUSIC MAN EVH(長らく行方不明になっていたが、2018年にSNSを通じた捜索で発見され、20年ぶりに手元に戻った)を要所で用い、ワウペダルやアームを駆使する松本さんのプレイも一周回って新鮮だし、音源でAerosmithのジョー・ペリーと共演した“Rain & Dream”では、Yukihide“YT”Takiyamaとのギターバトルも見ごたえ十分。昨年のラグビーワールドカップを盛り上げた“兵、走る”が新たなライブアンセムとなっているのもポイントです。
30周年の後はさすがに一休みするかと思いきや、<ゴールはここじゃない>と言わんばかりに走り続け、トライを続け、B’zが今も進化を続けていることを証明する作品。
B’zは自らの表現を「アスリート」のごとく磨き上げてきた
B’zのライブの名称に「体育館」などを意味する「GYM」がつけられた経緯は定かではありませんが、稲葉さんのシャウトにしろ、松本さんの速弾きにしろ、そこにはアスリートを見るような感動があり、生命の力強さを感じさせます。そんな彼らの現在のパブリックイメージを担っているのが“ultra soul”や“兵、走る”といったスポーツの世界大会のテーマ曲だというのは必然性を感じるし、LIVE-GYMの最重要曲が、<荒野を走れ どこまでも><飛べるだけ飛ぼう 地面蹴りつけて>と歌う“RUN”だということも、「アスリート」という印象に繋がると言えるでしょう。
『B'z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-』のMCでも語られているように、B’zの音楽の根本にあるのは「生きる喜び」であり、LIVE-GYMはまさにそれを共有する場所です。そのために自らの表現をアスリートのごとく磨き上げてきたのがB’zの30年であり、彼らの進化はこれからも続きます。また会うために、生きるなら。Stay At Your Home.
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- 「B’z LIVE-GYM -At Your Home-」
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これまでに映像化されたVHS・DVD・Blu-ray全23作品を、「B’z LIVE-GYM -At Your Home-」と題し、YouTube公式チャンネルにて一挙公開。公開期間は5月31日まで。
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