『アカデミー賞』4部門受賞。対照的な二つの家族を巡る「悪役のいない悲劇」
2020年の『アカデミー賞』授賞式が行われたのは、パンデミックによる混乱が世界に広がり始めた2月上旬だった。約1年前といっても遥か昔のことのように感じるが、ハリウッドが感染拡大による撮影中止や映画館の閉鎖などの事態に見舞われる少し前のことだ。その『第92回アカデミー賞』の主役ともいえる作品だったのが韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(以下、『パラサイト』)。1月8日に日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」にて地上波初放送される。ここでは本作のあらすじやキャストの情報、そして今回のテレビ放送ならではの見どころをネタバレなしで紹介する。
2019年に韓国で公開され、『第92回アカデミー賞』では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4つの賞を受けた本作。『カンヌ国際映画祭』の最高賞・パルムドール受賞をはじめ、国内外の映画祭を席巻した。外国語映画賞を受賞した『ゴールデングローブ賞』ではポン・ジュノ監督による「1インチほどの字幕の障壁を超えれば、もっとたくさんの素晴らしい映画に出会えます」というスピーチも話題となった。日本でも同年12月末から公開されると多くの観客を惹きつけ、47億円を超える興行収入を記録している。
『パラサイト 半地下の家族』の韓国語原題は「寄生虫」だが、ここで「寄生」的な関係を築くのは人間たち──全員が失業しており、半地下の住宅で暮らす貧しいキム一家と、IT企業を経営する裕福なパク一家という、境遇の異なる二つの家族だ。キム家の長男ギウが学歴を詐称してパク家の娘の家庭教師になったことをきっかけに、キム家の面々は家庭教師や使用人として互いに無関係な人物を装い、一家でパク家に入り込んでいく。本来は接点のなかった二つの家族が、雇用関係という形でつながった先には驚きの結末が待ち受ける。
監督のポン・ジュノは本作を「道化師のいないコメディ」「悪役のいない悲劇」と形容している。本作の物語は、同じく富裕層と貧困層の格差を題材にした2013年公開の監督作『スノーピアサー』のポストプロダクション中に思いついたのだという。
監督と4度目タッグのソン・ガンホら。韓国映画やドラマで活躍する、個性溢れる俳優が揃う
貧しい一家の父・ギテク役を演じたのはソン・ガンホ。ポン・ジュノとは、『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』『スノーピアサー』に続いて4作目のタッグとなる。本作で計画性がなく事業の失敗を重ねた楽天的な父親を演じたソン・ガンホは、ポン・ジュノ監督作をはじめ、『シュリ』『JSA』『弁護人』『タクシー運転手 約束は海を越えて』など多数のヒット作・話題作に出演している、韓国を代表する俳優のひとりだ。その評価は国内にとどまらず、昨年11月に「ニューヨーク・タイムズ」が発表した「21世紀最高の俳優25人」のひとりにも選出されている。同特集にコメントを寄せたポン・ジュノは「私にとって彼は尽きることのないダイヤモンドの鉱山のようだ。彼と一緒に4本の作品をやっても、40本の作品をやっても、私は新しいキャラクターを発掘することができるだろう」「彼は全ての瞬間に息を吹き込み、生々しさをもたらすことができる」と評した。
ギテクの息子、ギウを演じたのはチェ・ウシク。家庭教師として最初にパク家に入り込む長男ギウは、大学入試に失敗し続け「受験のプロ」になったキャラクターだ。本作のエンディングで歌われている“Soju One Glass(焼酎一杯)”はチェ・ウシクの歌唱によるもの。ポン・ジュノ監督作への出演は、Netflixオリジナル映画『オクジャ/okja』に続く2度目だった。チェ・ウシクは映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』における野球部の高校生役でも強い印象を残したほか、昨年Netflixで配信された映画『狩りの時間』にも出演している。ちなみにギウに家庭教師の職を紹介する友人としてカメオ出演しているのは、『梨泰院クラス』の主演俳優として昨年日本でも高い知名度を獲得したパク・ソジュン。チェ・ウシクとパク・ソジュンはプライベートでも親しい友人同士として知られている。
チェ・ウシクが歌う『パラサイト 半地下の家族』エンディングソング“Soju One Glass”(Apple Musicはこちら)
ギウの妹、ギジョンを演じたのはパク・ソダム。美術予備校に通えないまま習得した高い技術で公文書の偽造をやってのけ、パク家の息子をあっさり手懐ける大胆不敵なキャラクターだ。ギウと口裏をあわせて、偽の経歴を覚えるために歌った「ジェシカ、一人っ子、イリノイ、シカゴ……」というフレーズは「ジェシカ・ジングル」として映画公開時に人気を博した。パク・ソダムは『シンデレラと4人の騎士<ナイト>』や昨年Netflixで配信された『青春の記録』といったドラマでは明るく前向きなヒロインを演じる一方、映画『プリースト 悪魔を葬る者』では悪魔に憑かれた少女に扮するなど、映画やドラマで幅広い姿を見せている。
ギテクの妻で、元ハンマー投げのメダリストであるチュンスクを演じたのは、チャン・ヘジン。『シークレット・サンシャイン』や『ポエトリー アグネスの詩』といったイ・チャンドン監督作に出演しているほか、ポン・ジュノが「2020年代に注目すべき20人の映画監督」のひとりとして挙げたユン・ガウンの監督作『わたしたち』にも出演。また昨年日本でブームを巻き起こしたドラマ『愛の不時着』では、『パラサイト』での貧乏なキャラクターとは一転して、デパートを経営する北朝鮮のセレブに扮している。
以上がキム家の面々を演じたキャストだが、彼らの「侵入」によって思わぬ事態に巻き込まれていくパク家の夫婦は、夫役をイ・ソンギュン、妻役をチョ・ヨジョンが演じている。甘い声が特徴的なイ・ソンギュンは『白い巨塔』や『コーヒープリンス1号店』といった人気ドラマで主要キャストを務め、映画ではホン・サンス監督作にも多数出演。最近では『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』で人気歌手のIUと共演した。パク社長の「若くてシンプル」な妻を体現したチョ・ヨジョンは、『パラサイト』の演技で韓国の映画賞『青龍映画賞』主演女優賞などに輝いた。チョ・ヨジョンは『ロマンスが必要』『完璧な妻』といったドラマをはじめ、官能的なラブストーリー『情愛中毒』などの映画にも出演。『情愛中毒』での演技がポン・ジュノの目にとまり、『パラサイト』へのキャスティングにつながったのだという。
そして、物語の鍵を握る、パク家の家政婦ムングァンを演じたイ・ジョンウンは数々のドラマや映画、舞台に出演する名バイプレイヤー。韓国ドラマファンにとってはおなじみの役者ではないだろうか。最近ではNetflixで配信中のドラマ『椿の花が咲く頃』にも出演している。ポン・ジュノ監督作としては、『パラサイト』のほかに『母なる証明』『オクジャ/okja』に参加している。
上述の7人を含む『パラサイト』のメインキャストたちは、昨年『全米映画俳優組合賞』(SAGアワード)で最高賞にあたるキャスト賞を受賞した。外国語映画がこの賞を受けるのは初めてのことで、素晴らしいパフォーマンスは言語の壁を超えて人々を魅了するということを改めて裏付けた。
「金曜ロードSHOW!」ではオリジナル吹き替え版を放送。長男役の声優に神木隆之介
今回の「金曜ロードSHOW!」ではオリジナル吹き替え版を本編ノーカットで放送すると予告されている。チェ・ウシクが演じたキム家の長男ギウの声を、俳優の神木隆之介が演じる点にも注目だ。神木はアフレコを終えた感想として「今まで声で参加させてもらった作品では、僕の出す声の色がついていましたが、今回はそれをあえて抑えて、今までにない声の出し方に挑戦させて頂きました。やった事がないチャレンジだったので不安もありつつ、どんな出来上がりになるかとても期待しています」とコメントしている。
なお『パラサイト 半地下の家族』はNetflix、Amazon Prime Video、U-NEXTをはじめとする各種動画配信サービスでも配信中。同作のモノクロ版もNetflixで配信されている。
- 番組情報
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- 『パラサイト 半地下の家族』
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2021年1月8日(金)21:00~23:34に日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で放送
監督・脚本:ポン・ジュノ
音楽:チョン・ジェイル
出演:
ソン・ガンホ
チャン・ヘジン
チェ・ウシク
パク・ソダム
イ・ソンギュン
チョ・ヨジョン
チョン・ジソ
チョン・ヒョンジュン
イ・ジョンウン
声の出演:
山路和弘
神木隆之介
津田真澄
近藤唯
恒松あゆみ
東地宏樹
早見沙織
小林由美子
田村聖子
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