(メイン画像:©2021「騙し絵の牙」製作委員会)
映画『騙し絵の牙』が3月26日から公開される。原作は塩田武士の同名小説。大泉洋を主人公として「あてがき」して執筆された異色のエンタメ小説を、大泉主演で映画化する。メガホンを取ったのは、映画『桐島、部活やめるってよ』で知られる吉田大八。今年の話題作の1つといってもいいだろう。この記事では、キャストやあらすじといった作品の見どころを紹介する。
異色の「あてがき」小説が原作。作者は『罪の声』の塩田武士。
『騙し絵の牙』の原作小説の作者は、グリコ・森永事件をモチーフにした『罪の声』も映画化された塩田武士。雑誌『ダ・ヴィンチ』で2016年に連載され、2017年に単行本が刊行された。大泉洋を表紙カバーのモデルに起用した単行本は、『本屋大賞』にノミネートされるなどしてヒットを記録した。
大手出版社・薫風社内の権力争いを描いた同作の主人公は、薫風社のカルチャー雑誌『トリニティ』の編集長・速水輝。大改革を進める専務・東松に無理難題を押し付けられて窮地に立たされるが、若手編集者の高野恵を巻き込み、生き残りを賭けた大逆転の奇策に打って出る、というあらすじだ。
原作小説の単行本発売時、塩田武士と大泉洋はそれぞれこんなコメントを発表している。
塩田武士のコメント
実在の俳優、それも唯一無二の役者をアテガキにして小説を書く――。
芸能事務所の方と編集者と打ち合わせを続け、「完全アテガキの社会派小説」という未知の世界を前に何度もプロットを修正。新時代のメディア・ミックスに備えました。もちろん、大泉さんとも打ち合わせをし、その場で非常に鋭く厳しい読者目線のアドバイスをいただいたことにより、物語はさらに進化しました。それぞれの立場で、真剣に作品について考え続けた結果、私のイメージを遥かに超えた「小説の核」が出来上がったのです。
さらに主人公の速水輝也と大泉洋さんの「完全同期化」を目指し、私は大泉さんの映画やバラエティー番組、舞台を観て、語尾や会話の間、どのような方法で笑いを取っているかを分析しました。作品中に速水が接待でモノマネをするシーンがありますが、それはほぼ全てが大泉さんのレパートリーです。改めて実感しました。こんな振り幅の大きい俳優はいない、と。
取材、執筆に4年。今は「もうできることはない」という清々しさが胸の内にあります。「物語の内容が現実とリンクしていく可能性がある」――そう気づいたとき、読者の皆さまはどんな未来予想図を描かれるでしょうか?
大泉洋のコメント
今回『騙し絵の牙』のカバーを担当させてもらいました。
もともと私をイメージして塩田さんが小説をお書きになられたというちょっと変わった作りの小説です。(中略)でも今、何より怖れているのが、この小説が映画化されたとき、速水役が私ではない、ということです。映画館で「特報」を観て、『騙し絵の牙』ってタイトルが出てきてるのに、主演俳優が違っていて「あー! 俺じゃない」って。
本書の帯のキャッチに<最後は“大泉洋”に騙される!>ってあるんだけれど、<最後は“大泉洋”が騙される!>って。実はそれが“騙し絵の牙”だったんだと。それだけは避けたいですね。
「人たらし」「飄々としている」といったパブリックイメージをなぞりながらも、「微妙な振り幅」の演技で「わからなさ」を表現する大泉洋。
小説『騙し絵の牙』の映画化が発表されたのは2018年4月。主演は大泉洋。「何より怖れているのが、この小説が映画化されたとき、速水役が私ではない、ということ」と語っていた大泉の心配は、杞憂に終わることになった。
大泉洋のコメント
ついに! 「騙し絵の牙」映画化、現実的に動き始めました!! そもそものきっかけは、「映像化された際に僕が主演できるような小説ない?」と長年尋られ続けた編集者が、「もう私がつくります!」と、塩田さんへ執筆依頼に伺ったことから始まった企画でした。今はただただこの主役の話が、ちゃんと自分にきたことに安堵しております(笑)。
もともと私に当て書きして頂いた作品ですからこの「速水」という役については本来なんの役作りも必要ないはずなんですが、なんせ物語は出版界を舞台にして、自身が手掛ける雑誌の存続をかけて会社と対決していくという、骨太な社会派作品のため、結局えらい難しい役になっております! なんでもっと簡単な作品にしなかったのかと今更後悔しております(笑)。しかし、塩田先生の原作は最高に面白いので、必ずや面白い映画になると確信しております! 原作を読んでいただいた皆様、お待たせ致しました! いよいよ小説の中の大泉が、映画になって、スクリーンに登場します。楽しみにお待ち下さい。
原作での速水のキャラクター造形では「人たらし」「愛すべき性格」「場を和ませる」「人望がある」といった大泉洋のパブリックイメージをベースにしながら、それを逆手に取った意外性のある人物として描かれていたが、映画版でもそれは踏襲されているようだ。
1月に公開されたインタビュー映像中では、役作りについて「何を考えているかわからないという、そういう人を常に意識していた。飄々としているけど、本当のところはよくわからない人を、微妙な振り幅の中で演じていました」と語っている。役者・大泉洋の魅力と技量を楽しめる作品に仕上がっていそうだ。
松岡茉優、佐藤浩市、宮沢氷魚、池田エライザ、中村倫也……主役級のキャストが大泉洋と共演。
大泉洋の脇を固める共演陣の豪華さも話題だ。文芸誌『小説薫風』新人編集者の高野恵役に松岡茉優、薫風社の雑誌を廃刊のピンチに追い込む次期社長候補の専務・東松役に佐藤浩市、ミステリアスでカリスマ性のある新人作家・矢代聖役の宮沢氷魚、雑誌『トリニティ』を持ち上げる人気モデル城島咲役の池田エライザ、亡くなった薫風社社長の息子・伊庭惟高役の中村倫也、惟高の後見人で保守派の常務・宮藤和生役の佐野史郎、『小説薫風』編集長・江波百合子役の木村佳乃、江波の忠実な部下である編集者・三村洋一役の和田聰宏、速水を疎ましく思う『トリニティ』副編集長・柴崎真一役の坪倉由幸、東松と手を組む大手外資ファンド代表の郡司一役の斎藤工、編集者・高野恵の父で書店の店主・高野民生役の塚本晋也、謎の男役のリリー・フランキー、文芸評論家・久谷ありさ役の小林聡美、大御所作家・二階堂大作役の國村隼。
原作小説とは設定が異なる登場人物や、映画オリジナルのキャラクターもいるため、原作との違いが楽しめそうだ。原作との違いという点で言えば、大泉演じる編集長・速水の名前も「速水輝也」から「速水輝」に変更となっている。細かな点ではあるが、小説と映画の違いを象徴するポイントとも言えるかもしれない。
吉田大八監督とは『桐島、部活やめるってよ』以来のタッグとなる松岡茉優。「お芝居合戦にも注目してもらいたい」
主役級の俳優が揃った豪華なキャスト陣だが、中でも速水と行動する重要なキャラクター・高野恵役を演じる松岡茉優に注目したい。吉田大八監督とは『桐島、部活やめるってよ』以来のタッグとなる松岡は、インタビュー映像で「吉田監督がまた呼んでくれて嬉しい」と語っている。
大泉との共演については「大泉さんの大好きで尊敬するところは、現場がちょっとピリッとしたり、なんか調子悪いのかなっていうときに、大泉さんが楽しいお話で(盛り上げてくれる)。印象的なのは、大泉さんはスタンダップコメディアンなんですよね。立って話すの! 絶対」とコメント。作品の見どころについては、「騙し合い合戦ということなんですけど、私としてはお芝居合戦にも注目してもらいたい」とキャスト陣の演技に賛辞を送っている。
カリスマ新人作家役を演じる宮沢氷魚。「間違いなく今年の目玉の作品になると思います」
また、新人作家・矢代聖役の宮沢氷魚にも注目。カリスマ性のあるミステリアスな作家・矢代聖は、原作小説には登場しないキャラクターとなる。矢代の才能を巡って『トリニティ』と『小説薫風』で社内対立まで勃発する。
脚本を読んだ際の感想について宮沢は、「『MEN'S NON-NO』の専属モデルをやっているので、編集部は身近で、他人事のように思えない不思議な感覚でした。(映画は)フィクションですけれど、結構リアルで現実に近いものが多いので、凄く楽しかったです」と太鼓判を押してる。「間違いなく今年の目玉の作品になると思います」と胸を張る。
音楽はLITEが担当。「この映画の音楽はLITEでなくてはダメなんだ」
劇伴を担当したのはインストロックバンドのLITE。脚本執筆時にLITEを聴いていたという吉田大八監督は、「ドラムやギター、ベースもエッジが強いので、芝居に馴染ませやすい劇伴ではない。僕にとってもチャレンジでした」とコメント。仕上がりには、「日本映画では珍しいくらい音楽が鳴っているのに、セリフもしっかり聴こえている」と満足したという。LITEは以下のようにコメント。
実はLITEの約20年の活動の中で映画の劇伴を担当するのは初めてのことでした。「本当にLITEの音楽が映画に合うのだろうか」という疑念を抱きながら最初に見た試写で、音楽が無くても成立している映画そのもののクオリティに圧倒され更に不安が募ったことを覚えています(笑)。しかし監督とのやり取りの中で0コンマまでこだわる音に対する並々ならぬ熱意と理解、この映画の音楽はLITEでなくてはダメなんだという思いが伝わってきて、その熱に侵された僕たちは創作に没頭していきました。僕たちの音楽が徐々に映画に溶け込んでいく過程は興奮そのものでした。結果として「マスロックと映画」という、過去全世界を探しても類を見ない唯一無二の映画音楽に仕上がりました。監督と僕たちの「世の中に無い新しいものを作る」という思いが映画を通して耳からでも伝わったら、それほど嬉しいことはありません。
苦境に立たされる出版業界の様子や、ヒット作を生むために四苦八苦する編集者たちの姿も描かれる同作の鑑賞後は、「小説の映画化」や「人気俳優をあてがきした小説」といったメディアミックス戦略も、これまでと違った感慨を持って感じられるかもしれない。人気モデル城島咲を演じる池田エライザは、この作品を観ることで「小説に取り憑かれている人たち、小説を愛する人たちの奮闘を観ていただけるのは喜ばしいことだと思うので、多角的に観るとより楽しんでいただけると思います」と語っている。
アニメ作品が立て続けにヒットを飛ばす2021年。同作が映画界のみならず、出版業界、エンタメ界にどのような反響を巻き起こすのか、今から楽しみだ。
- 作品情報
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- 『騙し絵の牙』
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3月26日(金)全国公開
監督:吉田大八
脚本:楠野一郎、吉田大八
原作:塩田武士『騙し絵の牙』(KADOKAWA)
出演:
大泉洋
松岡茉優
宮沢氷魚
池田エライザ
斎藤工
中村倫也
佐野史郎
リリー・フランキー
塚本晋也
國村隼
木村佳乃
小林聡美
佐藤浩市
配給:松竹
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