自己不信や周囲の目にどう向き合う? 女性アスリートの6篇の物語

石川佳純、シモーン・バイルスら世界6組の女性アスリートの物語を、アニメーションで描く

都市の夜景に浮かび上がるビルの灯りと街頭ビジョンの文字、ネオンサイン。近未来の東京のような街のなかで、一人の女性が乗り込んだエレベーターが上昇していく。この女性は、卓球選手の石川佳純。彼女が経験してきた「プレッシャーとの戦い」を描いたショートフィルムからの一コマだ。スキンケアブランド「SK-II」のフィルムスタジオ「SK-II STUDIO」による新作「VSシリーズ」の一環で制作された。

「運命を、変えよう。~#CHANGEDESTITY」をブランドの信念として掲げてきたSK-IIは、現代社会において女性が直面するさまざまなプレッシャーの問題に取り組むため、2021年にブランド初のフィルムスタジオ、SK-II STUDIOを立ち上げた。女性の挑戦を後押しするような映像作品の制作に加え、同スタジオの映像について1再生につき1ドルを女性の支援活動に拠出する「#CHANGEDESTINY資金」も準備しているという。

SK-II STUDIOによる新作の映像作品「VSシリーズ」では、6組の女性アスリートとタッグを組み、アニメと実写を融合した全6篇の作品が制作された。

参加したのは、石川をはじめ、体操選手として史上最多の世界大会メダル獲得数を誇るシモーン・バイルス、世界記録保持者である競泳選手のリウ・シアン、「タカマツ」ペアとして知られたバドミントンの元ダブルスペアの髙橋礼華(昨年に現役引退)と松友美佐紀、サーフィン選手の前田マヒナ、バレーボール女子日本代表チーム、通称「火の鳥NIPPON」。

日々勝負の舞台に立ち続けるトップアスリートの彼女たちが、これまでどのような抑圧や葛藤を経験し、どのように立ち向かってきたのか。作品ごとに異なる6つのテーマを切り出し、それぞれのアスリートの実体験にもとづくパーソナルなストーリーをSFやファンタジーアクションのような世界で描いている。

自分を揺らがせる周囲の声にどう立ち向かうか。卓球選手・石川佳純の場合

成功への重圧をテーマに、アニメーションで表現された石川佳純のストーリーを見てみよう。

「どこに向かってるの?」 エレベーターに乗り込んだ石川に「声」が問いかける。彼女のこたえは「最高の卓球選手」。その目標に向かって、エレベーターは上へ上へと石川を運んでいく。しかし、「声」は次第に彼女を追いつめる。「自分を疑ってみたことは?」「あきらめたほうがいいかも」。不安を煽る黒い雲がついにエレベーターを飲み込み、上に進めなくなったエレベーターは落下してしまう。

幼くしてトップ選手の仲間入りをした石川は、卓球選手としての厳しい評価や期待の目だけでなく、若い女性の著名人に向けられる好奇の視線にもさらされてきた。映像では、メディアや大衆の声が重圧となり、やがて石川を自己不信へと向かわせ、その疑いを具現化した黒い雲が行手を阻もうとする。雲の巨大さが、彼女が背負う期待やプレッシャーの大きさを物語っている。

『SK-II STUDIO:石川佳純「VS プレッシャー」』本編映像

雲に飲み込まれて壊れたエレベーターから落ちそうになる石川を引っ張り上げるのは、ほかでもない彼女自身だ。自分と同じように戦う人たちの存在に気づき、これまで自分がたどってきた道や乗り越えてきた試練を思い出して自信を取り戻した彼女はふたたび上を目指す。今度は、一度乗ったら自動で上がっていくエレベーターではなく、自らの足でビルを駆け登り、雲を突き破る。

自在に形を変えて巨大化していく雲や、曲がりくねったビル、行き交うエレベーターなど、近未来的な街並みと、迫力のあるアニメーション表現を生み出したのは、ポーランドのアニメーションスタジオ「Platige Image」。『カンヌ国際映画祭』でも上映された共同監督作『アナザー デイ オブ ライフ』(2018年)で、『第31回ヨーロッパ映画賞』および『第32回ゴヤ賞』長編アニメーション賞を受賞したダミアン・ネノーが監督を務めた。

『SK-II STUDIO:石川佳純「VS プレッシャー」』ビジュアル

石川のパーソナルな葛藤を描いた本作の制作についてネノーは、「非常に責任の重い仕事でした」と振り返り、「私たちが持っているすべてのビジュアル要素を駆使して、強くてエモーショナルな映画をつくり上げました」と仕上がりに自信を見せる。

他人から寄せられる期待は、それが自分への評価からくるものだとしても、ときに負担となって自分自身を揺らがせる。そんなとき、初心に帰ったり、自分が成し遂げてきたことを再確認したりする行為の持つ力──過去の自分がいまの自分を後押ししてくれるということを石川の物語は伝える。

本作に関連したインタビューで彼女は「楽しみながら前向きな気持ちを忘れずに、でも前向きじゃないときがあってもいいと思う。そういうことを繰り返しながら、最終的には『前に進めたな』ってなればいい」と話している。がむしゃらに前進し続ければ息切れすることもある。ときには立ち止まり、後ろを振り向くことで前に進むエネルギーを得ることも大切な一歩だ。

Netflix作品など手がける各国のクリエイターが集う。ジョン・レジェンドの書き下ろし曲も

「VSシリーズ」でつくられた他の5本の映像作品にも、アスリートたちの物語に共感した世界のクリエイターが集った。6作品には5人の映像ディレクターが携わり、世界15か所で撮影を実施。用いられた3Dモデルは1000体を数えるという。本シリーズではアスリートに立ちはだかるさまざまなプレッシャーを架空の「怪獣」として具現化しているが、「怪獣」の造形にも映像クリエイターたちの個性が発揮されている。

上述のPlatige Imageは石川の作品だけでなく、競泳選手リウ・シアンを主役にした作品の制作も担当した。こちらの作品では、容姿の美しさばかりにスポットライトが当てられ、競泳選手としての自分を正当に評価してもらえないことへの、リウの葛藤を描いている。88risingからリリースしている中国のミュージシャン、レクシー・リウが楽曲を提供している点も注目だ。

『SK-II STUDIO:リウ・シアン「VS ルックス」』本編映像

SNSに流布する外見にまつわる誹謗中傷と、それによる精神的負荷との戦いを描いた体操選手シモーン・バイルスのストーリーには、ジョン・レジェンドが書き下ろしの楽曲“Take A Look”を提供。力強い歌声でバイルスの物語を彩る。映像制作は、Netflixのアニメシリーズ『ラブ、デス&ロボット』のエピソードも手がけたイギリスの「Passion Pictures Films」が担当した。

『SK-II STUDIO:シモーン・バイルス「VS アンチ」』本編映像

また、動作や振る舞いにおいて旧来的な「日本の女性の美しさ」の概念を押し付けられることへの抵抗を描いた、サーフィン選手・前田マヒナの作品と、競争のなかで常に完璧さを求められることに立ち向かう髙橋礼華&松友美佐紀ペアの作品は、Netflixシリーズ『ストレンジャー・シングス』のタイトルシーケンス映像などで知られる「Imaginary Forces」が制作。映像内に用いられた前田マヒナの肖像画は、日本画家の池永康晟が手がけたほか、「タカマツ」ペアの映像内で2人の前に立ちはだかる「怪獣」は、映画『パシフィック・リム』に参加したチームによるものだという。

『SK-II STUDIO: 髙橋礼華&松友美佐紀 「VS マシーン」』本編映像

『SK-II STUDIO: 髙橋礼華&松友美佐紀 「VS マシーン」』ビジュアル
『SK-II STUDIO:前田マヒナ「VS ルール」』本編映像

古代都市のダンジョンのような場所を舞台に物語が展開するバレーボール女子日本代表の作品では、周囲から決めつけられた限界をチームワークで打破していく選手たちの姿をファンタジーアクション風の映像で描いた。監督はTakcom(土屋貴史)が務め、欅坂46の作品のメインビジュアルや、緑黄色社会のMVのイラスト・アニメーションなども手がけたアーティストのwatabokuの手によって選手たちがキャラクター化されている。

『SK-II STUDIO: 火の鳥NIPPON「VS リミット」』本編映像

『SK-II STUDIO: 火の鳥NIPPON「VS リミット」』ビジュアル

実体験にもとづく6本のストーリーに共通するのは、登場する女性アスリートたちが、日常的に他人の好き勝手な言動や、「こうあるべき」という凝り固まったイメージにもとづく偏見の目を向けられ、そのプレッシャーによって自分を抑え込まれたり、自信を失いかけたりする経験をしているということだ。ときには競技に関係なく、振る舞いや容姿に関するジャッジも受けている。

そんな状況において、「自分のルールは自分で決める」「他人の目は気にしない」といった強い意思のもと、自分や仲間を信じることに立ち返り、確固たる信念を武器に自ら壁を打ち破るアニメのなかのアスリートたちの姿は、日々いろんな要因で自信を失いかけたり、自分を疑ってしまったりしている女性たちを鼓舞するエネルギーに満ちている。

「VSシリーズ」キービジュアル

いっぽうで、この社会には個人の力ではどうにもならないことで限界をつくられてしまう現実もある。戦う強さを持てないこともあるし、自分の力で打ち破った「怪獣」が、他の誰かを傷つけることだってあるだろう。

社会の抑圧に対し、自分を信じて跳ね除ける強さによってのみ抵抗するのではなく、プレッシャーを生む声や言葉がたやすく個人に向けられてしまう状況そのものを変えていく必要もあるのではないか。自分を疑ってしまうときの不安も、そこから前を向くときの怖さも経験している石川佳純は「楽しみながら卓球をすること」をいまの目標として掲げる。一人でも多くの人が自分の心地よいあり方でいられる社会になるよう、その実現を阻む「怪獣」の背後にある、より大きな問題にも目を向けたい。

サービス情報
「SK-II City」

「SK-II City」の中では、「SK-II Cinema」で本作品を鑑賞したり、「SK-II STUDIO」の舞台裏を垣間見ることができます。



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