片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展
東京の都心・六本木にある国立新美術館で2008年から開催されている『アーティスト・ファイル』展。2年前にCINRAでもレポートでお伝えした『アーティスト・ファイル2011』は、会期直前にまさかの大震災が発生し、またその影響で2012年度は延期。そして今年、2年ぶり、5回目となる『アーティスト・ファイル2013』が開催されることになりました。国籍・年齢・性別を問わず、現代と向き合う8人の作家たちが一堂に会するこの展覧会。めまぐるしいスピードで移り変わる「現代」という捉えどころのない時代と向き合う作品たちをレポートしてくれるのは、2年前の『アーティスト・ファイル2011』もレポートしてくださったラーメンズの片桐仁さんです。はたして、2013年の作品からは一体どんな時代が見えてくるのでしょうか?
CINRA.NET > 片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2011』展
テキスト:橋本倫史 撮影:西田香織
- 片桐仁
- 1973年生まれ。コメディアン、俳優、彫刻家。多摩美術大学卒業。在学中に小林賢太郎とラーメンズを結成、『シャキーン!』(NHK教育)などのテレビ番組や映画、舞台など多彩に活躍。その独特の感性と存在感が人気を博している。2013年2月21日(木)より、下北本多劇場にてG2produce舞台『デキルカギリ』に出演。
RAHMENS
子どもの自由な絵を現実世界で再現!?
まず最初の部屋で迎えてくれるのは、どこかファンタジックで不思議な写真と、子どもが描いた絵がペアのように並んだ作品。よく見ると、近くに並んでいる写真と絵の構図はとてもよく似ています。これは韓国の作家・ヂョン・ヨンドゥさんの作品。結婚式を挙げる人たち、お姫様に白雪姫、アイドルになった自分。自由なアイデアと大胆な構図で描かれた子どもの絵画を、ヂョン・ヨンドゥさんは現実の世界で再現し、カメラで捉えて作品にしているのです。
片桐仁
片桐:子どもの絵って基本的に俯瞰から描くので、実際に再現するのは大変でしょうね〜。これなんか、ありえない身体の縮尺まで再現してますからね(笑)。あと、子どもに描かせると、やる気のあるときとないときの絵のクオリティーの差が本当に酷いんです。特に男の子が描くのを諦めた瞬間の絵の酷さたるや!
ヂョン・ヨンドゥ「ワンダーランド」より『白雪姫』2004年 ©Yeondoo Jung
子どもの描く絵は、物理や自然科学なんて概念に捉われていません。そうした「ワンダーランド」のような不思議の世界が、ここではCGに頼ることなく再現されています。
ヂョン・ヨンドゥ「ワンダーランド」より『白雪姫』2004年 ©Yeondoo Jung
片桐:これなんかすごい頑張ってますよね。真ん中の飛んでる人、すごくないですか!? 貝も飛んでる! どうやって撮ったんだろう。フレームの外から無理矢理投げ入れたんですかね? モデルの人たちの顔にちょっと緊張感があるのは、一般の人だからでしょうね。「動くな!」って言われてる感じが伝わってきますもんね。
そう、これらの写真のモデルに起用されているのは、プロのモデルではなく一般の少年少女たちなのです。ヂョン・ヨンドゥさんは普通に暮らす人々に愛情を持って接し、彼らとコミュニケーションを取りつつクリエーションをする作家なのです。
シミだらけのシーツに残る記憶
2番目の部屋に展示されているのは、東亭順さんの作品です。作家さんのプロフィールを見るなり、「あ、同級生だ! しかも多摩美出身だ!」と共通点を発見し、一気に親近感を抱く片桐さん。東亭さんの作品の素材となっているのは、なんとシーツです。木枠にはめられた作品に近づいてみると……?
片桐:このシーツ、織りもとても細かいし、モノはすごくいい感じがしますけど……うわっ! シミだらけだ! もう、漂白に失敗したみたいに何重にもシミが重なってますよ! 顔を近づけると、誰かの匂いがしそうですね。
そう、これらの作品は擦り切れそうな使い古しのシーツが使われています。そんな中古のシーツにオイルやニスをにじませることで、ほのかなシミが浮かび上がっています。東亭さんが暮らすスイスでは、リサイクルした中古のシーツが普通に販売されているのだそうです。さらに、大きな木枠構造の向こう側の壁面には、シーツのシミがついてない地の部分を、壁面に刺した数万本のパールピンでなぞって浮かび上がらせています。
片桐:なるほど。にしてもすごくないですか? 日本だとシミのついたシーツなんて捨てちゃいますもんね。そもそも中古を買おうとは思わない。このシーツは何世帯を渡ってきたんだろう?
橋本倫史
1982年東広島市生まれ。ライター。07年、リトルマガジン『HB』創刊、編集発行人を務める。『en-taxi』(扶桑社)、『マンスリーよしもとPLUS』(ヨシモトブックス)等に寄稿。向井秀徳初の著書『厚岸のおかず』(イースト・プレス)制作にも携わる。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-