片桐仁と行く『アーティスト・ファイル2013』展
テキスト:橋本倫史 撮影:西田香織
木と土の持つ原始的なエネルギー。9,000本の丸太と5万個の陶ブロックを積み上げる男
シーツのシミに漂う誰かの気配に別れを告げ、次の部屋へと歩いていくと、さらに巨大な作品が現れます。陶ブロックと丸太によって積み上げられた構築物は、國安孝昌さんの作品です。陶ブロックとは土を焼いて作られたブロックのこと。ひたすら積み上げられた丸太と陶ブロックを見上げていると、生命の源のような原始的なエネルギーにただただ圧倒されます。
片桐:積み木みたいなオモチャで「カプラ」ってありますよね。あれを売ってるお店で積み上げたことがあるんですけど、すごい記録を出して1位になって、僕の写真がお店に貼られてたことがあったんです。何年か前に記録を塗り替えられるまでずっと1位だったんですけど……それとはスケールが違いますもんね。何、このスケール!
この日はたまたま、作家の國安さんが作業をしているところで、幸運にもお話を伺うことができました。作品に使われている陶ブロックは、現在は外注しているものの、以前はご自身で焼かれていたそうです。しかもその数、何と年間10万個!
片桐:10万個!? じゃあこれ全部オリジナルの陶ブロックなんですね! このブロックをこれだけの数、全部ご自分の手で積み上げてるんですもんね。超大変ですよ。
何故か怖さも感じる、子どもたちの顔
陶ブロックの興奮を静めつつ歩いていくと、ずらりと並んでいるのは子どもたちの顔・顔・顔。中澤英明さんの作品は、卵の黄身を混ぜて作る伝統的なテンペラ絵具と薄くのばした油絵具を交互に塗り重ねる独特の技法で生み出されます。作家さんはそれぞれの絵から聞こえてくる声に耳を傾けつつ何度も何度も塗り重ねるため、1つの作品が完成するまでに3、4年もかかるのだとか!
片桐:何度も塗り重ねる作品だと、完成を見極めるのが難しいですもんね。ひょっとしたら、中には何年も描き終わっていない作品もあるのかもしれないですね。これ、最後に眼を入れる瞬間に緊張しちゃいますよね。
中澤さんの作品に描かれる子どもたちは、髪型も表情も服装も顔かたちも様々に違っていますが、どれも印象的な眼をしています。中には1つ目の子どももいます。しばらく子どもたちと向かい合っていると、たしかに何か語りかけてくるような感覚になります。
片桐:パッと見の印象だと、ポスターみたいな感じなんですよ。この絵なんてミスタードーナツの箱とかに使われてもおかしくないですもんね。でも、よく見ると目が怖いんだよなあ。ずっと見てると不安になりますね。眼が怖いんですね、人って。
インスタレーションは、お笑いでいえば大喜利みたいなもの?
子どもたちの部屋を抜けた先に待っているのは、だだっ広くて明るい部屋。そこに散らばるように置かれた、白い紙、針金、編みかけの赤い毛糸、空き容器の数々……。5番目の部屋に配置された利部志穂の作品を見るなり、片桐さんの頭にはいくつもの「?」が浮かび上がります。
片桐:これ、何だよー!? この毛糸、編んでる途中じゃんかよー! この針金、何でこんなところに置いてあるんだよ!? 絶対踏んじゃう人いるよー! もうこの部屋全体が事件現場みたいになってるよ! ツッコミどころしかないよ!
利部さんの作品はインスタレーションに分類されるタイプの作品ですが、作家ご本人は自らの作品を「彫刻」と呼ぶことのほうが多いそうです。どこかから拾得してきたモノや、DIYショップで購入されたモノ、ご本人や家族が所有していたモノ。作品に使用される様々のモノは、作品を展示する場所からインスピレーションを得て設置されているのだそう。
片桐:僕も多摩美の芸術祭のときに、こういうのやろうとして先生に怒られたことがあります。ちゃんと部屋を用意してやったのに、作品を作らないってどういうことだ!」って(笑)。でも、僕にはコンセプトがなかったですからね。この作品はもう、お笑いで言ったら大喜利ですよね。この空間を与えられて、何を持ってくるか。景色のある場所ならまだしも、ここは美術館のホワイトキューブですからね。こういうの、難しいですよ。
橋本倫史
1982年東広島市生まれ。ライター。07年、リトルマガジン『HB』創刊、編集発行人を務める。『en-taxi』(扶桑社)、『マンスリーよしもとPLUS』(ヨシモトブックス)等に寄稿。向井秀徳初の著書『厚岸のおかず』(イースト・プレス)制作にも携わる。
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