「音楽による異種格闘技戦」をコンセプトに掲げた「BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE(以下、BRM)」。昨年の六本木SUPER DELUXEから、今年は何と国立科学博物館に会場を移し、ライブハウスとも、クラブとも、ホールとも違う、異様な雰囲気の中で、世代もジャンルも異なる3組のアーティストによる即興対決が行なわれた。結論から言ってしまうと、BRMとは誰もが一様に楽しめるエンタテイメントというわけではない。試合終了と同時に拍手喝采を送る者もいれば、「今のは何だったんだろう…」と首をかしげる者もいる。さらに言えば、その試合の最中にアーティスト自身の困惑が感じられる瞬間も時折あった(何せ打ち合わせ一切なしのぶっつけ勝負なのだから)。そして、言うまでもなく、それこそがBRMの最大の魅力なのである。異なる領域のアーティストとの対決によって引き出されるそのアーティストの表現の強度を堪能することはもちろん、アーティスト自身も、オーディエンスも、主催者も、その場で何が起こるのかを誰一人把握できていないというスリリングな緊張感と、その中で訪れる背筋がゾクッとするような一瞬の交錯、BRMとはそんな空間のドキュメントなのである。
では、この日の3番勝負を順に振り返ってみよう。館内を進んだ先にまず見えてきたのは、生物の標本などに囲まれたスペースに置かれたオープンリール式のテープレコーダー。第1戦「AFRA VS Open Reel Ensemble B.R.M set(以下、ORE)」だ。まずはOREの面々が現れ、スクラッチなど視覚と聴覚に訴えるパフォーマンスを軽く披露すると、続いてAFRAが登場。徐々にビートを繰り出し始め、バトルがスタートする。人間の体から繰り出されるビートがその場でアナログのテープに録音され、その再生された音に対してさらにAFRAが別の音を繰り出すという攻防が続き、次第にどちらがどちらの音を出しているのかがわからなっていく。それはまるで「人間」と「キカイ」の境界線が薄れていくような、実に不思議な体験だった。
続いてフロアを移動すると、巨大な魚の骨が宙にぶら下げられたより博物館らしい雰囲気の中にドラムがセットされている。第2戦「ASA-CHANG VS 康本雅子」である。ASA-CHANG&巡礼の“影の無いヒト”に合わせた2人のバトルは、プレイヤーとダンサーという性格上セッションに近いものだったとは思うが、初めて目の前で見た康本の、普段の生活のしぐさも取り込んだ、そのダンスの枠を超えたダンスに非常に感銘を受けた。
再び最初のフロアに戻っての第3戦「渋谷慶一郎 VS DJ BAKU」。この日最も「VERSUS」を体現していたのがこの2人だった。まずは渋谷がラップトップでノイズを繰り出し先手を仕掛けると、BAKUが最初はスクラッチで様子を見つつ、徐々にビートを繰り出して主導権を奪おうとする。しかし、渋谷はそのビートに合わせることなくマイペースにノイズを出し続け、なかなか主導権を譲らない。するとBAKUはそのノイズに乗りつつ、隙間を縫うようにビートを繰り出し、徐々に渋谷もそのビートに応じ始め、主導権争いがヒートアップしていく。30〜40分に及ぶ白熱のバトルの末、お互いの熱量が頂点に達すると、2人は示し合わせたかのように徐々に音数を減らしていき、バトルが終了。音が消えるとお互いの健闘を讃えあって握手を交わし、そのストイックながらも熱いバトルに対して、この日1番の拍手が送られた。
こうして、一夜限りの即興対決3番勝負は華々しく終了。それぞれの勝敗は、幸運にもこの場に居合わせることのできた200人のオーディエンスそれぞれの胸に刻まれた。
CINRA.NET > 表現者たちが本気でバトル 「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」という試み
『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2010』
2010年12月12日(日)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 国立近代博物館
出演:
渋谷慶一郎 vs DJ BAKU
AFRA vs Open Reel Ensemble B.R.M set
ASA-CHANG vs 康本雅子
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-