2010年の秋冬美術シーンにおける注目企画『ドガ展』が、9月18日から12月31日まで横浜美術館で開催されています。エドガー・ドガ(1834-1917)は、近代都市パリの文化を、その情熱と探究心とで描き続けた大画家。印象派の中心として活躍しましたが、踊り子や競走馬、そして都市の情景を好んだあたりは、異彩を放っています。
同展を一緒に体験してくれるのは、透明感あふれる歌声と、ときにハッとさせられる粋なピアノがポップ・シーンで輝きを放っているコトリンゴさんです。最新カバー・アルバム『picnic album 1』にちなみ、ピクニック気分でドガの魅力を巡る旅へ出発します。
コトリンゴ
5歳よりピアノを始め、7歳で初めての作曲をする。その後ボストンのバークリー音楽院に留学、ジャズ作・編曲/ピアノパフォーマンス科卒。2006年に坂本龍一プロデュースでデビューを果たす。フリッパーズ・ギターからYMOまでをコトリンゴ流に歌い上げる初カバー・アルバム『picnic album 1』をリリースしたばかり。
コトリンゴオフィシャルウェブサイト
1 「初来日」作品を含む、日本では21年ぶりのドガ大回顧展
ようやく秋らしい涼しさが訪れた横浜。美術館の外壁には、可憐な踊り子を描いたドガの代表作『エトワール』のイメージが。まるで訪れる人々を出迎えてくれるようです。
コトリンゴさんのふだんの美術館体験とは?
「アメリカ留学時には近くのボストン美術館に行ったり、帰国後もときどき気になるものを観に行っていますね。最近は、母と一緒に行った田中一村(亜熱帯の動植物を描いた日本画家)の回顧展がすごく刺激的でした」
今回の『ドガ展』は、オルセー美術館の収蔵作を中心に初期から晩年にわたる約120点が一堂に会するもの。「踊り子の画家」とも呼ばれるドガの代表作はもちろん、あまり知られていない別の顔も見ることができます。コトリンゴさんが訪れたボストン美術館からも、ドガが第一回印象派展に出品した『田舎の競馬場で』他がやってきています。
さて展覧会は、第一章「古典主義からの出発」からスタート。裕福な銀行家の息子としてパリに生まれたドガは、若き日にパリ国立美術学校で学び、ルーヴル美術館でフランスの古典絵画を、イタリアでルネサンス絵画を研究しました。その自画像にはじまり、数々の素描や初期作品が並びます。
肖像画のひとつ『テオドール・ゴビラール夫人(イヴ・モリゾ、1838-1893)』の前で足をとめたコトリンゴさん。
「私、18〜19世紀のヨーロッパが伝える雰囲気が好きなんです。ドレスなどの衣装や空気感とか、観ていてとても楽しいですね。ドガが生きていた時代のフランスの音楽家、ドビュッシーの音楽も非常に素敵で関心があります」
また、ドガは競走馬や競馬場の情景も好んで描いていました。中にはこんな作品も。
「…よく見ると、人が落ちちゃってますね(笑)。周囲のラフなタッチに比べて、倒れている騎手の顔だけがすごくリアルに描いてあるのも不思議です」
タイトルは『障害競馬―落馬した騎手』。神話画や歴史画によく用いられた大画面で、ドガが生きた近代当時の生活のひとコマを描いた野心作です。後に画家本人が修正もしているそうで、その際に人物の筆さばきが変化したのでしょうか。
また、画家の交友関係を示すこんな1枚も。『マネとマネ婦人像』は、大画家同士の交流が生んだ意味シンな作品です。
「どうして絵の右側が欠けているんでしょうね。ドガとマネ夫婦がどんな関係だったのかとか、マネのすごくリラックス(?)した格好も気になります。奥さんはピアノを弾いているのかな」
この絵はドガと同世代で親交もあったマネ夫婦を描いたもので、妻の描かれ方が気に入らなかったマネが一部を切り取ってしまった(!)とも伝えられています。なおドガにとってマネとの出会い、そしてアーティストたちが集まるカフェ・ゲルボワでの交流はとても重要だったようです。
そしていよいよ、ドガの代名詞「踊り子」たちが勢揃いする、第2章『実験と革新の時代』へ。いざ『エトワール』! と前進すると、意外な立体作品が出現します。
「ドガの芸術って絵画だけでなくて、色々な作品があったんですね」
と興味深げに見つめるコトリンゴさん。木綿のスカートなども気になる様子です。このブロンズ像『14歳の小さな踊り子』は、生前に発表されたされたものとしては唯一の彫刻作品。オリジナルはろう製で、衣装だけでなく髪の毛もかつらで再現するなど「リアル」にこだわった一作だったようです。
内田伸一
1971年生まれ。ライター、編集者。『キャプテン翼』命なのに卓球部の中学生、The Clashに心酔するも事なかれ主義の高校生、心理学専攻のモラトリアム大学生として成長し、初対面が苦手な編集者として『A』、『Dazed & Confused Japan』、『REALTOKYO』、『ART iT』などに参加。矛盾こそが人生哉。
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