2 いよいよ傑作『エトワール』の花形ダンサーとご対面
そして、来場者にもひときわ人気の高い本展の目玉『エトワール』とついにご対面。「星」を意味するこのタイトルは、パリのオペラ座で花形の踊り子だけに与えられる称号なのです。
パステル画に特有の繊細さから、これまでなかなか日本への「渡航」が実現しなかったこの踊り子。照明を控えめにした展示空間の中で、華やかな色彩そのものが踊っているようです。
「まるで、作品自体が光を放っているみたいですね」とコトリンゴさん。「私、『オペラ座の怪人』の映画が大好きで、ああいう劇場での明かりの使い方も素敵だなと思うんです。バレエはそれほど詳しくないですが、観るのはとても好きですね」
確かに、フットライトを浴びるダンサーの様子はどこか幻想的。そして、舞台袖に見える「怪人」ならぬ紳士の影も謎めいています。ほかにもドガはさまざまな踊り子たちを描いています。当時話題を呼んだ日本趣味を取り入れたかのような扇形の作品『踊り子』も。
そして華やかなステージの舞台裏も多く登場します。『バレエの授業』はその名の通りの1枚。
厳しそうな男性教師を取り囲む、踊り子たちのレッスン風景。よく見るといろんな驚きがありそうです。
「先生は怖そうですね…この棒で足をピシってやるのかな(笑)。でも、よく見ると背中を掻いている度胸のある子がいたり、足元に子犬が隠れていたりして楽しいですね」。お客さんでも、思わず顔を近づけて見入ってしまう人が続出しているそう。
ドガはほかにも、当時の都会人たちの生活を独特の視点でとらえました。例えばこの『美術館訪問』は、アート鑑賞に訪れる女性たちを描いた、当時としては珍しいモチーフの絵画。都市を描く画家、ドガらしい一作と言えるかもしれません。
そして、それを眺めるのはまさに美術館を訪れる現代女性、コトリンゴさん。
対照的なこちらは、米国を訪ねた際の作品『綿花取引所の人々(ニューオーリンズ)』。男たちの仕事場を描いた肖像画であり、風景画でもあるような1枚です。
「この作品はまるで写真のようにリアルに描かれているのが印象的。美術館の学芸員さんのお話では、ドガは気難しい性格で生涯独身だったけれど、この渡米時にある女性に恋をしたという噂もあるとか。どんな恋愛をしていたんでしょうね」
さて、次の最終章では、ドガがよりプライベートな女性たちの姿=裸婦を描いた作品群が登場します。
内田伸一
1971年生まれ。ライター、編集者。『キャプテン翼』命なのに卓球部の中学生、The Clashに心酔するも事なかれ主義の高校生、心理学専攻のモラトリアム大学生として成長し、初対面が苦手な編集者として『A』、『Dazed & Confused Japan』、『REALTOKYO』、『ART iT』などに参加。矛盾こそが人生哉。
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