―ウェブはデジタルコミュニケーションの場であり、それはもうひとつの「自然」でもあるというお話は、前回の「デジタルの恩恵をツールではなく環境としてとらえる」という杉山学長のお話にもシンクロしそうです。
中村:僕も含めウェブの初期からいる人は、マクロ視点で考えたがる人が多いように思います。でも今はどちらかというとミクロ視点で、Twitterのタイムラインとか、自分の周りだけトリミングしてみるというのが多数派のネット感だと思います。
杉山:今の人は最初からウェブ(=自然)があるのが当たり前だから、私たちが普段「自然」を「自然」として意識していないのに近いのかもしれませんね。
中村:そういうことかと思います。だから「自然」という広いとらえ方ではなく自分の周りにある「風景」を見るし、それをみんなで共有していくという。
杉山:しかし勇吾さんは、その「風景」を作る側でもあります。ご自身のプロジェクトを含め、形や場所を作っていく、具体的にはウェブサイトを作るということに、どういう風に関わっていきたいのでしょう?
中村:ずっと変わらないのは、既存の表現手法を少しずつ拡張しながら、ウェブとかプログラミングといった新しい手法にスムーズに接続していきたいということですかね。『ecotonoha』では、人がサイトに来てそこへ自ら参加していく様子を、樹木が茂るアニメーションで可視化していたり、フォントデータをばらばらにして絵をつくれる『MORISAWA FONTPARK 2.0』にも、そういう所があります。
杉山:既存の表現方法を、ネットの世界で絵筆として使うような感覚?
中村:旧来の手法をちょっとづつ更新していくような気持ちはありますね。でもこれは謙遜ではないのですが、表現へ落とし込む部分では、自分は古いタイプだと思っています。世の中の様々な仕組みを、視覚的な「状態」や「動き」などに翻訳してくことに僕は興味がありますが、最近はそれをそのまま「仕組みそれ自体」に投射するような表現が増えてきているように思います。例えば、いわゆる「ウェブサービス」といった形態も、従来の「便利なツール/サービス」ということから次第に離れて、ひとつの表現手法として捉える人が増えてきているように思います。
杉山:なるほど。でも、どちらが優れているという話とも違いますよね。それにもう一つ勇吾さんの特徴と言えるのは、エンジニアリングとデザインを同時に考えてられる力。これができる人は、未だに多くはいません。だから勇吾さんって「建築家」だなと思うんです。世の中に建物はいくらでもあるけど、建築家と名のつく人が建てた物件はやはりすごいし、中に入ってまた驚く。勇吾さんはそれをサイバーな世界でやっている気がするんです。
中村:実はもともと僕、建築の世界で構造家を目指してたんです。日本国内の、大きな長い橋を多数手がけている会社にいました。そういう現場にいるとわかるのですが、いい建築家の裏には常にいい「構造家」がいます。形態のデザインと構造的な合理性をいかに合致させるか、という協働がそこにはあり、かつ無駄のないものをというのがひとつの理想。そこがピッタリと合ってるのが美しい、という世界で僕も過ごしてきました。だから、その発想からは逃れられないのでしょうね(笑)。
杉山:そうなりたくてもなれない人が多いから、すごいんです。デザインの人とプログラミングの人で話が合わなくて苦労することも多い。だからこそ、そこの間に入るディレクターやプロデューサーが重要になるのですが。
中村:建築家と構造家が普通にコラボしても、いい建築はできないとう点ではそうでしょうね。お互い相手の領域について深い理解がある人同士がコラボすると、例えばフランスのポンピドゥー・センターを手がけたレンゾ・ピアノとピーター・ライスのコンビのように素晴らしい仕事になる。それはウェブの世界でも同じだと思います。
―デザイナー的/エンジニア的視野を併せ持つことや、幅広い分野のクライアントに合わせてユニークなものを作る資質は、鍛えることで身に付くものですか?
中村:重要なのは「好奇心」で、それさえあれば鍛えていけるんじゃないですかね。逆に、興味のない人には難しいだろうと思います。僕も、これまで全然興味が湧かなかったものはいつまでたっても苦手です。
杉山:それは僕もよくわかります。では、デザインワークをする時はまず何を「ひっかかり」にして作り始めるのですか?
中村:それはやはり、「仕組み」的なところです。タミヤ模型の感じ、理科工作的な感じというか。そういう部分でコンピューターにも若いころから反応したんでしょうね。
杉山:やっぱり理系少年だね!
中村:あと、建築がずっと好きなので、図面をじっと見ている中で吸収したものも多いです。イケてる建築家の図面書って、総じてフッター部分がイケてるんですよ!!(笑) 構造エンジニアの世界ではスイスが先進国なので、そこの図面をよく参照するんですけど、知らず知らずのうちにスイスのタイポグラフィに親しんでましたから。
杉山:どの世界でも、一流の人が手がける「設計図」はかっこいいから。
中村:寸法線や記号ひとつとっても、図面上のデザインがかっこいい。設計物そのものとは関係ないんですけど。そういう図面のグラフィックデザインばかり見てたせいか、建築の仕事ではイマイチでした(笑)。
――「仕組み」をひっかかりにしたデザインというお話は、デジタルコミュニケーションにおいても重要ですよね?
杉山:「仕組み」を考えるところが一番面白いとも言えるでしょうね。勇吾さんなんかは、サイトをつくる際にも相手=使う人の気持ちを考えながらデザインしてるんじゃない?
中村:まさにそうですね。まずミクロで考えて、誰かがサイトに来たとしたら、こうきてああなってあっちに行って…という感じでその人の体験を考えます。それがぐるっと1回まわるまで考えて、これでみんな大丈夫! というところまでまず調整していく。さらに、マクロに考えた時に、みんな同じ方向に動くんじゃなくて、人それぞれでちょっとした違いが表れるように意識します。つまり、コミュニケーションも仕組みとして「見立てる」。どれだけ見立てられるか、どういう風に見立てられるか、その見立てから出発して、どんなデザインに繋げるかを練っていく感じです。
杉山:ネットだと、実際にユーザーがどういう風に動いたか分かりますからね。僕は学生に、この世界の面白さは「測定できるところ」だとも言っています。測定して、フィードバック、アップデートしていくのが面白いよって。
中村:測定の基準も色々ありますからね。コンバージョンとか直帰率とか…。でも、数字って恐いもので、いったん値が出てしまうと、大きい=偉いになってしまいがちですよね。例えば「リピート率」っていう指標がひとたび流通したら、「リピート」されることがとにかく良いという価値判断になりがちです。その指標自体をもっと柔軟に考えていいとも思います。色んなサイトがあるから。「1度見てもらえたらそれで充分!」というサイトももちろんある。
杉山:確かに、本来はそれぞれのサイトなりの指標があっていいはずですからね。
中村:だからもっと別の指標…、例えば色を指標に考えるとか。「このサイトはいま群青色です」とか(笑)。これはまあかなりどうでもいい指標ですが。でもそういう風に色んな指標があって良いんじゃないでしょうかね。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-