いっぽう、こうした新しい働き方によって、MUGENUPに製作を依頼するゲーム開発企業の側にはどんな変化があったのでしょう? 人気の白熱ぶりから「美麗カード」と呼ばれる手の込んだ表現も、より高いレベルで求められるようになりました。さらに、求められる世界観はますます多様化しているそうです。
一岡:例えば「前回のあのテイストで」と言われて、そのキャラデザイナーの予定が埋まっていたらアウトですよね。また、pixivで絵師と呼ばれるような人々も注目されていますが、やはり企業が直接依頼できるケースはごく限られます。個人で自由に描いていたい人に仕事を頼んで、クオリティとスピードの両立ができるかというと、リスクが高い。頼んでも途中で連絡が取れなくなってしまうようなケースも、それなりにあるのが実情なんです。
ここまで大きくなった市場を支えるためにはより多くのイラストレーターが必要なのに、思うように人材を集められない。そこが、今この業界の大きな課題なんです。僕らが目指しているのは、そういうことをネットワークとディレクションの両軸で解決して、クライアント企業とイラストレーター双方に良い結果をもたらすことです。
そうして一岡さんは、まだ20代半ばという若さにも関わらず、国内外でもユニークと言われるイラストをクラウドソーシングで分業制作する「クラウドクリエイティブスタジオ」を作り上げました。インタビュー後の講演や、学生たちの作品講評を見て分かったことですが、この他に無いビジネスモデルの実現は、一岡さんの非常に冷静かつ鋭いディレクション能力と、より良いものを目指す情熱無くしてはあり得なかったでしょう。
そうした情熱の向かう先は、ただ単に「クオリティの高いイラストを作る」だけには留まりません。「売れ線」も刻一刻と変化し続けているこの世界。いまだ日々勉強と言いつつも、自分たちが新しい流れをつくる、という気概も語っていただきました。また、この挑戦を始めた当初の目標=イラストレーターたちの仕事環境を改善する、という点でも、今では相応の手応えを感じているそうです。ゲームカードはいま、その人気ぶりに加え、カードの出来の善し悪しが売り上げに直結するという性質も加わって、仕事の単価も上がってきたそうです。
一岡:逆に、ちょっとこれは加熱し過ぎでは…と心配になるケースもあるほどです(笑)。とはいえ僕はイラストレーターの皆さん全体には「自分の才能を安売りしないで」とも言いたい。なぜならそれは、個人の問題じゃなくて、ともすればイラストレーション業界全体に影響を与えるからです。いま僕らのようなことをやっている企業はおそらくまだ無くて、その意味では正当なプライスを設定し得る立場にもある。その責任も常に感じながらやっています。
仕事環境の改善を目的に始まったこの試みですが、一岡さんはやがて、これが才能育成の場となる可能性にも気づいたそうです。前述の通り、イラストレーターは4つの分業の中でスキルやセンスを磨いていくわけですが、たとえ分業していても、不思議と総合的に実力が上がっていたのです。
一岡:これは僕も驚いたのですが、例えば着彩をとことんやってくれた人で、たった2ヶ月で全体の能力が目覚ましく成長した人もいます。協働メンバーのスキルを自然と学ぶのと、ある分野のレベルアップが他の能力も伸ばしてくれる面と、両方あるのでしょうね。大学生や主婦の方もいて、限られた時間しかないとか、仕事に結びつける方法がわからないといった理由で諦めていた人にもチャンスがあります。本当にスター的なイラストレーターだと、1人で月に数枚描いていれば暮らしていけるレベルの人もいます。
2ヶ月でレベルアップしたイラストレーターの作品
before
after
イラストというと「正解」が無いようにも思えますが、MUGENUPでは、社員であるアートディレクターたちのもと、細部に渡るまで明確な判断に基づいたディレクションが行われています。そうやって「イラストを科学する」ことができたことが、いまの成果に繋がったという一岡さん。より力を付けてほしい人材には練習課題を提供するなど、「成長プログラム」も整理・充実されてきたと自信を見せます。
一岡:一緒にやりたいというイラストレーターさんからは、まず応募フォームで実力のレベルを確認させて頂きます。もし力不足な面があっても「ここを頑張ってくれればお仕事を渡せます」などのやりとりをしているんです。そうやって、どんどんプロのイラストレーターを育てていきたいと考えています。
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