今回お邪魔したギャラリー
東京画廊+BTAP
1958年、日本最初の現代美術画廊として開設され、2002年には北京の大山子芸術区にBTAPをオープン。東京・北京を拠点に、アジアの現代美術の今を世界に発信している。
東京・銀座、休日の昼下がり。中央通りは歩行者天国となり、一段とゆるやかな時間が流れている。行き交う人々の顔もみな穏やかで、足取りも軽やかだ。その大通りから少し外れた道路脇に、「東京画廊+BTAP」がある。
今回の取材では、銀座「東京画廊+BTAP」代表の山本さん、北京「BTAP」代表の田畑さんに、それぞれじっくりとお話を伺うことができた。
山本さんは、銀座という土地に画廊を構えることに、とことんこだわりつづけてきた。その理由は、銀座が日本でもっとも早く近代化を遂げた場所であり、美術を商品として売るという行為を、発展させてきた土地だからだ。「明治以降、西洋文明は横浜を通じて鉄道で新橋に運ばれました。その新橋の脇にある銀座が、モダニズムの最初の街になったんです。」そして、なおかつ銀座にはいまだ近代以前の東京の「歴史」が残っている。「江戸の文化こそが、東京を支えてきました。寿司や天麩羅といった、東京にしかない料理の伝統が、銀座に集積している。銀座は、江戸の魅力と近代の魅力が一緒に存在している稀有な街なんです。そこが、やっぱり最高に面白い」
山本さんとは実の兄弟だという田畑さんは、北京で画廊を開いたわけをこう語る。「なぜ北京なのかっていう理由は、誰もやらないところだからです。私はいつもそれを心がけているんです。画廊を開いたころの家賃って、400平米で12万円という、それは破格なものだったんですよ。向こうは何をするんでも安い。だからこそ、儲けようなんていう欲を前面に押し出す必要もなく、日本ではできない大胆な試みもできる。」当初は、客なんて誰も来なくてもいいとさえ思っていたほどだというが、蓋をあけてみればオープニングの展覧会から、1000人ものお客さんが駆けつける大盛況となった。
それでは、「東京画廊+BTAP」のめざすギャラリー像とは、どんなものなのだろう。 「美術という行為も、芸能と同じように、ひとつの遊びです。近代以降の時代の流れって、物理的な生活環境を豊かにしようとしてきたから、心の問題を後回しにしてしまったと思うんです。心を癒す方法を、物理的な問題に還元してきたんですね。しかしどうやらそれではいけないということに、みんながようやく気づき始めた。じゃあ、心の問題ってなんなのか。僕が思うのは、先祖から脈々と受け継がれてきた伝統的な世界っていうのがあって、その大切さを見直し、そこで遊ぶことによって、本当の意味での「癒し」を得られるんじゃないかということです。だからうちの画廊では、芸姑さんを呼んでイベントをやったり、室町時代の花をやったりしていますよ」
ん?ここは「現代美術」を扱う画廊ではなかったっけ?と思った読者も多いのではないだろうか。一体、ここでなにが起こっているのだろう。
ただ、そういった「遊び」は、私たちにとっては突拍子もないことに思えるかもしれないが、山本さんにしてみれば、ごく当然のことなのだ。現代美術と伝統芸能は、「遊び心」や「癒し」という共通項で、時代を越えてつながる必要がある。「今の若い作家は遊びが足らない」という叱責を聞きながら、そんな感想を持った。
また、海外から日本を見つめる田畑さんに、日本と中国の違いを尋ねてみた。「日本は箱庭的な世界で、東京はお弁当箱のようなものです。中国は、とてもお弁当箱には例えられないようなスケールですね。日本のホテルは裏側まで本当に綺麗ですが、そういったところが日本の面白さ。中国の場合、本当に細かいこともやろうと思えばできるし、大雑把なところもある。その分、中国には傑出した天才がいるというのも、また事実なんです。」
日本にいま欠けているもの、日本が持っている本来の豊かさ。お話を伺ううち、そういったことに自然と気づかされる。
ギャラリーで作品を購入するお客さんは、本当にさまざまだ。かつて、アメリカ人の12歳の少年が作品を買っていったと田畑さんは語る。「アートフェアに来てくれたんだ。ある作品を、すごく気に入っちゃったらしくて、会期中に何度も何度も来てね。最終日に、どうしても欲しいんだと両親を連れてきてね。彼のポケットマネーじゃ、一括では払えなかったから、お父さんが立て替えてた。すごく楽しそうに帰っていったよ。」
世界的な傾向を見ても、美術の世界は大きく変化してきているという。「昔は、画廊とコレクター、それから美術館が三位一体だった。画廊が作家を育てて、コレクターに売る。つぎにコレクターが美術館に作品を寄贈して、美術館はそれを研究する。そして展覧会をすると、作品の値段は跳ね上がる。そういった仕組みですね。現在でも美術館は公共の場だから、学術的なことをやっている。でも最近のコレクターは、自分の好きなものを買う。モマやグッゲンハイムで村上隆展をやらなくったって、村上隆の作品を買うんです。画廊はというと、これまでは作品を美術館に売り込んで、有名にしてもらえれば高く売れた。だけどもうそれじゃ売れないから、美術館なんて関係なしに、売れそうなものを扱う画廊がどんどん出てきた。」
自分の気に入ったものを買う、そうしたコレクターが増えてきているようだ。私たちも、アメリカの小学生に負けていられない。
さて、それでは、いざアート作品を買いたい!と思い立った場合に、どんな手続きを踏めばいいのだろう?「まずは、手近なアートフェアに行って、自分の好きな作品を見つけてみてください。そこで気に入った作品がある画廊に行って、オーナーと話してみたりとか、その他の作品を見させてもらうのが、一番いいやり方じゃないかなと思います。」 ギャラリーに足を運んで作品を見るのは、「買わなきゃいけないのかも」というプレッシャーから、けっこう気が重かったりするもの。でも、アートフェアであれば、美術館に行くような気軽さで、作品を見て回ることもできそうだ。
アートフェアに行くことのメリットは他にもあるという。「アートフェアが便利なのは、3万円なら3万円という、同じ価格帯の作品を見比べることで、作家や作品の相場の値段を知れるところですね。また、その年に3万円で買えたものが、次の年に上がっていたり下がっていたりするので、いいと思った作品に注目しておけば、自分の見識がどれほどのものなのか、推し量る指標にもなります。外面的な成長をはかるものさしはいくらでもありますが、内面的な成長を確かめるにはアートが一番。絵は絵だというように、自分と切り離して考えるんじゃなくて、絵のもっている情報をどうやって自分の成長と結びつけるか。絵をきっかけに、どうやって人間関係をつくっていくか。そういうところに、美術の本当の面白さがあると思います」
アートを「遊び」としてとらえ、その中のひとつに、「アートを買う」という選択肢がある。遊びって、やっぱり能動的でなきゃつまらない。自分の想像力を使って、なにかを仕掛けていかなくちゃ。それが、本当の意味での人間の豊かさだ。大人になっても遊びを知っている「不良」のお二人は、やっぱりとても魅力的なのでした。
2005年に「PARADISE TIME」展にて発表した「Flotage」シリーズのマルチプル作品です。等高線のような線は日本列島の時空を再構成したもので、本作品のために新たに原画を制作しました。作品同士を自由に組み合わせることで自分だけの作品の広がりを楽しむことができます。
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