秘密ロッカーのヒミツ大捜索 第2話:大学教授に、秘密ロッカーのヒミツを暴いてもらおう
話は遡ること3月。CINRAから「秘密ロッカー」というバンドについて調べてほしいと頼まれた私は、ファーストアルバムのプロデューサーを務めたDragon AshのHIROKI氏のもとを訪ねた。ネットで探しても情報が見あたらない秘密ロッカーについて、教えてもらおうと考えたのだ。しかしそこでHIROKI氏は、「簡単に教えたら面白くないじゃん?(笑)」と子どもじみた笑顔を浮かべ、低姿勢で歩み寄る私を一蹴する。何とか教えてもらえたのは、彼らに縁の深い高円寺にある3つの場所だけ。言われるがまま(というか逆らうのが怖くて)高円寺を歩きまわった私は、彼らがいつも利用しているというリハーサルスタジオの店長、レコーディングエンジニア、そして彼らがいつも飲んでいるという居酒屋の店長に取材し、彼らの素性(と居酒屋の店長の人生)について垣間見ることができた。しかし、その名の通り謎が多い秘密ロッカー。正直言って、その3つの場所だけでは、彼らの尻尾は掴めなかったのだ。
もうHIROKI氏に翻弄されまいと誓った私は、人に頼らずにその秘密を探ることにした。ギリギリの危うさを含む秘密ロッカーの音楽から、彼らの秘密を解き明かせるのではないかと考えたのだ。
電車を乗り継いでたどり着いたのは西武池袋線・江古田駅、日本大学藝術学部(いわゆる日芸)の情報音楽コースで教授を務める川上央教授の研究室。生態音響学の研究からサウンドデザインまで行い、様々な音を解析・創造してきた川上先生。ふふふ…。音のプロフェッショナルに、秘密ロッカーを丸裸にしてもらっちゃおう!
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新たな発見や感動を得ることはできましたか?
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―先生、今日はよろしくお願いします。
川上:こちらこそよろしくお願いします。最近阿波踊りについて調べる機会があって、それで、ちょうどタイミングがいいなと思ったんだけど、秘密ロッカーの“あほうどり”っていう曲があるでしょ? あの曲をマジメに音響解析すると、実はかなり阿波踊りに近いんですよ。彼らは(阿波踊りで有名な)高円寺を活動拠点にしているから、なんか関係があるのかなと思ったりして。「アホウドリ」と「アワオドリ」の語感も近いし。
―先生それオヤジギャグじゃないですか!? しかも阿波踊りって、彼らはパンクバンドですよ…。
川上:音響学をなめてもらっては困りますよ(笑)。阿波踊りはリード三味線に鳴り物がアットランダムに入ってるだけで、要するに低音しかないんです。そしてこの“あほうどり”も、同じような周波数分布なんです。あなたは彼らを「パンクバンド」と言いましたが、そうやって音の上辺だけでは分からないことがあるんです。
―(ムスっとして)じゃあ、秘密ロッカーの分布図は、他のロックバンドとは全然違うんですか?
川上:良い質問です。普通のロックバンドだと、ギターのディストーションが響くので4000Hzあたりにブワッとエネルギーがあるんですね。でも、秘密ロッカーのグラフを見ると、スカスカなのが良く分かるでしょ? ほとんど低音にしかエネルギーがない。秘密ロッカーは音数が異常に少なくて、ベースラインの低音にギターリフと鳴り物があるだけ。楽器編成としてハーモニーがある感じじゃないから、盆踊りや阿波踊りに近いんです。
―そ、そうなんですか。じゃあ先生、盆踊りと阿波踊りっていうのは違うんですか?
川上:違います。どちらも基本的には2拍子なんですけど、盆踊りっていうのは「イチ、ニ」という風に一定のテンポではカウントせずに、「めでた、め〜で〜た〜」みたいに歌のフリによって拍が進行していく構造なんです。ところが阿波踊りには「タンカタンカ」っていうちゃんとしたフレーズがあって、「イチ、ニ、イチ、ニ」という一定のリズムもある。
―阿波踊りは、踊りやすいんですね。
川上:阿波踊りの歌い出しは「踊る阿呆に見る阿呆」なんて言いますけど、普通の民謡に比べてテンポも速いから、トランス状態にさせる要素があるんですよ。秘密ロッカーの“あほうどり”もギターのリフがあって、テンポが速いじゃないですか。だから盆踊り的というよりは阿波踊り的なんですよね。
周波数分布を解析することで見えてきた秘密ロッカーの意外な特徴。まさか阿波踊りなんてキーワードが出てくるとは思いもよらなかったけど、こうして理論的に説明されると、“あほうどり”の混沌としたサウンドが生み出す恍惚感にも納得がいく。続けて川上先生は秘密ロッカーが持つ特殊なバランス感についても話をしてくれた。