東京国立近代美術館では、2010年4月29日から8月8日まで『建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション』展が開催されている。7組の建築家たちがつくりあげた新作インスタレーションは、「本当にこれが建築?」と疑問が浮かぶ、一風変わったものばかりだ。また、条件付きで作品の写真撮影が許されているというのも嬉しい。今回、このエキサイティングな展示を、数々の映画監督から愛され、ヒロインを務める映画『鉄男 THE BULLET MAN』が5月22日に公開された女優・桃生亜希子と共に鑑賞した。彼女が体感した展示の魅力を、写真を交えてたっぷりとお伝えしていきたい。そして読み終えたあとはぜひ、会場にて実際に鑑賞し、作品を前にこうつぶやいてみてほしい。「で、建築はどこにあるの?」。
桃生亜希子
1976年神奈川県生まれ。『SF サムライフィクション』(98/中野裕之監督)で映画デビュー。その後『episode 2002 Stereo Future』(01/中野裕之監督)、『ロスト・イン・トランスレーション』(05/ソフィア・コッポラ)、『コンナオトナノオンナノコ』(07/富永昌敬監督)、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08/若松孝二監督)、『アフタースクール』(08/内田けんじ監督)、『THE CODE/暗号』(09/林海象監督)など数々の作品に出演。今年8月に開催される『なら国際映画祭2010』では、主演映画『びおん』(山崎都世子監督、河瀬直美プロデュース)が、NARAtiveプロジェクト作品として上映される。映画以外にもモデル・舞台・テレビドラマ・CMなど幅広い分野で活躍しており、今後の活躍が期待される。
ここにいると、とても安心します
気持ち良く晴れた空の下、東京国立近代美術館へと歩み寄っていくと、まず目に入ってくるのが前庭にあるアトリエ・ワンの作品『まちあわせ』だ。
竹をキリンやゾウ、カバの形に組み上げ、その下にベンチを置いたインスタレーション。そのまま「まちぼうけ」してしまってもいいくらい、快適な空間が広がっている。
すがすがしい雰囲気に惹かれ、ベンチに座ってみる桃生さん。
「まるまるとした動物たちが可愛らしくて、見ているうちに思わず登ってみたくなります。それに、囲まれていると安心するので、ほのぼのとした気分にもなりますね。なんだかリゾート地に来たみたい(笑)」
さっそく出会ったお気に入りの作品を、後ろ髪を引かれる思いであとにし、いよいよ展示室へ。
材料は紙? 繊細に組み合わされた驚きの作品
まず目に飛び込んでくるのは、中村竜治による『とうもろこし畑』。
驚きなのは、これが紙でできた作品だということだ。紙はレーザーカッターで切断されており、下に行くほど幅が太めになっている。これは、繊細な構造を維持するため、上を軽くすることでうまくバランスを取っているのだそう。
「本当に細かい作りですね。一寸の狂いもないように見えます。ちょっと押したりしたらどうなるんだろう(笑)。あと、すごく身長が小さくなって、中を走りまわってみるのも楽しそう。真ん中からどんな景色が見えるのか知りたいですね」
さて、建築はどこにある?
すぐ隣の広い空間には、いくつかの物体が散らばっている。いったい、どこに「建築」があるのだろうか。
中山英之の『草原の大きな扉』。
北海道の広大な草原を敷地に、ピクニックに集まった人たちに軽食をふるまうカフェとして設計した建築の、1/3模型だという。作品の両端に置かれた建物のうち、背が高い方は実寸で6メートルにもなるそうだが、諸事情により本作が実際につくられることはなかった。
床に敷いてあるラグは、今回の展示のために用意されたもので、自由に座ってくつろぎながら鑑賞することができる。
「大きさがちょうどいいから、すごく可愛らしく感じますね。壁に貼られているデッサンは、きっと窓なんでしょう。両端にはドアがあって、真ん中には椅子とテーブルがある。この空間じたいが、ひとつの大きな部屋になっているのかもしれません」
外側も内側もなく、作品が占める空間そのものが、吹き抜けの部屋になっている。これも、建築のひとつの在り方なのだろう。
ダブから着想した独特の建築物
次に見えるのが、一見すると家のようだが、中に入ることはできないこの作品。
鈴木了二の『物質試行51:DUBHOUSE』。
作品のタイトルにあるように、ダブという音楽ジャンルの手法を取り入れてつくられている。No.50、つまりひとつ前の作品(住宅建築)の幅をギューッと縮め、そして長さを引き延ばし、高さは潰す。それでこうした奇妙な形ができあがったというわけだ。
「建築とは直接関係がない、音楽から発想を盗んでくるなんて自由でいいですよね。やんちゃな感じがして私は好きです(笑)。もとの住宅ではドアになるところが、ひしゃげて入れなくなってるのも面白い」
暗闇に浮かび上がるレーザー光線
そして次の部屋へ。暗闇の中に浮かび上がるのは、一面の赤い縞模様。 内藤廣『赤縞』。
主に大工が使用する、レーザーを使って垂直を測る道具があるそうなのだが、その美しさに触発されてつくられたもの。レーザーのみでは2 次元だが、中に人が入ったとたん肌に赤い縞が浮き上がり、そこに3次元の空間ができる。そんなきわめて抽象的な空間性を持つのがこの作品だ。
そう表現すると難しそうだが、いろいろと遊べる作品でもあるのが魅力だ。このように寝転がってみたり。
建築家自ら会場に置いたという、薄い布にレーザーを当てて遊んでみたり。さまざまな物を使って、空間を浮かび上がらせてみるのが楽しい。
甘く切ない気分に浸る部屋
さて、展示も残すところあとわずかだ。今度は動きのある作品が登場。
菊地宏の『ある部屋の一日』。
部屋の中心には建築の模型が吊り下がっており、その周りを太陽をイメージした光源がぐるぐると回っている。まさに「ある部屋の一日」が、見る者の目の前で何度も繰り返されることになる仕掛けだ。ただ、本作のポイントは、この次の部屋にこそある。
ここには前の部屋にあった模型をほぼそのままの縮尺で大きくした建物がある。壁と床にプロジェクターで映し出されているのは、前の部屋の模型に取り付けられた2つのカメラがとらえるリアルタイムの映像だ。そして、部屋はノスタルジックなピアノ音楽で満たされている。
「音楽も映像も切なくて、なんだか泣けてきますね…。まるで、自分がおばあちゃんになって、これまでの一生を振り返っているような気分です(笑)。光の加減ですかね、木がなびいているようにも見えるのも綺麗です。体の力が抜けきって、すっかり懐かしい気分に浸ってしまいました」
小さな細胞から大きな宇宙までを繋げる建築
そして最後を飾るのは、伊東豊雄の『うちのうちのうち』。
複数の多面体が組み合わされてできていて、垂直な壁面がひとつもない。これはプロジェクトが進行中の「今治市伊東豊雄建築ミュージアム(仮称)」でも採用されているシステムだ。
中に入ると、壁のあちこちで、伊東豊雄による他のさまざまなプロジェクトが紹介されている。その有機的な性質は、人工の「森」とでも言うべきイメージを与える。
こちらは「台湾大学社会科学部棟図書館」の幾何学モデル。鏡によって無限の広がりをみせる。
「台中メトロポリタンオペラハウス」の幾何学モデル。
天井に広がる「座・高円寺」の幾何学モデル。
「まるで人間の体の中に入り込んでしまったような、不思議な感覚です。すごく未来都市っぽい感じがしますけど、それでいて暖かいというか。小さな細胞から大きな宇宙までを繋げている建築のような気がしますね」
7つの世界を旅した気分です
こうして、最後まで見終えた桃生さんに、展示全体の印象をお聞きした。
「本当に楽しかったですね。7つのインスタレーションを見終えると、いろいろな世界を旅してきた気分になりました。『私、これが一番好きだ!』って思った直後に、もう次の作品が一番好きになっているという感じでしたね。個人的には、『赤縞』や、『ある部屋の一日』がお気に入りでした。建築に触れることで、こんなにも自分の気持ちが動かされるんだなあ、とビックリしました。とてもいい経験になりましたね」
ともすると「敷居が高い」と思われがちな建築の展示が、こんなにキャッチーに楽しめる機会はそうそうないだろう。ぜひ、じかに作品に接してもらい、じっくりと遊んだり、驚いたりしてみてほしい。
『建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション』
2010年4月29日(木・祝)〜8月8日(日)
会場:東京国立近代美術館
時間:10:00〜17:00(金曜は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
参加建築家:
伊東豊雄
鈴木了二
内藤廣
アトリエ・ワン
菊地宏
中村竜治
中山英之
休館日:月曜日(5月3日、7月19日は開館)、5月6日(木)、7月20日(火)
料金:一般850円 大学生450円
※東京国立近代美術館ウェブサイトにて割引引換券を掲載
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