2010年9月24日から30日まで、有楽町のシアタークリエで上演された舞台『キサラギ』。続く全国7都市の公演に加え、10月15日の東京追加公演も決定した。謎の自殺を遂げた女性アイドルの一周忌に集まった、初対面のファン5人。いずれ劣らぬクセ者たちが繰り広げる密室推理劇は、笑いと涙とサスペンスを織り交ぜつつ、予想外のラストへ突入する――。2007年の映画版でキサラギ旋風を巻き起こし、2009年には舞台版が実現。今回は一部キャストを刷新し、待望の舞台再演となった。その模様をレポートする。
夭折のアイドル・如月ミキの奇妙な一周忌へようこそ
廃墟然としたビルの一室に、ワケあり風の男たちがひとり、またひとりと現れる。と書くとクラシックな密室劇のようだが、これはひと味違ったコミカルさの中で展開する現代の物語。なにしろ彼らが集まる目的からして、出したCD1枚だけの「無名アイドル」(語義矛盾?)の一周忌に、彼女を偲ぶオフ会というものだから…。
そのアイドル、如月(きさらぎ)ミキのファンサイトを通じて知り合った5人の男たちは、この日が初対面。ハンドルネームで簡単に紹介すると、こんな感じだ。 幹事役で一見しっかり者、如月ミキには誰より詳しいと自負する公務員の「家元」。会津若松からカウボーイ姿で電車を乗り継ぎ3時間、多感な割に空気の読めない好青年「安男」。オシャレ雑貨屋のスタッフで、考えるより前に口が動くお調子者「スネーク」。ダンディーな佇まいの端々にそこはかとない不気味さを漂わせる「オダ・ユージ」(青島ファンではないと強硬に主張)。そして、ハンドルネームのセンスに問題があるが、社交性にはもっと問題がありそうな謎の中年オタク「イチゴ娘」。
舞台序盤では、彼らのキャラと熱烈ファンぶりが披露される。こんな振れ幅ありすぎのファンを獲得できるアイドルも珍しいが、男たちを結びつけたその少女・如月ミキは、1年前のこの日に謎の自殺を遂げていた。そして彼らは、かつて「我らがミキちゃんのファースト(そして実質ラスト)コンサート」が行なわれた建物の一室で鎮魂の杯を交わす。熱心なファン心理とはそういうものだろう。
かくゆう筆者も17歳でクラッシュとピストルズをアイドルと崇め、いまでも毎年ジョー・ストラマーの命日には名盤『白い暴動』に針を落とし献杯する。「ボーイズ・ビー・シドビシャス」と叫んだバンド仲間のタケちゃんは元気だろうか……。脱線しました。つまりファンの中では、たとえその死をもってしてもアイドルと自分の人生の関係は続くということだ。
だが、和やかなムードで始まった男たちの思い出語りは徐々に歪みを見せていく。やがてそれぞれの秘密が暴かれ始めると、5人のパワーバランス、そして故人・如月ミキとの関係までもが次々と激変。そして誰かがつぶやく。「本当に自殺だったのか?」と――。
怒濤の伏線が「あり得たかもしれない真実」へと集結
ここでキャストについても紹介しておこう。この奇妙なオフ会のホストを務める「家元」を演じるのは松岡充。ロックバンドSOPHIAのボーカリストで、香取慎吾や加藤浩次と競演したテレビドラマ『人にやさしく』(2002)をはじめ、俳優業でも個性を発揮している。本作では、何事にもソツのない反面、周囲の評価を気にするコレクター気質の小心者を軽妙に好演。ステージ度胸はライブも舞台も共通か?
クールで謎めいたトレンチコートの男、オダ・ユージ役は今村ねずみ。劇団「夢の遊眠社」の門を叩いたのちに「THE CONVOY SHOW」を立ち上げ、ダンス、タップ、歌、演奏をちりばめた(キサラギと同じく男だらけの!)ステージを展開してきた。確か「走り出したら止まらない」がCONVOYの合言葉だが、今回のオダ・ユージも、意外とそんな性格を秘めている。
ある意味典型的なアイドルファン像を見せてくれる「イチゴ娘」を怪演するのは、中山祐一朗。長塚圭史率いる阿佐ヶ谷スパイダースでお馴染みの個性派俳優だ(ちなみに「大人グリコ」CMでは中島君らしき役だったアノ人)。本作でも、物語が佳境に突入するにつれてジワジワ増していく存在感と裏切り感は唯一無比!
2009年の舞台に続いての登板となる彼ら3人に加え、今回新たにキャスティングされたのが、スネーク役の浅利陽介と、安男役の碓井将大。それぞれ87年、91年生まれという若さで、年長組の丁々発止の掛け合いに食らいつく熱演が見どころだろう。
客席には俳優陣の熱いファンと思しき女性の姿も目立ち、いわばファンを演じる男たちをファンが見つめるという不思議な空間も楽しみつつ(?)、場面転換一切なし、ただし物語は二転三転の舞台を堪能。この密室劇に観衆をグイグイ引き込んでいくのは、彼らの息の合った演技合戦と、古沢良太による原作・脚本の見事さか。日本アカデミー賞最優秀脚本賞の『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)とはまたひと味違い、伏線満載、パズルのピースをひとつずつはめ込んでいくようなスリリングな展開で楽しませてくれる。如月ミキの死は自殺ではなかったのか? だとすればなぜ? そして、彼らにとって幸福な「真実」とは何なのか? 意外な結末には、自己愛と他者への愛にゆれる現代人の心理も垣間見える(とかいったら大げさだろうか)。
と、ここまで読んでくれて「結局どーいう話よ?」とお怒りの読者もいるかもですが、劇の構造上それを詳しく書けないのが『キサラギ』の面白さ、とご理解下さい…。映画版をすでに鑑賞済の方々に向けては、ひとつだけ。映画で随所に挿入された回想シーンはまったくなく、それゆえの疾走感が舞台版ならではの魅力と言えるはず。あと、ラストシーンは皆で踊りましょう(おわかりですよね?)。あ、ふたつ言っちゃいました、スミマセン。
『キサラギ』
原作脚本:古沢良太
企画:『キサラギ』プロジェクト総合プロデューサー 野間清恵
演出:板垣恭一
舞台脚本:三枝玄樹
キャスト:
松岡充
今村ねずみ
中山祐一朗
浅利陽介
碓井将大
東京公演
2010年9月24日(金)〜9月30日(木)
会場:東京都 有楽町 シアタークリエ
料金: 8,000円(全席指定)
東京追加公演
2010年10月15日(金)
会場:東京都 有楽町 シアタークリエ
料金: 8,000円(全席指定)
山口公演
2010年10月2日(土)
会場:山口県 周南市文化会館
広島公演
2010年10月3日(日)
会場:広島県 広島アステールプラザ 大ホール
名古屋公演
2010年10月5日(火)
会場:愛知県 名鉄ホール
大阪公演
2010年10月6日(水)、10月7日(木)
会場:大阪府 梅田芸術劇場 シアタードラマシティ
富山公演
2010年10月9日(土)
会場:富山県 富山県民会館
長野公演
2010年10月10日(日)
会場:長野県 長野市民会館
仙台公演
2010年10月12日(火)
会場:宮城県 イズミティ21 大ホール
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