C:なるほど。「フォントに振り回される」とは興味深いですね。では、将来は、どんなフォントを作っていきたいですか?
漫画用のフォントでは、テーマに添ったものをつくった結果、凝ったものになったのですが、私が個人的にいいな、作ってみたいな、と思うのは、「普通」とされる読みやすいスタンダードなフォントです。それから、「かな」に興味があります。「かな」は日本独自のものだし、スタンダードなものでも、1番特徴が出ている文字だと思うので、手がけてみたいです。
C:最近、フォントを特集した雑誌や展示などが注目されているように思いますが、どのように感じますか?
先日、大阪でやっていた『ヘルベチカ展』に行ったのですが、たくさんの人で盛り上がっていました。書籍でも、最近は文字に関する特集も多いですし、タイポグラフィは今ブームなのかもしれません。私たちの世代は写植のことさえ知らない人が多いので、知りたいと思う人が増えているのかな。それでも、実際に文字を作る「タイプフェイスデザイン」まで関心を持つ人は少ないと思うので、こういう機会にもっと盛り上がったら嬉しいです。
C:そうですね。私たちユーザーも文字を楽しむ機会が増えそうです。
今後は、パソコンのモニターに適しているフォントとか、新聞や雑誌、会社などの専用フォントのニーズも増えていくように思います。私たちデザイナーは、これから先に必要とされる分野で文字がどういった使い方をされるのか、考えなければいけません。使われてこその文字を作るのが仕事なので、ニーズに合うものを作りたいです。
C:そういう想いの詰まったフォントを、どんな風に使ってもらいたいですか?
デザイナーとして働いている友人から、以前、「長体(※字の横幅を狭くすること)かけちゃった。怒る?」なんて言われたことがあったのですが、文字は自由に使っていいと思います。長体をかけたほうが文字が活きる場面なら、そう使っていいんじゃないでしょうか。目的に合わせて使ってもらえたらそれでいいと思います。もちろん、フォントの特性を見て、そのフォントが活きる場所に使ってもらえたら嬉しいです。例えば「A1明朝」には、特徴的な墨溜まりがあって、独特な暖かみがあります。それを効果的に美しくアイキャッチに使われていたりすると、いいなと思います。
C:文字の種類でデザインの印象が違って見えますよね。
そうなんです。私も大学でエディトリアルのデザインをした時に、フォントの数で、デザインの幅が限られてしまったと感じました。フォントの種類を変えるだけで、イメージの調整が出来たり、別の表現が可能になったりするんです。文字によって、表現の幅を増やすことができたらいいなと思います。私たちが提案するのもそうだし、求められるものがあるならば、それに応えていきたいです。
C:若きタイプフェイスデザイナーとして、今後の期待が高まりますね。
周囲からは「期待しているよ」と、嬉しい言葉をいただきます。すごく嬉しいのですが、その期待に応えられるまでには時間がかかると思っています。急ぎながら丁寧にやりたいですね。この業界に入ったからには、もうやめたとは言えないし(笑)。難しい仕事だけど、何より面白いから、この先もずっと続けていけたらなって思います。
文字作りはある種の芸術だから
新入社員の3人はデッサン力もあって優秀です。磨けば光る。すごくまじめで熱心です。これからは彼らのような若いメンバーが中心になっていく時代だから、貪欲に色んなことを学んでほしい。デザインだけでなく、社会的にも人間的にも成長をしてほしいです。一見、文字とは関係ないように思いますが、文字を作るのはある種の芸術だと思っています。芸術というのは人間の内面の現れだと思うので、自分自身を成長させて高めていく何かを見つけてほしいと思います。
連載3〜4回を通じて、フォントが完成するまでのフォント職人の努力と、それに込められた想いを知ることができました。次回は、そうして完成したフォントが、実際にどのように使われているのか、マンガを例にしてご紹介します。フォントによって、マンガのセリフがどんな風に違って見えるのでしょうか?
PAGE 1 > 2
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-