私たちの周りに存在するフォントの種類、それを作る人、使う人についてこれまで紹介してきました。人は、遥か昔からこうして文字を使って誰かに情報を伝えています。紀元前の時代に石や木に手書きをされていた文字は、やがて活字で印刷されるようになり、写植時代を経て現在のデジタルフォントへと変化してきました。今回の第8回目と次回の第9回目では、現在のフォントになるまでに文字がどのように形を変えてきたのか、世界にある文字の種類や日本語のはじまりを紹介しながらお伝えしたいと思います。
世界の文字史において、エジプト文字、メソポタミア文字、漢字の文字体系が主流を占めています。文字の起源は紀元前まで遡り、当時は、文字というよりも絵や記号に近いもので、人や木、月などを絵で表して意味を伝えていました。それが、次第に簡略化して現代の形になっていったのです。
象形文字の代表とされるエジプト文字(ヒエログリフ)は、初期メソポタミア文字からの刺激を受けて成立しました。古代地中海やヒッタイトのヒエログリフ風の文字は、エジプト文字の影響のもとに作られたそうです。
初期メソポタミア文字の成立については不明な点が多いのですが、シュメール民族がこの文字を体系化し、楔形文字の原型を作り上げました。そして、シュメール文字は、その文化とともにアッカド人、周辺に住むヒッタイト人、フルリ人などのそれぞれ異なる言語の表記に用いられました。
エジプト文字の影響を受けて成立したシナイ文字・フェニキア文字の単子音表記の方法は、アラム文字を経て生じたヘブライ文字およびアラビア文字に受けつがれて今日に至ります。アラム文字のいくつかの流れは内陸アジアおよびインドに達し、記号などの多様な文字を生み出しました。その後、エルトリア文字を経てラテン文字(ローマ字)が生まれます。近代になって西ヨーロッパ諸国の勢力が強まるとともに世界各地に広まり、スワヒリ語、トルコ語、インドネシア語などの表記にも使われるようになりました。
ユーラシア大陸における最古の文字文化は、その西方に位置するメソポタミアあるいはその周辺で成立したと考えられています。それに対して、その東方に位置する中国で生まれた漢字の誕生については諸説ありますが、西方の文字文化から刺激を受けて生じた可能性は否定できません。漢字体系はいくつかの派生文字を生みつつ、今なお3000年余の生命力を誇っています。
こうして世界各地で発生した文字は、永い年月のなかでテクノロジーやメディアの変化、侵略戦争などの政治的背景を受けて形を変えてきました。現在、世界各国で話されている言語も、そうして変化を遂げたそれぞれの文字で表されています。
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