みんな何でそんなに真面目なのかなぁ? 写真家・ホンマタカシが伝えるへうげ心
インタビュー・テキスト:内田伸一
僕が習ったブラジリアン柔術の先生は、まず最初に「面白い技」を教えてくれた。「受け身は、やってくうちに自然に覚えるから」って。
―今のお話は、先ほどの「茶道」になる前の「茶の湯」の世界で可能性を探ることとも近いものでしょうか?
ホンマ:うん。僕、「道(どう)問題」についてはすごく考えてるんですよ(笑)。というのも、ブラジリアン柔術をやってたことがあって。
―たしか紫帯をお持ちだそうですね。柔術は、柔道をルーツに持つとはいえ「道」ではないもの?
ホンマ:「術」を「道」にした時点から、何事も膠着しがちになると思うんです。古武術の研究家・甲野善紀さんも、剣術について同じような話をしていました。「道」って、誰かがエラくなるためのものというところがあって、つまるところ家元制度ってことですからね。
担当:実は、家元制度も古田織部から始まってるらしいんです(苦笑)。織部が死ぬと、彼のポジションにはやがて剣術家の柳生宗矩が座る。つまり、戦がなくなると今度は「武道」が日常のたしなみになっていく。そのあたりから日本人は「道」の付くものが好きになったのかもしれません。
―ちなみにブラジリアン柔術の世界はどんな感じだったんですか? やっぱり「先生」はいるんですよね。
ホンマ:まず、柔道で入門者が学ぶのは礼儀と「受け身」です。受け身を1か月くらいひたすらやって、その段階で大勢がやめていく。でも僕が習った柔術の先生は、まず最初に「面白い技」を教えてくれた。受け身は、やってくうちに自然に覚えるからって。もちろん経験豊かな指導者が教えていて、教わる側もみんなリスペクトして学びます。なぜかというと、先生はハンパなく強いから(笑)。そんな感じだから僕も続けられたし、最初に妙なふるいのかけ方をしないから、そこで才能あるやつを落としちゃうということも少ないんじゃないかな。
担当:「野球」と「ベースボール」の違いにおいて、語られ続けてきたこととも似てますね。
ホンマ:そうですね。僕、野球もやってたので、そのことについては恨み骨髄です(笑)。小3から始めて、高校の野球部では本気で甲子園を目指してやってました。でもホントに、当時から、その精神論みたいなものにはいつも疑問を感じながらやっていた。
―当時、野球の世界でも「道」的なもののネガティブな面が強かった?
ホンマ:まるで軍隊みたいなね(苦笑)。それについてはこの前、桑田真澄がテレビか何かですごくいいことを言っていて。学生の野球部って、とにかく大声でキャッチボールとかするじゃないですか。「声出せよ!」って。でも桑田は「たとえば針の穴を通すような作業をするときに、『オ゛イオ゛イ〜』なんて大声を出しますか?」って。キャッチボールっていうのは実際それくらい集中すべき行為なのに、見栄で大声だけ出しても一生うまくならないでしょう。
―本質とは関係ないこだわりが障害になる?
ホンマ:でも僕の友達が母校で野球のコーチをしていて、「今はもう体罰もないし、先輩後輩の階級社会みたいのもないよ」と言ってたので、変わってはいるのかな。『砂の栄冠』(三田紀房の高校野球漫画。2010年より『ヤングマガジン』に連載中)などを読んでいても、そういう違いは感じますよ。
担当:これまた『ヤンマガ』の作品、ご愛読ありがとうございます(笑)。昔は練習中に水を飲んじゃいけないとか、一人のピッチャーを連日何百球も投げさせたりとかが普通にありましたよね。その点でも桑田は、ごく若い頃から自分の身体の声を聞いていたというか、進んだ考えの持ち主だったんでしょうね。
ホンマ:彼が最近のインタビューで答えてたのは、春の選抜(高等学校野球大会)の後に、2か月間くらい「肘が痛い」って嘘をついて2か月ぐらい投げなかったことがあるとかで。周りから見たら「ずる賢い奴だな」って思われたかもしれないけど(笑)、高校野球がいわば全体主義的だったあの時代に、それを実行できたのはすごい。
何かを妄信的に尊敬して、その人の言うことを全て信じる、みたいなことはもうしたくない。今自分がやってることは、その反動とも言えます。
―えーと……野球談義が尽きないところ申し訳ないんですが、このへんで「へうげ」に戻ってもよろしいでしょうか(汗)。
ホンマ:おっと。
担当:すみません(苦笑)。でも、『へうげもの』作者も、自分がいる「漫画」の世界自体に懐疑的なところがあって、逆にそこが強みかとも思うんです。
ホンマ:また話が戻っちゃうけど(苦笑)、僕は野球でのトラウマもあって、何かを妄信的に尊敬して、その人の言うことは全て信じる、みたいなことはもうしたくないんですよね。まあ球児の頃だって、心から信じてたわけじゃないけど、伝統や全体の雰囲気みたいなものに、抗えないところがありました。今自分がやってることは、その反動とも言えますね。
―言い換えるとそれは、多数派が信じるものに対し「こういう窓も開いてますよ」と示すことなのかなと。現在、東京造形大学大学院の客員教授を務めてらっしゃるとのことですが、どんな講義なんでしょうか。
ホンマ:この授業も「New Documentary」と題して、オルタナティブな映画や関連写真をみせながら、こういうアプローチもあるんだよ? というのを主にやっています。たとえばジャン=リュック・ゴダール監督の『ワン・プラス・ワン』(The Rolling Stonesのレコーディングのドキュメンタリーと、社会運動に関するフィクション映像を交差させた作品)と、ペドロ・コスタ監督の『何も変えてはならない』(女優・ジャンヌ・バリバールの歌手活動を厳格なカメラワークで5年にわたり記録した作品)を観て、同じ音楽関連ドキュメンタリーでもこんなに違いがあるのかというのを確かめたり。僕が思うことを伝えるよりも、そこから各々が考えてほしいなと。
―織部には利休という師がいたわけですが、利休のものづくりにおける「用と美」のバランスが「渡り六分、景四分」(用が6割、美が4割)だったのに対し、織部はそれを自分流に「渡り四分、景六分」へと変えてしまう。そういう師弟関係もまた面白いですよね。
イベント情報
ホンマタカシ参加展覧会
『拡張するファッション』
2014年2月22日(土)~5月18日(日)
会場:茨城県 水戸芸術館現代美術ギャラリー
時間:9:30~18:00(入場時間は17:30まで)
出展作家:
ホンマタカシ
ミランダ・ジュライ
青木陵子
長島有里枝
スーザン・チャンチオロ
COSMIC WONDER
BLESS/小金沢健人
横尾香央留
神田恵介×浅田政志
パスカル・ガテン
FORM ON WORDS
休館日:月曜(ただし5月5日は開館)
料金:一般800円
※中学生以下、65歳以上・障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料
「モーニングはみだし3兄弟@CINRA出張所」の特設サイトでも、
『モーニング』関連作品を連載中。
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