古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(前編)
インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:田中一人
何もなかった世代だからこそ、システムが自分たちを守らなかったことをわかっているし、だったら「若い力で変えよう!」とポジティブに思えたらいいなって。(後藤)
―アジカンは昨年のツアーで1曲目にBECKの“LOSER”をカバーしていましたよね? さっき「ロスト」という話もありましたが、あれは世代的な意味でもすごく象徴的な選曲だと思いました。
後藤:あれは90年代にアメリカの若者が「俺たちは負け犬だ」って宣言してるような歌ですけど、俺たちは俺たちの負け犬感をもう一度鳴らさないといけないと思ったんです。そこからじゃないと始まらないんじゃないかと思って、音楽だけを引用させてもらって、歌詞は僕が日本について書き直したんです。
古川:スタート地点で「ルーズ」というのは重要な気がしますね。「失う」ことと「負ける」ことは違って、「失う」というのは、生まれながらにして「奪われてる」っていうことです。それに、「ロストジェネレーション」というと、まるでその前のバブル期は幸せだった風だけど、あの時代は気が狂ってたと思うし、そうじゃないとそれこそオウムとかにならない。そういうことにみんな気づいてないから、今回みたいな小説を書くことによって、上から押し付けられてる「ロスト」はなくなるんじゃないかと思ったんです。「君らは何も奪われていない」ということは、上の方から言わないとまずいですよね。
後藤:何もなかった世代だからこそ、「ちょっと待てよ、これはチャンスなんじゃないか?」って僕は思うんですよね。すでに建っている建物を壊して、造り直すのはとても難しいけど、ここは更地だって思えば、なんだって建てられるでしょうっていう。何も恩恵を受けてこなかったからこそ、システムが自分たちを守らなかったことを知っているし、この先も守ってくれるとは限らないこともわかっている。だったら「若い力で変えよう!」とポジティブに考えられたらいいなって。
―僕も後藤さんと近い世代なので、その感覚はすごくしっくりきます。
後藤:そういう「新しい価値観をもう一度考えようよ」っていう想いが『THE FUTURE TIMES』にもつながっていて。ただ、まったく新しいものを作り上げるんじゃなくて、例えば、昔からずっと鳴ってきているいい音や、紡がれてきてるいい言葉を選んで、編集していく力が必要だと思っています。だから、今「編集力」が問われている気がするんですよね。そして、俺たちがいいリスナーだったり、いい読者であることは、いいものを作ることと同じくらい価値があると思う。夏目漱石の作品はすごいと思うけど、夏目漱石をすごいと言って読みつないできた人こそすごいと思うんです。そういうことをもう少しアピールできたらなって。音楽の未来を担保しているのは、すごい作り手でもあるかもしれないけど、実はリスナーそのものなんだっていう。
古川:街を歩いてるだけで耳に入ってくる音楽に対して、「それでも音楽の未来を作ってるのはリスナーだ」って言える作り手は、すごいと思いますよ。音楽に対して小説の方が弱いなって思うのは、本は自分で読まないと読めない点なんです。それを覆そうと思って、読み聞かせるために朗読したりするんですけどね。
後藤:でも、一方で僕が羨ましいのは、書籍ってアーカイブのされ方が確立してるから、強いんですよね。書きつけて紙に刷ったらなかなか消えないじゃないですか。音楽ってその辺がすごくあやふやで、デジタル配信のおかげで変わってくるかもしれないけど、廃盤になることもあるし、200年生き抜くイメージが湧かないんですよね。バッハやベートーベンになれるかといったらなれないし、さらにさかのぼって行くと、グレゴリオ聖歌以前の楽譜は正確に読むことができないので、1000年残ってる楽曲ってほとんどないんです。
古川:そう考えると、俺いつも『源氏物語』すごいなって思いますよ。
後藤:そうなんですよ。残すということを考えると、やっぱり文字を書きつける歴史の方が楽譜やレコードよりも長いし、ちゃんと残ってる。
古川:ただ、クラシック音楽が残ったのは楽譜が出版されていたからで、今みたいに音そのものの記録ではないじゃないですか? 『ランドマーク』で後藤という人間が歌っている声の質は楽譜には決して落とし込めない。今の俺たちは、楽譜的な骨格の部分と、それを実際どう演奏するかというテクスチャーの部分、両方残せるからこそ、過去の表現者が直面してない難しいところにいる気がする。同時代的には、そのテクスチャーがリスナーをハグするものだと思うんです。小説にも文体の部分でテクスチャーがあって、そこが読者をハグするんだなって思います。
後藤:そうですよね。小説を読むときは、文体とか、その人の言葉使い、リズム、句読点のありようとか、そういうところでまずは入っていきますね。
―古川さんの文体は本当に古川さんならではというか、独特のリズムがありますよね。
古川:それはそれでいろいろ問題もあるんですよ(笑)。そのリズムが合わない人ももちろんいますから。言葉には当然リズムがあるわけで、小説にもリズムがあるんですけど、小説にリズムがあるってあんまり言われてなかったんです。そこを言わないで近代の日本文学があること自体、ちょっと死角があるというか、盲点だと思っていたので、僕は全面にリズムを出したんですよね。
『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』
CINRA.STOREで『南無ロックンロール二十一部経』をご購入いただいた方を抽選で『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』にご招待致します。
2013年7月21日(日)17:30スタート予定
会場:東京都 青山 某所
定員:100名(当選者のみ入場可、座席有・自由席)
料金:入場無料(2ドリンク制)
※ご入場時にドリンク代(1,000円)をいただきます
『南無ロックンロール二十一部経』刊行記念『古川日出男×柴田元幸トークショー』
2013年5月16日(木)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 東京堂神田神保町店6階東京堂ホール
ASIAN KUNG-FU GENERATION
『ランドマーク』通常盤(CD)
2012年9月12日発売
価格:3,059円(税込)
KSCL-2122
1. All right part2
2. N2
3. 1.2.3.4.5.6. Baby
4. AとZ
5. 大洋航路
6. バイシクルレース
7. それでは、また明日
8. 1980
9. マシンガンと形容詞
10. レールロード
11. 踵で愛を打ち鳴らせ
12. アネモネの咲く春に
V.A.
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2013』(CD)
2013年6月5日発売
価格:2,520円(税込)
KSCL-2246
Gotch
『The Long Goodbye』(アナログ7inch)
2013年4月20日発売
価格:1,000円(税込)
ODEP-003
1. The Long Goodbye
2. The Long Goodbye (P's O-parts Remix)Remixed by PUNPEE
※ダウンロードコード付き
The Long Goodbye / 後藤正文 | only in dreams
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN CIRCUIT 2013』
2013年6月14日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月15日(土)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月17日(月)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:愛媛県 松山市総合コミュニティセンター
2013年6月19日(水)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:熊本県 熊本 DRUM Be-9 V1
2013年6月24日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:新潟県 新潟 LOTS
2013年6月26日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 Rensa
2013年6月28日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 水道橋 TOKYO DOME CITY HALL
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『ファン感謝祭』
2013年9月14日(土)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『オールスター感謝祭』
2013年9月15日(日)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
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