古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(後編)
長編小説『南無ロックンロール二十一部経』(以下、『南無』)を完成させた古川日出男と、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文による対談の後編をお届けする。前編では『南無』自体の話はもちろん、震災後の表現から世代論に至るさまざまな興味深い話題が飛び交ったが、今回は後藤が編集長を務める『THE FUTURE TIMES』の話から、「時代を超えて残る作品」について、そして、表現をすることの本質をめぐる議論へと、対話はさらにヒートアップしていく。7月21日には都内某所にてこの二人によるトーク&ライブセッションも決定。こちらもぜひ、楽しみにしていただきたい。
古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(前編)
CINRA.STOREで『南無ロックンロール二十一部経』をご購入いただいた方を抽選で『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』にご招待致します。
インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:田中一人
- 古川日出男
- 1966年福島県生まれ。98年、日本人少年のアフリカ大陸での色彩探求譚『13』で作家デビューし、2001年発表の『アラビアの夜の種族』がジャンル越境型の奇書として読書界の話題を集める。06年、『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞。その他の著書に軍用犬の視点から二十世紀の戦争史を描いた『ベルカ、吠えないのか?』、東北六県の700年間の歴史を徹底した文学的ハイブリディティで浮き彫りにする大著『聖家族』、東日本大震災直後の福島での旅が綴られる『馬たちよ、それでも光は無垢で』等がある。朗読活動も積極的に行ない、現在は管啓次郎、小島ケイタニーラブ、柴田元幸と朗読劇『銀河鉄道の夜』を制作し国内各地で上演する。
古川日出男|著者|河出書房新社
- 後藤正文
- ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、楽曲全ての作詞とほとんどの作曲を手がける。これまでにKi/oon Music (SONY)から7枚のオリジナル・アルバムを発表。2010年にはレーベル「only in dreams」を発足させ、webサイトも同時に開設。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞「THE FUTURE TIMES」を編集長として発行するなど、 音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目される。Twitterフォロワー数は現在223,000人を超える。
ASIAN KUNG-FU GENERATION オフィシャルサイト
only in dreams
TheFutureTimes
ドキュメンタリーみたいな言葉は命がけでいくらでも書きつけられるんだけど、物語は書けなかった。(古川)
―『南無ロックンロール二十一部経』や『ランドマーク』が、作品として完成に至るまでは決して容易い道のりではなかったと思います。震災の直後はどんなことを考え、どのように表現と向き合ったのかを振り返っていただけますか?
後藤:僕はある種、躁のようなスイッチが入ったので、曲やメロディーはとにかく書けたんですけど、そこに言葉がついてこなくて。1年ぐらい経って、やっとポツリポツリと詞になっていったんですけど、ヴァースは書けても、コーラスが書けなかったりしました。ヴァースは立ち上がりなのでスッとした流れで曲の中に入って書くことができるんですけど、コーラスって繰り返し歌われるフレーズなので、やっぱり俯瞰しないといけないって思っちゃうんですね。
古川:みんなに共有されるものですしね。
後藤:そうなんですよ。しかも、最後に歌われて、それが結びになったりもするので、そこで手を抜いちゃうと、ポップミュージックじゃなくなってしまうというか、作品としてのクオリティーが下がってしまう。けじめなんですよね、そこは。
古川:そのポップさって、小説に置き換えるとエンターテイメント性だと思うんですけど、小説のエンターテイメント性って、だいたい物語に寄り添ってるんですよ。でも、そのポップさを担う物語は、震災直後には書けない。言葉自体は浮かぶんです。現実を映すドキュメンタリーみたいな言葉は命がけでいくらでも書きつけられるんだけど、物語は書けなかった。なので、物語を取り戻すまでが大事でしたね。
左から:古川日出男、後藤正文
後藤:物語はなかなか出てこないですよね。最後にどうフィクションとしての希望を乗せるか、そこが追いついてこなかった。「僕はこれだけ戸惑ってます」って歌はすぐ作れたんですよ。"砂の上"とか"ひかり"はホントにドキュメントに近くて、何とか振り絞って「それでも大丈夫だ」みたいな、必死のオールライトを乗せてはいたんですけど、それが精一杯みたいな。
古川:あの時期っていうのは、ドキュメントを超えたことをやると、「あなたは現場にいないくせに」みたいな雰囲気だったと思うんです。“砂の上”はベッドの上で書いたと言ってたけど、今ここで同じ揺れる大地にいた自分が奏でられるギリギリの希望みたいな、あのときはそういうものしか意味がなかった。そこから時間が経って、やっと物語が、覚悟を決めて取り組む対象になった気がしますね。
後藤:音楽の場合、ドキュメントする人がいなかったんです。「それはポップミュージックじゃないだろ」ってことだと思うんですけど、僕は直感的に「ドキュメントを歌っておかないとダメだ」と思ったんですよね。日本のロックって、ずっと「リアリティーが大切だ」って言ったり言われたりしてきたのに、ああいうことが起きたときにリアリティーを歌おうとしたら「不謹慎だ」って言われてしまって。めちゃくちゃだなって思いました。
時代の歌として残るものは、リアルの先を見ているものだけで、そこを考えないとホントのクラシックとか古典は生まれないような気がしますね。(古川)
古川:僕は当時『馬たちよ、それでも光は無垢で』という小説を書いたんだけど、今になると「古川が一番最初に(震災を)書いた」って言ってくれる人たちが出てきて。あれはドキュメントみたいな文章が、途中から小説になるというもので、自己回復のためにやってたんですけど、他にドキュメントしようとする小説家はいなかった。あの瞬間に、頭で考えるんじゃなくて、体で反応したっていうのは、後藤さんと似てると思います。
後藤:僕も近いものがあって、"砂の上"とか"ひかり"とかは、自分を回復させるための表現だったなってすごく思いますね。
古川:ちょっとでも自分を回復させられない人間には、「君ら回復するよ」なんて言えないですよね。「嘘つけ」ってことになっちゃうから。だからまずはそこを試していかないといけないと思ったし、少しだけでも自分を回復させられたことで、人に自分の表現をお見せする資格が最低限はあるのかなって思えました。
―ドキュメントでありながら、同時にポップでなければならいというのは非常に難しいことだと思います。それでもやはりドキュメントしようとする意思は、どこから生まれてくるんでしょうか?
後藤:やっぱり、今の時代を射抜きたいという想いは強いですね。だから自分のやってることが何か叙事的な要素を持っていたいとは思うんです。でも、それはリアルに今あることを書き留めてドキュメントすることではなくて、どこかに自分の想像力を足して、新しい何かとして作り上げることだっていうのは、震災のあとにすごく強く実感しましたね。今も「リアル」とか言ってる同業者がいたとしたら、もう用はないというか。
古川:時代の歌、時代の小説ってあるかもしれないけど、結局後の時代にも残るものは、その時代をはみ出してる要素があるんですよね。完全に時代の歌になってしまったら、消費されて終わりじゃないですか? メガヒットだったけど、10歳下は聴いたことがないといったことになる。時代の歌として残るものは、リアルの先を見ているものだけで、そこを考えないとホントのクラシックとか古典は生まれないような気がしますね。
『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』
CINRA.STOREで『南無ロックンロール二十一部経』をご購入いただいた方を抽選で『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』にご招待致します。
2013年7月21日(日)17:30スタート予定
会場:東京都 青山 某所
定員:100名(当選者のみ入場可、座席有・自由席)
料金:入場無料(2ドリンク制)
※ご入場時にドリンク代(1,000円)をいただきます
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『南無ロックンロール二十一部経』刊行記念『古川日出男×柴田元幸トークショー』
2013年5月16日(木)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 東京堂神田神保町店6階東京堂ホール
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
『ランドマーク』通常盤(CD)
2012年9月12日発売
価格:3,059円(税込)
KSCL-2122
1. All right part2
2. N2
3. 1.2.3.4.5.6. Baby
4. AとZ
5. 大洋航路
6. バイシクルレース
7. それでは、また明日
8. 1980
9. マシンガンと形容詞
10. レールロード
11. 踵で愛を打ち鳴らせ
12. アネモネの咲く春に
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V.A.
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2013』(CD)
2013年6月5日発売
価格:2,520円(税込)
KSCL-2246
1. Loser / ASIAN KUNG-FU GENERATION
2. マイ・ロスト・シティー / cero
3. 適当な闇 / the chef cooks me
4. レインボー / Dr.DOWNER
5. 花束 / 岩崎愛
6. STARS / NOWEARMAN
7. 石川町ファイヤー / PHONO TONES
8. Rapid Reality / RADICAL DADS
9. There's A Change / Sara Radle(ex.The Rentals)
10. SUNNY / シャムキャッツ
11. ストーリー / スカート
12. beautiful world / SPECIAL OTHERS
13. BRAND NEW EVERYTHING / ストレイテナー
14. Misleading Interpretations / Turntable Films
15. WORDS KILL PEOPLE(COTODAMA THE KILLER) / うみのて
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Gotch
『The Long Goodbye』(アナログ7inch)
2013年4月20日発売
価格:1,000円(税込)
ODEP-003
1. The Long Goodbye
2. The Long Goodbye (P's O-parts Remix)Remixed by PUNPEE
※ダウンロードコード付き
The Long Goodbye / 後藤正文 | only in dreams
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN CIRCUIT 2013』
2013年6月14日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月15日(土)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月17日(月)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:愛媛県 松山市総合コミュニティセンター
2013年6月19日(水)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:熊本県 熊本 DRUM Be-9 V1
2013年6月24日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:新潟県 新潟 LOTS
2013年6月26日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 Rensa
2013年6月28日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 水道橋 TOKYO DOME CITY HALL
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『ファン感謝祭』
2013年9月14日(土)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『オールスター感謝祭』
2013年9月15日(日)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
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