古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(後編)
インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:田中一人
『THE FUTURE TIMES』は、社会全体として収穫されればいいなっていうぐらいの気持ちでやってます。(後藤)
―「編集する力」というのがひとつのキーワードとして挙がっていますが、実際『南無』を編集していくにあたって、どんなことをポイントに置いていましたか?
古川:震災のあとは、『南無』ですら書くのが嫌だった時期があったんです。それまで「このパートはこういう文体で、こういう構造で、何枚ぐらいで」って決まっていたものが崩れてしまった。それで、もうこれしか書けないと思って、「私は馬頭人身です」という短い変な文体を入れてみたら、ガチガチの構造だったのがそこを中心にグニュッとなって、はみ出してこぼれたものが他のパートを包んでくれたりして。自分が壊されて、その状況に忠実になるしかないと思ったら、作品をモンスターに変えてくれる可能性になった。その瞬間を直視して、それを肯定的に受け止めたっていうのが一番大きかったと思います。
―自分からポイントを置いてやったというよりも、結果的にそうなったと。それこそ、脊髄反射じゃないですけど。
古川:ホントに脊髄反射ですよ。あの時期はそれしかできなかったんです。そのとき後藤さんだったら、音楽史の本を読んでいたから「新聞」っていうキーワードが浮かんでしょうけど、僕の場合は村上春樹さんが『アンダーグラウンド』(1997年に刊行。村上春樹が地下鉄サリン事件を追ったノンフィクション作品)を書いてて、「お前はどうするんだ?」って言われていたようなことに対して、僕は別に公の場所でマスに発言なんかしたくもないし、できる立場でもないから、地を這ってみるっていう結論だったんです。
後藤:『アンダーグラウンド』は「新聞」のひとつのヒントでもあったんです。
古川:ああ、人々の声の集積。
後藤:はい、あれを読んで、村上春樹ほどの作家がそれをやっているってすごいなって。
―『THE FUTURE TIMES』は今のところ4号まで出ていて、先日は増刊号も出ましたが、受け止められ方をどのように感じていますか?
後藤:届けたいところには届き始めてると思うんですけど、やっぱり難しいところもあって、特にチェーン店で配るのが難しいですね。そこの店に意識の高い人がいたら積極的に配布してくれるんですけど、どこかのモールの中に入ってるようなチェーン店のひとつだったら、封も開けられずに捨てられてる可能性もあると思います。簡単ではないですよ、タダですからね。店舗側からしたら一銭にもならないし、むしろ余計な労力を要求されているわけです。でも、この一銭にもならない感覚からじゃないと始まらない気がして。
―それは「ネット以降の感覚」と言えるかもしれないですね。
後藤:まったく音楽とは関係ない喫茶店だったり、有機野菜を売ってる店とか、協力してくれるところはどんどん増えています。さらに店の主人がその地域のいろんな店に分けて置いてくれたりして、それで新しいコミュニティーが生まれてくれたらいいなって。あと、自分が爺さんになったときに「私はあれを読んでこういう大学に行こうと思ったんです」というような人たちが現れて、社会全体として収穫されればいいなっていうぐらいの気持ちでやってます。まあ、10人ぐらいそういう人が出てきてくれれば。
古川:謙虚ですね(笑)。
後藤:あとはいつか本にして、図書館に突っ込まないといけないと思っています。ネットだけに詰めておくのはどうしても埋もれちゃうというか。
古川:ネットがアーカイブとして機能するかは、50年経たないとわからないですよね。
後藤:そうなんです。ただ、書籍の残り方には可能性を感じてて、瞬間冷凍みたいな、パッケージしておける強さがあるというか。それはCDやアナログレコードにもあるとは思うんですけど、不幸にもプレイヤーと電気がないと聴けない。本は人さえいれば読めますからね。
僕が僕のことを売らないといけないのは、この本が誰かに読まれるため。届けたいのは僕じゃない、僕の本を届けるんだっていう。(古川)
―「音楽」っていうことで言えば、人さえいれば奏でられるけど、「録音物」っていう意味では、ツールを必要としますもんね。
後藤:録音物の歴史なんて、たかだか100年とかですからね。でも音楽って、そもそも僕が何を歌っているかというより、歌い継がれていくフィーリングみたいなものの方が大事な気がして。そう考えたら、少なくとも4万年ぐらいは音楽って何らかの形であったはずなんですよね。
―古川さんで言えば、アーカイブとしては強いけど、即時性は弱い書籍というものを、どうやってその場で鳴らすかという意味で、朗読をやられているわけですよね。
古川:そうですね。『南無』みたいに原稿用紙1,000枚書くようなこともやりますけど、10分聞いてれば20ページ分くらいわかるみたいなことも同時にやっていかないと、表現者はどっかで罠に落ちるような気がするんです。「自分の持ってないものは何なのか」って常に考えることによって、もともと持ってる表現も強靭になっていく。その視点がない人は、今に適応することだけを考えて、それこそ「今売れりゃあいい」みたいになってしまう。でも、それではむなしいというか。受け止めてくれる読者だったり、アジカンだったらライブをすれば目の前にすごい数の人がいるわけで、せっかくその人たちからエネルギーをもらってるんだから、もっと遠く、未知の場所まで行こうって思えるんだと思うんです。
後藤:ひとつのことだけをしていてはいけない感じはありますね。最初はロックミュージシャンであることに求道的で、それで深まっていくとは思うんですけど、ひとつのところだけに寄りかかっていくと、だんだん「僕はロックミュージシャンなので」っていう逆転が起こるんです。
古川:ストイシズムは諸刃の剣ですよね。極限まで突き詰めたこともあるけど、読者すら切ってしまうようなところに行っちゃうと意味がない。ストイックな部分も欲しいけど、ポップフィールドに身を置くような気持ちというか、小説家をやってる自分もそういう気持ちが欲しいなって思います。
後藤:逃れられないですからね。聴く人がいる、読む人がいるっていうところは。
古川:ミュージシャンとか小説家をやってると、傍から見ると売りたいものが自分じゃないですか? でも、ホントは売り物は音楽だったり小説だったりするわけで、そこを勘違いしないことが大事な気がするんです。僕が僕のことを売らないといけないのは、この本が誰かに読まれるためだって。ゴールが自分の人もいますよ。「ああ、注目されたいのは自分ね」って人もいて、もしかしたら、それが大方の人の性なのかもしれないけど、届けたいのは僕じゃない、僕の本を届けるんだっていう。
後藤:それは全く同意ですね。ホントにそう思います。でも、自分語りが好きな人は多いですよね(笑)。
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僕すごく欲張りなんで、「評価されないわけがない」って思っちゃうんですよ(笑)。「ちゃんと種は蒔いたはずなのに、何でなんだろう?」って思うと、「あ、そもそも土がなかったんだ」って思って。(後藤)
『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』
CINRA.STOREで『南無ロックンロール二十一部経』をご購入いただいた方を抽選で『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』にご招待致します。
2013年7月21日(日)17:30スタート予定
会場:東京都 青山 某所
定員:100名(当選者のみ入場可、座席有・自由席)
料金:入場無料(2ドリンク制)
※ご入場時にドリンク代(1,000円)をいただきます
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『南無ロックンロール二十一部経』刊行記念『古川日出男×柴田元幸トークショー』
2013年5月16日(木)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 東京堂神田神保町店6階東京堂ホール
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
『ランドマーク』通常盤(CD)
2012年9月12日発売
価格:3,059円(税込)
KSCL-2122
1. All right part2
2. N2
3. 1.2.3.4.5.6. Baby
4. AとZ
5. 大洋航路
6. バイシクルレース
7. それでは、また明日
8. 1980
9. マシンガンと形容詞
10. レールロード
11. 踵で愛を打ち鳴らせ
12. アネモネの咲く春に
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V.A.
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2013』(CD)
2013年6月5日発売
価格:2,520円(税込)
KSCL-2246
1. Loser / ASIAN KUNG-FU GENERATION
2. マイ・ロスト・シティー / cero
3. 適当な闇 / the chef cooks me
4. レインボー / Dr.DOWNER
5. 花束 / 岩崎愛
6. STARS / NOWEARMAN
7. 石川町ファイヤー / PHONO TONES
8. Rapid Reality / RADICAL DADS
9. There's A Change / Sara Radle(ex.The Rentals)
10. SUNNY / シャムキャッツ
11. ストーリー / スカート
12. beautiful world / SPECIAL OTHERS
13. BRAND NEW EVERYTHING / ストレイテナー
14. Misleading Interpretations / Turntable Films
15. WORDS KILL PEOPLE(COTODAMA THE KILLER) / うみのて
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Gotch
『The Long Goodbye』(アナログ7inch)
2013年4月20日発売
価格:1,000円(税込)
ODEP-003
1. The Long Goodbye
2. The Long Goodbye (P's O-parts Remix)Remixed by PUNPEE
※ダウンロードコード付き
The Long Goodbye / 後藤正文 | only in dreams
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN CIRCUIT 2013』
2013年6月14日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月15日(土)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール
2013年6月17日(月)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:愛媛県 松山市総合コミュニティセンター
2013年6月19日(水)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:熊本県 熊本 DRUM Be-9 V1
2013年6月24日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:新潟県 新潟 LOTS
2013年6月26日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 Rensa
2013年6月28日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 水道橋 TOKYO DOME CITY HALL
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『ファン感謝祭』
2013年9月14日(土)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『オールスター感謝祭』
2013年9月15日(日)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム
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