「人間になりたい」。そんなことを大真面目に考えている女の子がいる。
この連載の主人公でもある彼女、新津由衣は、18歳の頃から活動を続けたボーカルユニット「RYTHEM」を昨年2月に解散し、その後すぐにソロプロジェクト「Neat's」をスタートさせた。それまで拠点としていたメジャーのフィールドから一転して、現在は、音源制作からプロモーション(それは、例えば地道な挨拶回りであったり)、果てにはHPでのアルバム販売、発送といった細かな作業まで、自分でできることはすべて自分でやってのける、まさに「DIY」な活動を行っている。
第1話にも書いたことだが、10代からメジャーで活動を行うという華々しい経歴や、誰が見ても「かわいい」と言うであろうそのルックス、作詞作曲を自分で手がける才覚などなど、同い年の私からしてみれば「羨ましい」というのもはばかられるくらい「別世界」の住人に思えたNeat's。そんな彼女が、「DIY」という言葉の下、自分に近しいフィールドに降りてくることを最初は疎ましく思ったのも事実だった。
そういう状況からスタートした彼女との付き合いも、気がつけばもう半年になる。その間に幾度かの取材を行い、彼女のことも少しは分かるようになった。まず意外だったのは、彼女が大きな孤独を抱えていたことだ。子供のころからそんな孤独を恐れるあまり、自分を守るために「鎧」をまとうことに慣れてしまった彼女は、他者からの「否定」を避けるため、自分を正当化するような理論を発想し、身を守ってきた。自分にとってネガティブな物事を、無理矢理ポジティブな方向へ解釈して生きてきたのだ。
Neat's: 逃げたくなるし、放棄したくなるし、捨てたくなるけど、でも、今私が思ってる疎外感とか、陰な部分を隠さずに生きていけたら、すごく素敵だと思うんです。
自分のすべてを曝け出せるようになりたい。最初の取材で新津は、自分で自分を歪めていることに気がつき、涙を流しながら「変わりたい」と言った。そんな願いが、Neat'sの言うところの「人間になりたい」だった。そして、メジャーの舞台から離れて、1人で始めた「Neat's」プロジェクトというのは、自分が「変わる」ために自ら作り出した舞台でもあったのだ。
これは誰しもが知っていることだと思うけれど、変わろうと思っても、人はそう簡単に変わることはできない。今の毎日に不満があったって、ものすごいエネルギーを使って、苦痛が伴うかもしれない変化をわざわざ目指さなくても、自分にとってラクな生き方というのはある程度は身に付いている。だから私は、Neat'sの涙を見た後でも、彼女みたいに羨ましいくらい出来上がった存在がわざわざ変わる必要があるのか疑問だった。
それでもNeat'sは、頑張ることを止めようとはしなかった。関西のラジオ局に1人で行って、右も左もわからぬまま挨拶をして回ったり、毎日自分で動画を撮って、それをYouTubeにアップしていったり、自分でPVを監督してみたり。Ustreamを使った生放送も、これまでは用意されていたレコーディングの諸々も、全て自分で整える。どれもこれも、自分でやったことの無いことばかり。新幹線のチケットを買う術も、ホテルを押さえる術も知らず、大切なレコーディング・データを消してしまったことも一度や二度ではなかったらしい。商品の発送においても宅配業者との幾度と無い折衝を繰り返して、ようやく販売にこぎつけた。
プロジェクトのスタートと共に、新しいことにトライをして、当たり前のように失敗を繰り返す毎日。その頃のことを振り返ってもらうと、「やっぱりいつも不安だった」と言う。それでもプロジェクトを止めようとはせず、失敗を厭わずにここまで突き進めたほど、Neat'sの「変わりたい」という想いは本気だったのだ。
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