- 其の四 あるアパレル系勤務女性との対話
前回の末尾に記したが、この論のきっかけはある女性読者から「フジワラノリ化」論で倉木麻衣を取り上げて欲しいというメールが来たことに端を発する。アパレル系に勤務する彼女と何度かメールをやりとりする中で、彼女と押切もえとその周辺について話を交わしてみるのは、「押切論」の現在を露出させるために有効ではないかと思い立った。案の定、膨らみのある議論が交わすことが出来た。「日経エンタテインメント!」にもこれくらいの分析力が欲しい。現場は、冷静だ。そして、冷酷なのだ。
武田(以下、T):今回、「是非、フジワラノリ化論を倉木麻衣で書いてください」とメールを貰ったわけですが、なぜそう思ったんですか? アパレル業界で働いていらっしゃるとの事ですが、女性誌にいきなり登場してきた彼女への反応ってやっぱり厳しかったんでしょうか?
アパレル系勤務K田さん(以下:K):倉木麻衣って、そもそも女子から反応が無いんですよね。彼女は同性の誰からも支持されている感じがしないのに、スッと女性ファッション誌や美容雑誌の表紙になりました。アパレル勤務なので周りに女性誌が沢山あるのですが、周りの女子たちがどんなに回し読みしても、彼女が表紙の雑誌から「なんで倉木麻衣」感が拭われる事はありません。正確に言うと、まず「コレ誰?」の声が飛び交い、その後で「倉木麻衣だって…」と誰かが言う。その後の反応は、一切ありません。でも急に表紙&巻頭インタビューとなったわけですから、一応パラッとは読むのですが、この人、とにかく今っぽくないので、違和感があるんですね。その違和感を周りの皆の前で口に出すと、ランチ中の女子達の反応は100%同意。「ほんと。なんでだろう。」と。むしろ、「あの人は今」みたいな感覚に近いものでした。その話の延長で、この間、「もし彼氏が倉木麻衣ファンだったらひくよね。もしかしたら別れるかもしれない。」という話を友達としました。そう考えると、彼女は女性誌に乗り込こんだ結果、これまでの無反応を悪化させて「なんかよくわかんないけどキライ」という女子票を集め始めてしまったのかもしれません。
T:早速、押切もえの議論に移っていくと、男子目線としては、押切もえはとにかく女子に評価されている、という確信があるわけです。逆に言うと、「もえちゃんかわいいよね」って色めき立つ男子ってそんなにいないんですね。さて、“念のため”聞いておきますが、押切もえは本当に女子には人気があるんですよね?
K:これは、人気、あります。多分。私の周りの女子には「押切もえは魚顔」として認識されているので具体的な手応えはないのですが、エステで働いている友達に聞いたら、ちょこちょこお客さんの中に押切好きがいるみたいなんです。具体的には「キレイ」「美脚」等が理由に挙げられます。私が思うに彼女のキレイを支えるのが、「元ガングロコギャルで事故って顔面崩壊。でも私乗り越えたいくつもの困難」なのではないかと思います。薄っぺらい話ですが、思考停止したOLさんには十分な素材なのではないかと。だって、彼女たちは、本気で「恋空」に感動していますからね。「元ガングロコギャルで事故って顔面崩壊」なのにこのクオリティという、カワイソウベースがあってこその支持なのではないかと思うのです。女子は、押切もえが本当は魚顔だということにもうすうす気づいているはずなんですが……。
T:押切もえには常にエビちゃんとの比較があったわけですが、その比較を女子はどのように体感したのでしょうか?
K:可愛いだけでおなかいっぱいになれるエビちゃんが、もえちゃんのとなりで幸せそうにしているだけで、もえちゃんのカワイソウベースは尚根強いものとなり、彼女の固定ファンも余計に「もえちゃんもえちゃん」になってきた。可愛いだけのエビちゃんとは違い、もえちゃんには「中身」があると。だからエビちゃんが自身のビジュアルを最大限に打ち出した本を出すのに対して、魚顔のもえちゃんはメッセージ性の強い本を出すのです。繰り返しになりますが、そんな押切もえのことを、私の周りの女子達は、「最近しゃしゃってるな魚顔」と思っています。彼女が太宰の話なんてしてこようものなら、揃って苦笑いの心構えです。押切もえにはいつも比較される何者かが必要なように思えます。
「Popteen」時代には福永花子というギャルといつも一緒でした。福永花子がどれほどのものだったかはいまいち覚えていませんが、「花子は好きじゃない=もえ好き」「エビちゃんは好きじゃない=もえ好き」というような、「アンチ王道!」の臭いが押切もえにはあるんです。先ほどのエステで働く友人は「押切もえ好きはちょっと変」と言うのですが、「もえ好き」という嗜好は、みんなとは違う個性的な私をアピールするための手立てになっているからではないかと思うんですね。魚顔認識の私たちとしては、「そんな押切もえを男子は好きなんだ」という認識があるんですが、違うんですかね?
T:男子目線としての「きれい」「かわいい」をそのままぶつけると、「そうでもない」んですよね。やはり、女性誌という男子禁制の空間で愛でられているという前提が根強い。その空間から身を乗り出して手でハートマークを作ってニッコリしてくれたのがエビちゃんですが、押切もえは、やはり空間の中に佇んで幅を利かせている。
K:身近にいる男性は、新垣結衣とか北川景子とか宮崎あおいとか上戸彩とか優木まおみが好きですが、スーツを着ているもっとオトナの男性達は押切もえが好きなんじゃないかと信じて疑わない私たちがいます。っていうか早い話、AV女優っぽいからもしれないですね。
T:なるほど。それって、通常の適切な恋愛形態から離れた「不倫」や「セフレ」的需要、或いは妄想に応えていくのが押切もえ、という意味合いも含んでいるのでしょうか?
K:もちろん含みます。なんかやっぱり負のオーラを感じるんですよね。しゃしゃり出てくる割には自ら2番目に甘んじるという一面もありますし。どこに人気があるのかいまいち分からないのに人気があるのだとすれば、おじさんは彼女の事を好きなんじゃないかという期待もこめて。
T:メールを貰った中に、「『男子ってバカだよね』の上に成り立つ『カワイイ』を集めたものが『CanCam』なんです」っていうくだりがあってとても突き刺さったんですね。この意味を教えてくださいますか?
K:職業柄、毎月多くのファッション雑誌を読んでいますけど「CanCam」がどんな雑誌かと問われれば、それは「徹底した男子目線への意識」なんですね。もはや実際の男子から見て、その「男子目線」って実態が定かでないものに違いないんですけどね。「私の理想の男の子はこうゆう女の子が好き」に近いような気もしますけど。ともかく男子目線への“逃げ”がたくさん詰まった雑誌だと思うんです。逃げっていうのは「男子ってこうゆう格好が好きなんでしょ」って言いながら服を選ぶみたいなことです。「男子って…」って言えば自分の責任にならないから安心、みたいな考えがある。「男子ってバカだよね、こんなん着てればイイんでしょ」って。
T:先ほど、押切もえには常に比較対象がいたという話がありました。押切、山田、蛯原というトリオは「CanCam」のブームを象徴する3人でした。そこには分かりやすい構図がありましたよね。それは今おっしゃった「男って…」から来る男受けの濃度だったんだと思います。蛯原は勿論強い。押切は弱い、むしろ女性に向かった。山田は両刀使いに見えた。ありがちな設定ですが、男っぽい性格だけど恋は盛ん的なプチ姉御肌、ということですよね。この分析は女子的に総括して正しいですか?
K:そうですね。正しいと思います。ただし、体感的には、山田優は参戦していないと考えても良さそうです。山田優はモデルというよりタレント臭がプンプンしていたので、「CanCam」モデルの山田優というより、タレントとしての山田優が先行していたと思われます。逆に蛯原友里と押切もえは「CanCam」ありきだったので比較しやすかったと。
T:この3人のこれからって、どうなっていくんでしょう?
K:エビちゃんは子供が出来ればママモデル枠に乗り込むでしょうね。または美容関係かアパレル関係で何かする。化粧品ブランドを立ち上げた君島十和子のように。エビちゃんは意外としぶとく「エビちゃん」ブランドをゴリ押していくはずです。山田優は、中村江里子みたいに外国で暮らすか、もしくは自然食なんかをやり始めるかもしれない。RIKACOのように唐突にセレブを気取る可能性もありますね。押切もえは川島なお美のように犬を飼う。或いは、相川七瀬のようにスピリチュアルブームに乗っかる手も考えられますね。
T:アパレル系の仕事をされていて、「今っぽさ」を考えた時、男子と女子の共に許容される人って、今現在、誰なんでしょうか。或いはどういう特徴を持った人なのでしょう。
K:「今っぽさ」と「男女許容」をベースに考えると、北川景子に尽きるんじゃないでしょうか。女性誌出身で女子票だけでのし上がり、露出が増えて、後になって男子にも人気が出る。この流れが、男女ともに許容されるのには最適の方法だと思います。男性サイドからの進出だと女子票を集めるのにやはり時間がかかるんですよね。男の子の方が女の子に対してやはり寛大ですから。今っぽさで考えられる特徴としては、いわゆる今流行のメイクが似合う顔と、大根役者という危うさ、この2点です。この今っぽさを考えると、深田恭子なんかも女子票が危うい人物なのではと思うんです。ずっと第一線で出てはいるけれど、必死に髪切ったりしてしてるし、常に今っぽさをギリギリ保っている気がします。
T:深田恭子って、「グラマラスだと誰にウケるのか」という大きな問いかけを投げかけている人だと思っているのですが、結局の所、男子はグラマラスよりも「やせてるけど巨乳」が好きだし、女子はグラマラスを「デブ寸前のビューティーを好意的に変換した言葉」だと疑っている。つまり、深田恭子に向かう熱視線って本当にあるんだろうかと思うわけです。
K:このデブ寸前のビューティーに該当するのが平子理沙ですね。深田恭子は完全にそこに乗っかっていると思います。平子理沙が先導するグラマラスの定義に、深田恭子は確かに当てはまるんです。なので、ちょっと輝きを取り戻した感じがする。女子の中にもうっかり熱視線を送った者がいたかと思いますが、それは多分一時的なものです。このグラマラスブームなんですけど、ずっとダイエットしてきた疲れが出たんだろうと思っています。これに並行してナチュラルヘルシー派みたいなのも存在していて、これに代表されるのが長谷川潤、SHIHOにあたるのかと。で、これにのっかっているのが安田美沙子やらですね。
T:唐突ですが、綾瀬はるかって、女子からの「認定印」は押されていると考えていいんですか?
K:綾瀬はるかですか、認定されてますよ。しかし、綾瀬はるかが一番好き!という評価はあんまり聞きません。巨乳であることが、彼女への迷いなき一票を踏みとどまらせています。
T:女性誌に出てくるモデルや女優って、あっという間に入れ替わりますよね。北川景子が浮上してきた時の鈴木えみの消え去り方はとてつもなく残忍に見えました。「あの人は飽きられた」と言葉で言うのは簡単ですが、それをもっと具体的にしていただくことって出来ますか? つまり、これがこうなるともうだめだと。例えば、女性誌表紙の定番という事実を看板にテレビドラマのちょい役に出てしまう、とか…。
K:鈴木えみは佐々木希にとって変わられた感があります。次の世代の雑誌にうまいこと移行できなくて、後続の若さに負けるパターンです。これって見ている方もツラくなってきて、もうダメだと感じざるをえません。その後は香里奈の通販「Nissen」に代表されるように、自分がダサイと思っていたはずの所に下りてくるしかない。バラエティ番組に出たけどチヤホヤされない、加えて面白くないというのも致命傷です。あとは今だと「グータンヌーボ」への出演がその勝敗を分けます。雑誌で見ていて可愛いと思っていた人が、しゃべり出してスベってると一気に冷めます。あと、深田恭子や安田美沙子がそうですが、ランニングとか、競馬とか、K1とか、エヴァンゲリオンとかサッカーとか家電とか、急に「好きです」って専門家みたいに出てこられると冷めますよね。面白くない。ちなみに今、女子が間違いなく好きなのが長谷川潤だと思われます。ギャルからヨガ好きOLまでの要素をくまなく網羅しているのが彼女なんです。
T:長谷川潤の魅力というのは男子には伝わってこないんですよね。雑な分析ですが、エキゾチックはやはり男子の大衆には響かないのかなと。なんか、男子を必要としないアクティブさを感じますよね。それを肉食系と総括するのは短絡的だと思っていますが、そこでやはり、押切もえの「負のオーラ」が気になってきてしまう。この比較で考えれば、必ず押切は男子にウケるはずなのですが、彼女の負のオーラは独り立ちしている。つまり、「負」なのにアクティブという、こちらはこちらで男子不要の構造が出来上がっているように思えてきました。勢いでがっつく若い男子、金と知識と経験のオッサンの双方を拒絶する気がする。これからの押切もえがこうであれば、女子は受け入れるし、こうであれば男子が受け入れてくれるだろうという予想を最後に頂けますでしょうか?
K:長谷川潤は男子を必要としない明るさがあります。そこも魅力的なんですかね。あくまで仮定のひとつですが、長谷川潤的女子になることによって無意識に、男子を選別しているのかもしれません。ついてくる男子だけついてくればいい。例えば、以前はあまりモード感を取り入れてこなかった普通の女性誌が、近年こぞってモードっぽさを取り入れ始めたのはそうゆう意味を隠し持っていたのかもしれません。モードって一部からしかモテないはずだったのに。そこには「この私のオシャレを超えて近づいてこられる奴だけ近づいてこい!」みたいな気迫があった。海外セレブやモデルのファッションが広く受け入れられるようになった事とも関係がありそうです。レディー・ガガとか、マネしても絶対モテないけど彼女に憧れる女子が多いのはそうゆうことなのかもしれません。
それらと対局にあるフェミニンコンサバを守る「CanCam」が果たしてモテの第一線かと言われるとどうもそれも怪しいぞと。けど彼女たちにはこれを着てれば間違いないという盲目的な何かがあるようなので、それはそれでまだまだ成り立っているというか。まあぁ、狙っている男子像がすでに妄想なのではとの説もありますが。
押切もえ……そうですね、めちゃめちゃ当たる占い師になったら女子は受け入れるし、おっぱい出せば男子も受け入れると思います。結局、おっぱい見られればええんやろ、です。ふぅー、自分で言うのも何ですが、女子ってなんか面倒ですね。
とても刺激的な対話であった。女性タレントやモデルをコントロールする側は、入念なプロモーションやイメージ作りに励む。しかし、それが、体感する側にそのままスッポリと当てはまることはない。つまり受け手を舐めてかかると、いくら大きなメディアで大きな面を晒していようとも、明日には相手にされなくなり、明後日には忘れ去られる。このアパレル系勤務女性との対話は、その危険性が常に潜んでいることを再認識させてくれる。タレントをビジネス的に解析する際に「イメージ戦略」という言葉が頻繁に使われるが、上記の話を読めば分かるように、受け手はその戦略なんて鼻で笑いながらその上を闊歩している。さて、この対話をバネにして、次回の論考で、押切もえ論を締めくくりにかかりたい。それにしてもK田さん、ご協力、本当にどうもありがとうございました。
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