インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作
ウミネコサウンズでもuminecosoundsでも、古里が作るのはポップミュージックであることに変わりはない。しかしuminecosoundsの楽曲からは、古里のドロッとした人間味までもが、しっかりと音楽に昇華されているように感じられる。「それをやりたかったんでしょうね」と、古里はポップミュージックに対する考え方の大きな変化を語ってくれた。
古里
自然にいたいっていうか、頑張ってポップミュージックをやろうって感じでもないっていうか。ウミネコサウンズのときは、そこそこの年齢で上京して、「何とか音楽で食いたい」みたいな気持ちがあったから、頑張ってポップにしようと思って、やたらと人の意見を聞いてたんです。でも、そういった中で、音楽が好きで、音楽を楽しんでいたことを忘れちゃってたのかもしれない。そこで葛藤してた時期が長かったから、今は単純に楽しみたいなと思って音楽をやってるだけなんです。
バンドを結成するにあたって、単純にメンバーが見つかったということに加え、もうひとつの大きな要因だったのが、長年連れ添ったマネージャーとの別離だった。ウミネコサンライズ時代に出会ったそのマネージャーは、大きなアーティストを育て上げた実績もあり、歌に関して確固たる意見を持っている人だった。その当時、音楽で食べる道を探し、歌い手としての在り方を模索していた古里は、そのマネージャーと共に歌を重視したポップミュージックを「頑張って」作るようになっていった。それによって、ウミネコサウンズが素晴らしい2作品を残したことも事実だが、音楽本来の楽しさを忘れつつあることに気付いた古里は、ウミネコサウンズの2ndミニアルバム『宇宙旅行』のリリース後に、マネージャーと袂を分かつ決断をしたのだ。
古里
大きな決断だったと思います。そのタイミングで青森に帰ることも考えたし。でも、「自分のやりたいことをやろう」って区切りをつけて、それでバンドになった感じですね。「気持ちいい」とか「楽しい」とか、自分が感じてないと人に伝わるわけがないし、そういうことをちゃんとやろうって。だから、今なら伝わるかも…わかんないけど(笑)。
代弁をさせてもらえば、ここ最近の日本のロック作品の中で、これほどメンバーが楽しそうに作っていることが感じられる作品というのはなかなかない。しかも、彼らは30半ばの古里を最年少とするいい大人たちによる新人バンド。様々な経験を重ね、音楽の楽しみ方を熟知したバンドだからこそ出せるこの雰囲気は、uminecosoundsならではのスペシャルな部分だと言えるだろう。そしてさらに素晴らしいのは、それが趣味の範囲に収まることなく、結果的には、やはり優れたポップミュージックになっているということだ。そこに関しては、古里自身も意識的であることを認めている。
古里
最初からみんなを誘うときに、「多くの人に楽しんでもらえるものをやろう」っていう話はしてるんで、みんなそう思って集まってると思います。まあ、誰でも作って聴いてもらえたら嬉しいから、それだけの話なんですけどね(笑)。
まずは「楽しむこと」を第一に考えるというuminecosoundsのスタンスは、アルバムのレコーディングにもはっきりと表れている。古里といえば、最近はシャムキャッツやふくろうずといった若手バンドのプロデュースを務めていたり、ベースの須藤にしても、様々なバンドの作品にエンジニアとして関わっている。そしてもちろん、ギターのヤマジはdipで、ドラムのコテイスイは髭で、数多くのレコーディング作品を発表しているわけで、この4人のレコーディングとなれば、さぞかしこだわって行われたのだろうと思いきや、こちらが拍子抜けするほどのラフなレコーディングだったという。
古里
このバンドはキャリアの長いメンバーばかりだし、それぞれ明確なサウンドを持っているから、何をやってもそんなに変わらないと思ったし、そこまで嫌な音にならないのもわかってたんで。俺がやりたかったのは「さあ、録音しよう!」って感じじゃなくて、なんだかわかんないけど録れちゃって、「いいんじゃない?」みたいな、深く考えないことがやりたかったんです。
実際にメインのレコーディングが行われたのは、スタジオではなく、亀戸HARDCOREというライブハウス。箱が空いている日を使って、それが実際にアルバムに収録されるかわからないままレコーディングが続けられたのだという。機材もほとんどがその場にあるものを使い、演奏後にマイクが外れてるのを発見しても、「まあ、いっか」ぐらいのテンションで作業が進められた。
古里
僕は宅録も好きなんだけど、宅録には、「どこへ行くかわからない」「偶然こうなっちゃった」みたいな、録りながら色々と試していく面白さがあるんです。だから今回のレコーディングは、「ちょっと規模の大きい宅録」みたいな感じでした。元々ロックって、そういうバンドの自由な発想が面白いわけで、ロックの歴史を勉強して、方法論を身につけて作るようなものではないですよね。「俺たちはこれしかできません」っていうことがやりたかったんです。
念のために書いておくと、『uminecosounds』が低音質の超ローファイな作品かといえば、決してそんなことはない。前述したように、彼ら4人は経験豊富な大人たち。その熟成された演奏の旨味や、ときにはノイジーでありながら、耳を疲れさせることのないまろやかな音質は、ぜひ実際に体験してみてほしい。
アルバムのラストを飾る"まちのあかり"は、今に至る古里の様々な心境が凝縮された、本作随一の名曲である。
古里
この曲を作り始めたときは、音楽をあきらめて青森に帰ろうかなって思ってた時期で。そのときフッと、ほとんどの人が夢を叶えられずに帰っていくのが東京なんだなって気がついて、急にいろんな感情が湧いて出てきたんです。そんな頃にお台場に遊びに行って、レインボーブリッジを車で走りながら東京の夜景を見たときに、なんか感動したんですよね。「俺はずっとここにいたんだな」と思って。とにかく圧倒されちゃって、これを何とかして表現したいと思って、いろんな人と夜景について話してみたら、みんな答えることが違うんです。「絶望的な気分になる」っていう人もいれば、「前向きになれる」っていう人もいて、それも面白いなって。まさに「混沌」ですよね。
シンプルな歌とギターから始まって、徐々にサイケデリックなバンドサウンドへと移っていくこの曲が映し出すのは、そんな圧倒的な力を持つ、「美しい混沌」だ。さらに古里は、昨年の震災を受けて、この曲に<絶望も欲望も希望もまだ終わらない>という1行を書き足している。そう、誰もが日々起こる様々な出来事に圧倒され、それは今でも多くの敗者を生み続けているが、それでもこの混沌はこれからも続いていく。それを肯定するでも否定するでもなく、ただ美しい曲として鳴らした"まちのあかり"は、理想のバンドに辿りついた現在の古里にとって、これからも続く音楽活動への決意表明であり、「それさえも楽しんでいこうよ」という、軽やかな現在地の証明でもあるように思う。
古里
何かをあきらめようと思ったり、うまくいかないなんてことは、みんな経験してると思うんです。そういういろんな経験をした上で今は、楽しく生きていけたらいいなって思う。今の4人はいつも一緒に何かをしてるわけじゃないけど、音を鳴らすならこの4人で鳴らしたいんですよね。あんまり深く考えずに、「音を聴けばわかるでしょ?」って感じなんで、ホントに楽しいんですよね。
uminecosounds
1st Album
『uminecosounds』
2012年6月6日発売
価格:2,500円(税込)
CNRR-007 / CINRA RECORDS
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- 1. umineco
- 2. Garden
- 3. サルとバナナ
- 4. イエロームーン
- 5. ジリジリ
- 6. イトシオ
- 7. ネットサーファー
- 8. 25000マイル
- 9. まぶた
- 10. 雪アソビ
- 11. まちのあかり
2012年6月21日(水)
1st album『uminecosounds』発売記念ワンマンライブ
『第3回 ウミネコ集会』
会場:東京都 渋谷O-nest
OPEN 19:00 / START 19:30
料金:前売2,200円 当日2,500円(共にドリンク別)
出演:uminecosounds
ゲスト:トモフスキー
フード:ウミネコカレー
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